28-16 : 銀の結い紐
運命剣の光の中で、シェルミアの身体が真紅の呪いたちのわずかな隙間を縫うように走り抜けていく。
「……っ!」
想像を超える
それもまた、“シェルミアが見てきたもの”と寸分違わない光景だった。
アランゲイルが突き出した呪剣の切っ先が、シェルミアの眼前に迫る。それを視界に捉えながら、姫騎士は
紙一重よりも、更に薄く。“人造呪剣ゲイル”の刃が頬を
――ブチリ。
そして頭の後ろで、長い髪を1本に束ねていた銀の結い
――エレン……ごめんなさい……。
……。
――ありがとう。
“銀の結い
シェルミアの柔の剣が鋭く2度
「うっ……ぬ゛ぅっ!」
完全に動きを止めたアランゲイルの、歯を食い縛る
「止まった……! これで……!」
兄を行かせない
そこまでが、シェルミアの見た未来だった。選択された世界の、絶対の有り
あとは、あの頭の割れるような痛みに耐えさえすればいい。走る足の運びを弱めることなく、断固とした覚悟で、シェルミアはそんな痛みなど何でもないと強く念じた。
「兄上……っ!」
兄の下に駆け寄る妹が、剣を持っていない方の手を前に伸ばした。
……。
……。
……。
――ドサリッ。
……。
……。
……。
それは、アランゲイルに手を触れるより先に、シェルミアが膝を突いて倒れ込んだ音だった。
「――……うあ゛ぁぁァ゛ああア゛あぁぁぁ゛ぁぁぁ゛あぁぁあぁっッ゛っ!!!」
シェルミアの聞くに堪えない絶叫が、玉座の間の沈黙を切り裂いた。
まるで、先の潰れた
「あ゛ッ……! ア゛っ! 痛゛い……イタ、イ゛……っ、あぁぁ゛ああ゛ああぁっ!!!!」
思わず「痛い」と口にしなければ気が触れてしまいそうなほどの、救いようのない苦痛だった。視界がグルグルと回り、平衡感覚を消失した身体が不気味な浮遊感に包まれる。冷たい汗が全身を
グチグチと、頭の中で肉の
ボトボトと音を立てて、左目から真っ黒に
「……っ……はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……! うっ……」
そうしてどれだけの時間が過ぎたのか分からないまま、激痛から開放されたシェルミアがゆっくりと顔を上げた。左の頬には
ゆらり。と、視界の端に影がよぎる。はっとしてそれが見えた方向に目を向けると、そこには斬りつけられて立ち上がれなくなった両脚を上半身の力だけで引き
「うっ、く……! この
そう叫びながら、兄が地面を
「そんな呪いなんかに゛……! そんなものに、もう゛、頼らないで下さい゛!!」
歯を食いしばった妹が、こちらも吐き気を伴う
兄妹の振るったそれぞれの剣身から火花と屍血が飛び散り、“運命剣リーム”の鋭い剣筋が“人造呪剣ゲイル”の芯を打ち抜き、手のひらからその真紅の剣を
――ボキリッ。
しかし次の瞬間に聞こえたのは、呪剣が
「……頼ってなんかいないよ、シェルミア……」
折れて不自然な方向へと曲がった自分の右腕とシェルミアの驚く顔を同時に視界に収めながら、アランゲイルが不敵にニヤリと
「この呪剣はもう、頼らなくてはならない道具ではない……」
ミチリ。と、肉の
「もうとっくに……この“ゲイル”は、その名の通り……私の一部になっているのだから……」
へし折れても
「そ……ん゛な……っ」
「もう、止まれないと……そう言っただろう、シェルミア」
運命剣に
引き
「“ゲイル”よ……こんなことで、私を立ち止まらせるな……」
ぐにゃりと折れ曲がった自分の腕とそこに癒着した呪剣を見つめて、アランゲイルが冷たい声で言った。
「――ギシャァアア!!」
“人造呪剣ゲイル”そのものが、己が貪り従える呪いたちと同じ声で
そして呪剣の柄が脈打ったように見えた直後、ドスリと肉の貫かれる音と、ビシャリと血の飛び散る音が同時に聞こえた。
それは“人造呪剣ゲイル”の柄から生えた無数の
「え……」
目の前で兄の腕がめった刺しになったのを見て、シェルミアが思わず声を漏らす。
その視界の端で、アランゲイルが痛みで引き
「同情なんて、している場合じゃないよ、シェルミア」
アランゲイルの折れた腕を貫いた無数の
「!!」
頭で考えるより先に、座り込んだままのシェルミアは反射的に
真紅の剣が兄の腕にやってみせたのは、治癒などではなく、全くその逆――受けた傷以上の損傷と、それを経て肉と骨に
「……はははははっ! そうだ! 屍の山の中から生まれた呪剣ならば! このぐらいのことはやってみせろ!」
ズルズルと歩けなくなった身体を引き
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