28-14 : 貴き者
「余は至高の王なるぞ。この座より見上げねばならぬものなどない。並び立つ者もおりはせぬ。余が見下げるのではない――余の前に立つ者が皆、等しく
リザリアのその言葉は、威圧でも虚勢でもなく、ただただ事実を告げていた。
「その傲慢さが、“宵の国”の王の宿す器か……」
アランゲイルが、一切の
「傲慢ではない。余を前にして頭を垂れる者は皆、このリザリアの名の下に全てこれ平等である。魔族最高位の守護者であろうと、人の子の赤子であろうと、罪人であろうと、余の言葉は
“
その言葉に、アランゲイルの表情が曇る。
「で、あるならば……ここに
「無論ぞ」
アランゲイルの試すような口の利き方に、リザリアが即答する。余りにも当然の、本来ならば答えることすら愚かしい問いであるとでも言うふうに、“少女の姿をした何か”は半ば
「はは……はははは……」
凶王の相を浮かべた王子が額に左手をやり、「これは参った」とでも言いたげに首を振った。思わず、冷たい失笑が
「くくくく……ははははは……。……。……。ならば、“
その声は、怒りと破滅への衝動とで、震えていた。
「自明の問いに答える務めはない。余は、同じことを2度は言わぬ」
リザリアのその言葉が、アランゲイルを突き放した。
……。
……。
……。
「……ははははははは!」
突然、アランゲイルが頭を
「はははははは! 私は! 私は……! こうまでして、ここまで屍を積み上げてさえ、糾弾はおろか相手にもされないのか……ははははは! これは、これは傑作だ!」
王子の
「“
リザリアの神聖性としか言いようのない気配に当てられ、気の触れたように
「――それならば……私の
ぐるぐると渦を巻いた兄の瞳が、隣で無言のまま
「こんなにまでしたというのに……! あの
取り乱したアランゲイルが、うなだれた妹の肩を
「何のために……何のために……! ははっ! はははっ! はははははははっ!! “第2王子”だった私なら! あの無力と孤独と自己嫌悪に
そして天を仰ぎ見たアランゲイルが、見知らぬ場所へ取り残された幼子のように、ぐわと口を開けて怒りの声で叫ぶ姿がそこにはあった。その悲鳴は無様で、狂おしく、空虚で凄惨で、どこまでも物悲しかった。
「私は……私は……! 見返してやりたかっただけだったのに……! この
ただ胸元に噴き上がってくる感情に任せて、“王子アランゲイル”は叫び続けた。
凶王の器を得た代償のその果てに、救いを求めるように歩き続けた末に、“宵の国”の最果てで
「――
玉座の上で
「黙れぇぇえええ!!!」
ズチャリ。と、アランゲイルの右手に垂れ下がる“人造呪剣ゲイル”が
……。
……。
……。
無音と静止だけが、どこにも
「……」
身じろぎひとつせず、顔色ひとつ変えないまま、ただ
「……」
“宵の国”の絶対君主は、口を噤んだまま、
そしてふわりと開いた真っ白な
「――
「グ……グル、ヴ……」
“人造呪剣ゲイル”に取り込まれ意思を持たない道具に
「イ……ア、ギラ……エイ、ガ……」
“少女の姿をした何か”への忠節を最後に示してみせた魔族兵が、呪いと成り果てたその身を自らの意思で崩壊させて、玉座を照らす
“
「……余とこの玉座は
リザリアが玉座の上から見下ろす先で、真紅の剣を突いてその柄に額を
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