勇者と魔王の付添人やってます
@Karamiru
第1話私の仕事
「……終わったか?」
「はい、魔王様。週一検査魔王城警備の出席数は三分の一です」
「三分の二は欠席か……」
「……はい」
「しっかり魔物やってる!よろしい!」
「はい」
んな訳ねぇだろ。
悪者やってる立場だけど誉めることじゃないし、明日には欠席した数万の魔物の理由を全て書類にまとめる身にもなれ。
「よしよし。そんじゃサリドはいつも通り、周りに気づかれずに勇者を見守りに行け」
僕はため息を我慢しながら、魔王の期待通りの返事をした。
「はい」
僕は見慣れた広大な部屋に豪華絢爛な椅子を中央に置いた、石造りの部屋を後にした。
紫の長髪に赤いつり目、そして巨乳がなかったらとっくにこの仕事など放棄してる。
上から目線でハイヒールを悪戯にコツコツと鳴らし、いつも下から見上げる瞬間に見える、ふとももの接着部位が僕の生き甲斐だ。
○
「ほら、頑張ってください!勇者様!」
「や、ややっぱ無理だよ!リドリドがやって!」
「ここで初めてを卒業しないとこれからが、大変ですよ!」
「むりむり!絶対痛いよ!」
木造のカウンターテーブルに筋骨隆々のおっさんが拳を落とした。
「おきゃくさまぁー……冷やかしなら帰ってくれ!」
「ひぃやあ!!ごべんなざい!!」
勇者はセミロングの金髪を揺らしながら、輝く涙を落として宿屋の片隅に踞った。
「心が痛い」とか呟いてる。
「僕とあの泣いてる女の子の二人で一泊分お願いします」
「あぁ、ほら鍵だ。心中察するぜ、お付きの人」
「ありがとうございます」
ああ、心に染みる。人の優しさとは何故こんなに、虫酸が走るのだろうか。気持ち悪い。
「ほら、行きますよ。勇者様」
肩をトントンと叩いて振り返った勇者に鍵を見せる。
「怒ってない……?」
「はい」
ひきつった微笑みになってないことを祈る。
「リドリドぉぉ!!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を僕の胸に当てて、抱きついてきた。
少ない給料からクリーニング代が引かれるなあ。
勇者は片腕を離し、僕の鳩尾に数寸の狂いもなく拳をえぐりこませてきた。
「リドリドが私をいじめてきたのが悪いんだからねぇ!」
そのまま三発入れてきたので、四発目が入る瞬間に腹へと膝蹴りをして意識を落とさせた。
勇者は泣くと手当たり次第に暴力を奮って、ストレス発散をしようとする。もう一度、ストレス発散だ。
カウンター側から生ぬるい、甘い声が耳に入ってきた。
「おっ客様ぁー!訳ありな事情はともかくぅ、お部屋の方を案内いたしますね!」
振り向くと、メイド姿の今日の出席確認で現れなかった部下であるメイメイがいた。
いつもはピンクのショートボブで眼鏡をかけて、唯一真面目な部下で最近まで書類の整理を任せていたのに、ぱったりと来なくなったやつだ。
今は短いツインテールに、ふりふりやリボンが多いピンクのメイド服を着て笑顔を振り撒いてる。
「……おい。お前が訳ありのようだな」
不眠不休の書類整理がフラッシュバックした。
今までにない憎悪を込めて睨んだ。
「…………。……おっきゃくぅさまぁー。なにを言っているのかぁ「男だよね?」
「はい、すみません。サリド様口外厳守でお願い致します」
すぐに土下座をしたので、今回は許してやろうと鼻で笑ったあと、目を離して店主のおっさんに部屋の位置を聞くために、気を失った勇者をその場に置いて鳩尾へのダメージを庇いながら歩きだした。
「こんなところであたしのドキドキぼろりもあるよ女装作戦が終わってたまるかあぁぁ!!」
土下座の体勢から最低限の動きのみで素早く起き、そして右拳に込めた魔力は上司の腹をだるま落としごとく吹き飛ばすほどの威力だ。
「あっ」
野太い声を発して、地面に落ちてあった勇者に躓いたメイメイは必死に手を伸ばした。
最後の悪あがきだって分かってる。
でも、届け。
メイメイは僕の下半身に身に付けているズボンとパンツを掴み、地面へとタッチダウンさせた。
僕の下半身のちっちゃいパオーンがぼろりして周囲の視線が向けられた。
「おろろろろろろろろ」
色々一杯になって吐いた。
このまま楽になりたい。
宿屋で数多の物を落とした僕だが、最後に意識を落とした。
宿屋で勇者パーティーは全滅した。
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