第8話 自殺事件

 


 ***



 はあ、なかなかいい証拠がそろっている事件ないもんだなー。

「只野君、もう三人も逮捕してるんだよ。入って半年で。そろそろ上からねえー。そのねえー」

「逮捕してるのは桜田さんですから」

 ファイルと手帳を見比べてる私に課長が話しかけている。逮捕してるのに苦情ってなんなのよ! せっかく桜田さん戻すためにもと桜田さんに手錠かけてもらってるのに、桜田さんに異動の話どころか私に苦情って。

「そうなんだよね。あの、それがね、うん」

 ああ、桜田さんが戻るのが問題なんだな。何があったか知らないけどこの半年一緒にいるが彼は優秀な刑事だ。こんなとこに、おいとくのはもったいない。もう桜田さんは興味のないプラモつくりは諦めているようだ。最近はパソコンでなんかしてる。目の前なので何やってるかは見えないんだよね。


「犯人を捕まえて被害者が安心出来るようにして、被害者家族の無念をはらしてるんです。何がいけないんですか? やり方ですか?」

「まあ、そのやり方っていえばそうなんだけど」


 前にあんまり言われるんで、この課ではいけないのかと思い課長に他の課へ情報を流してもらったが、事件解決どころか完全に無視された上に、痺れを切らして捜査をはじめたら妨害まで受けた。

 なので、もう自由にすると決めた。父からも文句を言われたが気にしない。涼と住んでて良かった。毎日小言を家では父に仕事場では課長にとなるところだったよ。


 ファイルに没頭しよう。話にならない。


 そう言えば一件目の事件の犯人は殺人、殺人遺棄、さらに七件の傷害事件の罪で死刑となった。篠田に会いに行くと顔も何もかもそのままだったが、穏やかな顔つきだった。私はチラリと篠田が脅されているのを見たけれど、殺人や殺人未遂を起こしてまで逃げたくなるなんてどんな状態だったんだろう。そして、死刑を素直に受け入れる状態って。



 それを見ると私が力を持っていることは誰にもバレない方がいいみたいだ。今のところ篠田が勘付いてるかもしれないけど、涼しか知らない。桜田さんは私をただの推理オタクだと思ってるみたい。まあ、ずっとそう思っててくれればいいけど。



 一つどうしても解きたい事件がある。これは三年前の事件で。とある高校で自殺が流行ったというただの自殺事件として扱われている。

 もちろん私は真実を見ている。が、証拠がないと話にならない。なにせ真犯人と事件の真相を私に見せたのは例の力だから。力は人を狂わせる。篠田も欲をかかなけれバレなかったんだ。この事件の犯人も欲を自分の貪欲なまでの気持ちをコントロールしていなければまた同じようなことをしてるはず。年代を最近までずらして自殺でヒットしないか探す。大学だ、大学生になってる可能性が高い。あ、あった。また自殺だが手口が最初は同じだけど次から変えてる。全てのファイルを抱えてデスクへ向かう。なにかある。あるはずなの。

 あ、これだ。ファイルで参考になるものを次々と手帳に写して行く。ガタリと立ち上がると、前にいる桜田さんも立ち上がる。

 いい加減私の挙動をわかってきたみたいだ。


 もう覚えた証拠の保管室で待っていると桜田さんが鍵の束をもって来て黙ってドアを開ける。電気をつけて探しに行く。この犯人はまだ犯行を続けている。自殺を装った殺人を。どう攻めればいいかわからないがまずは証拠だ。次々と箱を開けて行く。取り出したものを桜田さんが記入して行く。自殺の事件だとか一言も言わない。

 これで、何とかなるだろう。

 今度は箱を二人掛かりで直して行く。証拠をカバンに詰めて保管室の電気を消し鍵を閉める。


 桜田さんが鍵を返しに行ってる間に鑑識へ。

 鑑識の書類に記入してハンコを押す。もう課長はこのことでは文句を言わなくなった。あれ? 聞いてないだけ?

 涼を呼ぼうとしたらもうこちらに来てる。同僚に言われてるみたい。

「今日はこれ?」

「うん。お願いします」

「じゃあ、一時間でなんとかやってみるね」

「お願い」

 鑑識を出ると桜田さんが待っていた。

「待ちか?」

「はい。少し署内で調べるんで……」

「じゃあ、俺は戻ってるから」

「はい。お願いします」

 桜田さんが立ち去る。調べたい事は最近の事実の確認。16課は最近の情報は持っていないから。聞きに行くと噂を知っているからか嫌そうな顔をされるけど、まあ今回はただの自殺だしと情報を教えてもらった。

 先に16課に戻り顔を出す。課長が何か言いそうだったけど、桜田さんが前を横切る。

「いってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 条件反射だろうな、つい課長は返事をしてしまうようだ。私は会釈で済ませ扉を閉める。私が何か言うと止められそうなので。

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