鍍金の賢者⑥


 ◆◆◆




 激しくぶつかる上下からの魔力、それは突起していた岩を砕き穴ぐら全体を倒壊させそうな勢いでその質量を膨らませ続ける!



 「オヤマダ! このままじゃ、ここが持たない! 皆で仲良く生き埋めだよ!」



 カランカが、叫ぶ。


 

 「…っ、分かてる…!」

 


 俺はもつれる足を引きずって、砕けた門の残骸に駆け寄る。



 …出来る事ならやりたくは無いが、この際仕方がない…!



 コードモード。


 門の残骸をレンブランの目に映るコードの並びが合致する。



 砕けたとは言え原料は上の大聖堂部分に使われていた鉱石と同じだな…さっき、最上階で床を破壊するためにコードを切る事が出来たんだから多分繋ぐ事もできるはずだ。



 俺は、途切れネジれた数字の羅列にスマホの画面をイメージで人差し指を滑らせる…すると0が途切れた1の所に飛ぶ。



 おお、上手くいくもんだ!



 「よし…うっ!」



 強烈な吐き気に、俺は両手で口を押さえ胃液を飲み込む!



 いくら、皆が応戦しているとは言えあのくそ忌々しい女神の加護は完全に防げる物ではないって事か。



 集中しろ…足りない部分は周囲から補って…指一本じゃたりねぇ!!



 吐き気が込上げる中、体から不足している糖類を無理やり捻出して脳を限界ギリギリまでフル回転させ砕けた精霊門の修復を行なうが一度砕けた精霊門は精霊の国と繋がりは切れている為、修復した所で使えるとは限らない。



 が、このまま生き埋めはごめんだ!




 「くそっ…駄目かっ…!」


  

 コードを繋ぎやっと修復した精霊門は、やはりなんの反応もない只の門の形をした白い鉱石にすぎない!

 

 


 胃も空っぽな所に脳ミソ無理やり回転させた所為で、目の前が霞が掛かったようにしらんでぐりんと回転する。


 

 ガッ!



 額に激痛が走るまで、俺は自分が門の上に倒れた事にさえ気付けなかった!



 ああ、ヤバっ…なんとかしないと行けないのに…!



 あはw 


 所詮、俺なんて…レンブランが命がけで…駄目だ…ねむく…。




 「こっじ」



 俺の頬をぺたぺた優しく撫でる小さな手。



 「ねんねん め! こっじ、いこ!」



 ぺたり、と小さな手が門に触れる。



 

 すると、足りない分を周囲の岩石から調達した歪に癒着したように無理やり修復した部分に白い光が広がった。



 「あ…? おまえ…」


 

 鉛のように重い体をようやく起して、発光する門のコードを確認する…までもない。



 門の真ん中に浮かぶ白銀に輝く『翼』これは、門が向こうに繋がった事を意味する。



 ズプッ。



 ん?



 体を起すためについていた右手に違和感って、ちょとぉぉぉぉぉ!!!



 沈んでる!


 まるで底なし沼にでも嵌ったみたいに! 


 なに? 


 門なんだから開くとかじゃないの!?


 沈むってなにそれ!?


 

 「ちょっ! タンマ! ストップ!」

 


 もがけばもがくほどにって、お決まりパターンであっという間に手だけじゃない! 


 もう、足もズブズブと門に飲まれるみたいに!



 みれば、赤ん坊ももう首まで…しかもめちゃ笑顔で。



 なにそれ怖い。



 「みなさん、オヤマダさんが!!」


 

 異変に気が付いたリーフベルが、叫ぶ!



 「はぁ、やっとかい? 全力でいくよ!」



 カランカの合図で、ガリィちゃんとメイヤが今まで我慢してたとばかりに放出していた魔力の量を引き上げる!



 「構わないね? リーフベル」



 一旦剣を引いたカランカの問いに、リーフベルは静かに頷く。



 カランカの大地の双剣が、赤々燃えるように熱をはっする…あ、あれここに来るときあの山に風穴開けたヤツだ。



 「下がりな!!」



 カランカの激がとび、ガリィちゃんとメイヤはその場から飛退く。




 「貫け、紅蓮血牙」



 血のように赤い、巨大な熱の柱が真上に向って放たれ大司教の放った白い閃光を飲み込み全てを溶かし焼きつくす。


 

 うわ~…今の何人死んだ?



 「ちっ」



 舌打ちとともにカランカは忌々しいとばかりに、上を睨む。



 「ふぁ、さすがれちねアレをふせぐれちか…」



 メイヤも呆れたように関心するように上を見上げる…うん、俺にはなにも見えない!


 

 なに? なんなの? こいつ等視力いくつだよ!?

 



 「コージ!」


 「え? うお!?」



 突然、じゃぽんとガリィちゃんが俺の傍に飛び込んできた!


 ここは引き上げるとかの選択肢があったはず! つか、少し警戒しようよ!



 「ちょ! いきなり飛び込む!?」


 「だって、赤ちゃんもう先にいちゃったよ?」



 は?



 ガリィちゃんに言われて見回すが姿がない…。


 ああ、そうですよね?


 俺だってもう胸まで沈んでますから…。



 「って、マジか!? ちょっとぉぉぉぉぉぉ!!」


 「ああ! コージ! まって、ガリィも!」



 俺は、素もぐりの要領で頭を液状化した門につっこみそのまま潜る。




 ドブン! ゴポッ…。



 暗い。


 へんな感じだ…言えるのは『水』じゃないって事、息は出来るし視界はクリアだ只濡れてるのとは違う感触がねっとりと体中にまとわりつく。



 赤ん坊の姿を探して、下へ下へと潜る…と言うかまるで吸い寄せられるように沈む。



 追いついたガリィちゃんが、俺の肩を掴んでにっこり笑った。



 取り合えず、はぐれないようにガリィちゃんと手を繋ぐ。 


 

 下に沈むにつれて段々と明るくなりやっと周囲が見渡せるが、やっぱり赤ん坊の姿は見えない。



 ヤバイ、マジでどこ行った!?



 俺は、焦る気持ちを抑える事が出来ず必死に手をかき足をばたつかせて下を目指す!



 気が付けば、底のほうからの光は青くまるで_________ズルッ。




 「_________は?」



 目に映ったのは青い空。



 白い雲。


 

 緑の大地。



 そして、ニュートンの法則よろしく万有引力により地面へと運動エネルギーを…あれ? 重力事態の発見はアリストテレ______



 「コージ! しっかりして! 落ちてる! ガリィたち落ちてるの!」



 「ひゃぶ!? ぶひゃう!!???」


 

 うっかり口を開いた拍子に大量の風圧で、頬が波打つ!



 はい!



 俺達ただいま絶賛落下中なうwww



 くっそ!


 異世界名物『高いところからの落下』とかマジでいらぬぇぇぇぇぇぇぇ!!!



 

 「あ!!」


 

 ガリィちゃんが遥か前方を指差す。



 いた!



 茶色いローブ! 赤ん坊だ!



 「まって! コージ!」



 俺は、ガリィちゃんから手を離して出来る限り体を地面と垂直にした。



 こうすれば落下速度は上がるはず、俺のほうが重いんだ追いつける!



                ◆◆◆




 ぐんぐん上がる落下速度。



 一方、前方に見据えた小さな体はまるで気流に弄ばれるようにもみくちゃにされながら落下を続ける。


 着てるローブが風を受け、速度は多少安定しているとは言えいつかは地面に衝突するだろう。



 チッ! 


 なんで!?


 赤ん坊は仮にも『勇者』なんだろ!


 こーゆーときさぁなんかほらラッキーとか無い訳!?



 

 「もっ…ずごじっ…!」



 追いついた俺は、今度は手足を広げ体を地面と水平に保ち何とか赤ん坊へと手を伸ばす。



 ガッシ!



 やった! 掴んだ!!


 俺は掴んだローブをたぐって赤ん坊を抱き寄せる。



 ビチャ!



 「っつ!?」



 突如顔面に何かがはね一瞬視界が赤く…は? 赤?



 抱き寄せた赤ん坊は、鼻血を垂れ流しなら顔面蒼白で意識がない!



 気圧か! 



 そして気が付く、俺がこうやって赤ん坊を捕まえたところで地面に激突という事態を回避するのは________ガッシ。



 腰の辺りを抱えるように腕がまきつく。



 

 「コージ! 赤ちゃん落とさないでね!」



 赤ん坊を抱えた俺を後ろから腰を抱え、ぴったりと張り付いたガリィちゃんは、背にした地面を振り返るように片手を伸ばし手の平に魔力を集中させる。


 恐らく、地面に雷撃を打って反動で落下速度を落とすつもりだ!



 俺は来る衝撃に備え、赤ん坊を抱きしめそれが合図とばかりに黄色い稲妻がガリィちゃんの手に集まり放たれ様とした時だった!




 「やーめーるーれちぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」



 銀色の塊が、ガリィちゃんの側頭部に激突する。



 「いたぁぁぁぁ! なにすんだ! ちっさいの!」



 「ちっさい言うなれち!」



 

 もはや涙目のメイヤが、ガリィちゃんをギロリと睨む。



 「怖かったれちぃ! 不要に契約者同士が離れるとどうなるか説明したはずれち!!!」



 ああ、そういう事か。



 ガリィちゃんとメイヤは現在精霊契約状態、それもガリィちゃんが『主』でメイヤが『従』。


 つまり、精霊契約の制約はんちゅうから逸脱するくらい互いが離れた場合『従』は『主』の場所に強制的引き戻される。


 

 多分、メイヤは落下の為離れてしまったガリィちゃんのところに強制的に引きずられたんだ…超高速で…さぞ怖かっただろう。



 ガリィちゃんは、睨むメイヤを無視して魔力を集中させる。



 「やめるれち! 下には精霊たちの村があるれちよ!」



 「そんな事いっても!」



 ガリィちゃんの顔に焦りが浮かぶ。



 無理も無い、俺たちは大分落下してしまった。



 速度と高さを考えても、ここで何らかのアクションを取らねば地面に激突して死ねる…少なくとも俺は。



 「あ! ダメ! コージ!」



 俺は、腰に巻きついたガリィちゃんの手に触れる。



 あれど程ガッチリと掴まれていたはずの腕は、いとも簡単にはずれ入れ替わるように俺は抱いてた赤ん坊をガリィちゃん抱かせ掴んでいた手をパッと放す。



 すると、俺が手を放した瞬間ぐっと力の入る腕と今にもなきそうなガリィちゃんの顔。



 風圧で顔が波打ってなきゃ、『ここは任せて先に行け キリッ★』くらいイケメン主人公的台詞の一つも…あはw 無理w 蕁麻疹が!!



 離れてしまえば、あっと言う間。



 俺なんて気流に揉みくちゃにされて、ガリィちゃん、赤ん坊、メイヤはもう遥か遠くだ。


 このくらい離れれば、メイヤは『俺』の影響を受けず魔法が使えるからなんとか精霊の村を破壊しないですむだろう。



 ああ…そういえばこの世界に来たとき比嘉ともこんな感じではぐれたんだっけ…。



 もみくちゃにされながら、俺はあの亜空間の事を思い起こす。



 ………うん、今そんなのどうでも良いや!




 取り合えず今は自分を助ける事をさいゆうせ…あ…れ……?



 霞む視界。



 遠くなる音。



 うそだろ!


 不味い…こんな時に!


 多分コレは、貧血だ!



 視野が狭くなり、しだいに意識が朦朧としてくる…森が迫る。




 ああ…はらへった。






                ◆◆◆

 

 


 口に突きつけられる何やらひんやりした感触。



 なんだこ_________グボッ!?



 それは行き成り口につっ込まれた!



 「っtっつっつっつう"ごっ!??????」



 俺は飛び起き、口につっ込まれたビチビチしたモノを引き抜いて地面にぶん投げる!



 「おげぇぇぇぇえっ!? 生臭っ!? なに? なんなの? なにすん_______グハッ!!!」



 衝撃に蹴躓いた俺の腹のあたりにしがみ付く金髪は、耳をたたんでプルプル震える。




 「ガリィちゃ?」



 チリチリと目の奥が痛み感情が雪崩れ込む。



 恐怖。


 孤独。


 憎悪。

 

  

 は? 憎悪!?



 「なん…いてっ!?」



 シャツの上から腹に牙が食い込み、じわりと血がにじんだ。



 『オニイチャン ミタイニ ガリィヲ オイテク ナンテ ユルサナイ…』



 更にぐぐっと食い込む牙…痛てぇ。


 けど、ゾクッと背筋が震えて顔がにやける。



 可愛いなぁ。



 もっと、俺に依存して俺しか見えなくなればいい。




 「怖い! こわいれちぃぃぃぃ!!!」



 メイヤの悲鳴で俺はようやく我にかえって、辺りを見回した。



 目の前には恐らく泉と思われるものと、周囲には生い茂る木々。


 もしかしなくても、ここは上空からみた森に違いない。



 「あれ? 俺、どうやって…?」



 はっきり言って、さっきの状態から俺が助かるなんて絶望的だったのに。



 「全く、あんたにゃ驚かされるねぇ」



 「姉御」


 

 ぼんやりとエメラルド色に輝く泉を眺めていると、背後からカランカの呆れたような声がする。


 よかった…怪我とかはしてないみたいだな。



 「おやおや、なんだい狂戦士まるで赤ん坊だねぇ」



 カランカは、未だに腹に食いつくガリィちゃんをみてクスクス笑う。



 「カランカ! しかたないれちよ…狂戦士にとってオヤマダは『お兄ちゃん』れち…怖かったんれちよ」



 直ぐ傍でいたメイヤが、目を伏せる。



 そうか、精霊契約…見たんだな。




 「あ! そうだ! 赤ん坊! 無事か!?」



 「無事ですよ」



 鈴を振るような声とともに、カランカの背後からリーフベルが顔を出し、その腕には赤ん坊が抱かれすうすうと寝息を立てている。



 「よかった…無事でって…いてっ! も、許してよガリィちゃん! 痛い! マジで痛い!!」



 「自業自得でち! あんな無茶して!もし、あんしゃんに何かあったら勇者だって大変な事になってたんれちからもー少しくらい噛まれてればいいれんれち!」



 メイヤが、ガリィちゃんの気持ちを代弁するように怒鳴ってふん!っとそっぽを向く。



 

 んな事言ったって、あの時もし近くにいたいら俺の影響で此方に向けた回避を目的にした魔法なんて使えなかった訳で仕方無かったてゆーか一応策が無かった訳じゃねぇよ?


 別に死に急いだわけじゃ…って、マジでどうやって俺助かったの?!



 「ピキャァァァァァァァァァァァァ!!!」




 澄み渡った青空につんざくような聞き覚えのある甲高い咆哮。



 カランカが、ちらりと空を見上げてから手にしていたレンブランのリュックに視線を落として溜め息とつく。



 「まさか、これから飛び出してくるなんてねぇ…一体どういう仕組みなんだい?」



 舞い降りた白く巨大な鶏。


 左側のメタリックの部品むき出しの義翼がシャラリと鳴る。



 コココ…と、殺気を飛ばす眼光が俺を見据え不機嫌に喉をならした。



 「こっ…コッカス?」


 

 「そうれちよ、あのコカトリスに感謝するれち!」

 

 

 おかしい。


 

 コッカスは、大聖堂に入ったとき鳩舎みたいな所に預けていたはず…つか! 何? リュックから出てきたの!? マジで!??



 何故? どうして? 思考を廻らせようとしようにもブドウ糖の不足した頭では上手く回らないし後頭部がグシャリと歪んで気色悪い。



 けれど頭の奥…深く暗い所で誰かが笑ったそんな気がした。




 「コージ」



 いつの間にか腹に噛み付いていた牙を引き、俺を上目遣いに見上げる金の瞳が鋭い眼光を放つ。



 「もう、二度とこんな事しないで…今度こんな事したらガリィはコージを_______」




 喰ってやる。




 まるで焼き付けるような感情。


 それは、首筋の痣を熱くして目の奥をチリチリさせる。



 『置いていかれるくらいなら、コージの血も肉も全部食べてお腹に入れてやる!』



 叩きつけるような独占欲…いや、執着か…わぉ!



 俺の喉が、くきゅぅ…っと鳴る。



 「…俺、ガリィちゃんになら喰われてもいい」



 「何言ってまちか!!」



 駄々洩れの感情をリアルタイムで視聴中のメイヤが、悲鳴をあげてドン引きした。



 だってさ、こんなに求められるなんて…不服だけど『兄』冥利に尽きるってもんだろ?


               ◆◆◆





 「クチャクチャ…ゴクッ…グチャ」



 「…その貧相な体の何処にそれだけの食料が入るんだい?」



 ガリィちゃんが大量にゲットした魚的な生き物を丸焼きにしたものを貪る俺を、カランカが怪訝な表情でみて溜め息をつく。



 「コージ! いっぱいあるんだから慌てないで! ゆっくり、ゆっくりってば!」



 俺はガリィちゃんの言葉なんか聞こえないくらい腹が減って減って、味もなんも関係なく只腹を満たす事だけに集中し詰め込めるだけ詰め込んでその後の事は良く覚えていない…気が付いたら辺りはもうすっかり日が暮れいていた。



 「気が付いたかい…オヤマダ」



 カランカの声と、もはや馴染みのある背中をちくちくする感触と乾いた藁の匂い。



 「ゲップ…なっ…あ? 俺…」


 「アンタは、喰うだけ喰って突然ぶっ倒れたのさ。 全く、脆いんだか強いんだかねぇ」



 溜め息をつくカランカを尻目に俺は辺りを見回す。



 三畳ほどの広さに藁が敷き詰められ、周囲を太い鉄格子が囲み外向けに突き出四つの松明の明かりが照らす。



 「は? 檻?」


 「まぁ、そうだね」



 カランカは事も無げにいった。



 「いやいやいや! ちょっとまって! なんで檻? 俺が寝ちゃった間に何があったの!? つか、ガリィちゃんたちは?」



 この檻には、俺とカランカの二人しかいない。


 詰め寄る俺に、カランカが言う。



 「捕まったのさ、精霊たちに」



 カランカは、またも溜め息をついて檻の格子から虚ろに地面に視線を落とした。



 「はぁ!? なんで? だって、あんたら世界を救う勇者ご一行様だろ? なんで捕まるなんてあるんだよ!」


 「…分からないかい?」


 

 オレンジの松明に照らされた赤い瞳が射る様に俺を見る。



 「何のことだよ?」



 「はぁ…アンタの所為さオヤマダ」



 はぁ? 俺の所為? 何ソレ微塵も理解…いや…そうか…。



 俺はこの世界にとって異物だ…多分それが精霊達に警戒されたんだろうが…。



 「捕まるなら俺だけで良い筈だ、なんで姉御まで? リーフベルとメイヤだって…ましてや『勇者』の赤ん坊が捕まる理由はないだろう?」


 

 今のガリィちゃんなら狂戦士だってばれない筈だし、いくら正体不明の俺とつるんでたからって世界を救う旅真っ最中の勇者パーティー様方を投獄するなんていくらなんでおかしい!



 てゆーか、ガリィちゃんと赤ん坊は何処だよ!?



 周囲には闇に包まれた森が広がるばかりで、この松明の灯された檻以外どんなに目を凝らしてもなにも見えない。




 「何があったんだ?」



 押し黙るカランカに問う。



 「アンタがぐーすか寝てる間に大司教に追いつかれたのさ」



 檻の格子に背を預け、藁の上にどかっと座るカランカは松明の照らす地面に視線を落としたまま何処か投げやりに言う。



 「マジか…」



 「こっちに抜けた時に出来るもんなら扉を破壊しておくべきだったけど、アレじゃ無理だったからねぇ」



 あのクソもやし…っと舌打ちしたカランカは、殺気のこもった目で俺を睨みてをかざす。



 フシュン!



 ふらりと伸ばされた手に現れた大地の双剣の一対、揺らめく大松に彩られた白銀の切っ先がぷつりと俺の喉笛で皮を薄く裂く。



 「あんたは何者だ?」



 それは、カランカにとって純粋な疑問だ。



 突然現れた正体不明の生物。


 魔力も気力も持たず、この世界の全ての加護から見放された脆く弱い存在。


 が、通常女神に選ばれし『鍵』にのみ起動出来る筈の『勇者』を動かし狂戦士を従えたばかりか謎の力で村一つ飲み込む程の魔物を倒した。


 世界から拒絶され、世界を拒絶する。



 このような得体の知れない生物に、『勇者』を奪われ世界の運命を握られてしまったのは選ばれし『鍵』で『従者』であるカランカにとって恐怖以外のなにものでもないだろう。



 「答えな! 何が目的だ! 何故、アンタは_____」



 突きつける大剣の切先が、更にプツと薄皮を裂いたが俺はそれ以上にこの檻の外。


 カランカの背後に目を奪われる!



 カランカの背後、格子の向こう…ぽつり、ぽつりと光を放つ。



 蛍?

 

 いや違う! 蛍にしてはデカイ、それも1個や2個じゃない!



 ぽつぽつ光を放っていたソレは、一気にその数を増やす!



 


 「あ 姉御…後ろ!」



 「はぁ? そんな事であたしが騙されると思ってるのかい? さぁ答えな!」



 カランカは、眉を顰め突きつけた切先を軽く沈める。




 「っ…気づけよ! この低脳!! 囲まれてんだよ!!」




 ようやく辺りを見回したカランカは、息を呑む。



 光の粒。


 いや、玉だ!


 丁度バスケットボールくらいの大きさの様々な色の発光体が、この檻を囲みその数は地面を覆うほどだ!




 チチチチ…チリリリリ……!



 一つの球体かから振動が起こりそれが共鳴するように全てに広がる。




 「ちっ! 聞きな、精霊共! アタシ達は敵じゃない!」




 チリリリリリリリ!


  ジジジジジジイジジジ!



 カランカの言葉なんて聞く耳持たない球体たちは、ひしめきながら太虚として檻に迫った!



 「くっ! 極炎________」




 已む無く大剣を構えようとしたカランカは、急に力が抜けたように藁の床に膝をつく。


 

 「あっ姉御!」


 

 俺は、膝を着いたカランカに駆け寄り手を伸ばそうとした。




 『タスケテ』



 直接頭の中に振動するような『声』。





 『タスケテ コロサレル』 





 「え? なん______」



 脳が振動しブレる俺の視界に銀色に輝く球体が出現し、チリチリと鳴きながら言葉を続ける。




 『世界ノ絶望ヨ、我等ノ王ト我等ノ血ヲ引キシ同胞ヲ殺戮者達カラ守ッテ!』



 光はまるで、懇願するように瞬く。




 何だ…もしかしなくても俺に頼んでるのか?


 殺戮者ってまさか…。



 『タスケテ オネガイ 必要ナ事ガアルナラ何デモスル!』




 えっと…何コレ?


 どゆこと?

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