鍍金の賢者

鍍金の賢者

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 賢者は、儀式・伝統に見向きせず真に守り受け継ぐべきことを知っている。


 それは、人が守らずとも、壊れず普遍なるものなり。



 賢者は、歴史から支配者の愚かさを思い虐げられた声なき民のせつなさを知る。


 賢者は、戦乱の世に民の愚かさをみて、民が喜ぶ政を行なう。


 賢者は、神を見て神を見ずその理を憂う。


 賢者は、理に嘆き知恵をもってそれに抗う者。



 少年は、その理と理を憂いた賢者よりその力を授けられた。

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 水浸しの村に住人達が戻る。



 倒壊した建物に驚く者もいたが、それ以上に自分達が助かった事に全ての住人達が歓喜し村を救った少年に感謝した。




 身勝手だな。




 さっきから、村の通りを歩く度に住人等に話しかけられ感謝されるがそんな住人たちにもたげるのはやり場の無い怒りだ。


 こいつ等は『異形』であるだたそれだけで俺を魔王の手先扱いして討伐しようとしたし、狂戦士だからと一度は村を救ったまだ4歳だったガリィちゃんを結界を張った森に遺棄し俺を庇ったレンブランを追放した…こんな連中本来なら助けたくはなかったよ。




 「コージ! みんなコージに感謝してるよ! なんだか嬉しいね!」



 俺に向けられた賛辞に、ガリィちゃんは嬉しそうに手を叩く。




 ガリィちゃんが望まなければ、俺はあんな事はしなかった。



 この村の連中が本当に感謝すべきは、このクソ可愛な狂戦士なんだよ!



 ガリィちゃんの心底嬉しいってキモチが雪崩れ込んできて、俺は思わす顔を背ける。



 ああ、ヤバイ。



 この調子じゃ、俺の感情もモロバレだ!



 なんとかしないと以心伝心過ぎて心臓が持たねーよ!




 「ねぇ、コージこれからどこ行くの?」



 俺が理性と戦っていると、ガリィちゃんが小首をかしげながら尋ねる。



 ああ、そう言えば一人で行こうと思っていたからガリィちゃんには説明してなかったなぁ。



 今朝早く滞在先の宿から一人でそこへ向おうとしていた俺にやっぱり感ずいたガリィちゃんが、無理やり付いて来て現在に至る。




 「レンブランの家だよ」


 


 そういうと、ガリィちゃんの表情が少し強張る。




 「…お兄ちゃんの?」


 「ああ、これからの事考えるとどうしても寄っておきたんだ…辛いなら_____」




 『付いてこなくていい』そう言い掛けた俺の手を、ガリィちゃんが潰さないようにそっと握った。




 「ちがう! お兄ちゃんが死んじゃったのコージの所為じゃない! むしろ救って______」




 パシッ!




 俺は、思わずガリィちゃんの手を払ってしまった!




 「コージ…?」


 「あ、ごめん…やっぱ一人で行かせてよ…ガリィちゃんさ、赤ん坊についてあげてて」



 俺は、その場にガリィちゃんを置き去りにして駆け出す。



 読まれた、いや零れたのを拾われたと言った方が正しいな。





 …俺は、絶えず思っていたんだ。



 レンブランは、確かにループする時の中で悶え苦しんでいたけど俺にさえ遭わなきゃ死ななかったし、いつかは『答え』だって見つける事が出来たんじゃないかって。



 手を払った時の、ガリィちゃんの少し悲しそうな顔が目に浮かぶ。



 はは…さっき俺は上手く笑えてたなかな?



 つか、早いところなんとかしないとな…こんなのおちおち隠れて泣く事も出来ない。



 相変わらず、賛辞を送るうざい群集を掻き分けながら俺はレンブランの記憶を辿りそこを目指した。




 

               ◆◆◆






 「はぁ…思ったより遠かったな…」



 一度来た事があるとは言え、その時はトイレから尻に向って特攻…いや思いだすのはやめよう…。



 兎に角、こうやって外から訪ねるのは初めてだ。



 俺は、爆発でもあったかのように見るも無残に倒壊したレンブランの家を眺めその敷地に足を踏み入れると足元にはこの世界の共通言語で『立ち入り禁止』を知らせる看板が倒れている。


 


 既に、あの三人が此処に来て色々調べたんだろうな…。




 俺は辺りを見回す…おかしいな。



 レンブランの『キオク』じゃ、この看板は文字道理『立ち入り禁止』を示すもので通常ならコレ事態に結界を張るくらいの魔力が込められる。


 また、触って壊したかとも考えたが違う。



 既に倒れていたし壊した感覚も無かっ______ああ、そうか。



 俺は、倒壊した家の残骸を覗く。


 そこから爆発したんだと思われるくらいの大穴と、そこから見える上にあった生活スペースとほぼ同じ広さのあるその薄暗い空間に俺は躊躇なく飛び込んだ!


 ズダンと着地すれば、その衝撃で足が痺れる。


 「~~~~~っ!!!」


 うわぁ…格好つけんじゃなかった!


 多分誰も見られなかったことが唯一の救いだと胸を撫で下ろし、俺は『いつもの様に』戸棚からランプを取り出して手をかざすが_____。


 あれ?


 ああ、だよなコレじゃ無理だ。


 俺はほんの少しだけ、コードモードでランプの中に小さな『火』を構築する。


 すると、ちろちろと小さな火がランプの中で淡く光を放ち辺りを照らす。


 あ、やばいテンション上がってきた。


 ヤバイヤバイと、気分を落ち着かせようと頭を振ってついでに深呼吸もしてみる。



 あ~…このくらいでもかなり感情に影響でるんだなぁ…。



 レンブンランが、命がけで構築した理論が生み出した能力。


 それを体現できるのが、この世界と縁も縁も無い異世界人と言うだけでそこら辺に五万といるような只の中学生な俺。



 『妹を守って欲しい』



 レンブランの最後の願い。



 荷が重過ぎるが、レンブンランだってホントは自分でどうにがしたかったはずなんだ!


 

 俺は、頼りなく光を放つランプを片手に地下室であったそこを照らしてお目当ての品を物色する。


 特性の回復薬・解毒剤・携帯食料・調合試薬・その他軽量や解剖・縫合に必要な医療セットの補充など思いつく全てを背負ってきたレンブランの底なしの四次元リュックに詰め込む。


 

 痒い所に手が届くこの薬品・素材の備蓄…やはり、レンブランはこの事態を予測していたとしか思えない。



 それは、俺に出会った時なのかそれ以前のあの悪夢とも言える果てしなく繰り返し続けた時の中での願いであったのか…引き継いだキオクの中でも乱れた一部からそれを救い上げる事は難しい。



 標本や、内容が頭に入ってる書物類以外殆どをリュックに詰め終えた俺はさらに奥の部屋を目指す。



 予測が確かなら…いや、外の『立ち入り禁止』の結界が破壊されていたんだアレは確実に戻ってきてる筈だ。



 レンブランにそう躾られているからな。




 「なぁ、そうだろ?」




 コココココココココ!!!




 一見拷問器具のような物々しい器具の乱雑する更に暗い部屋の中、拉げた大きな檻の隅に少し衰弱した白く巨大な鶏は俺を見るなりその赤い目に血管を走らせ不機嫌そうに喉を鳴らした。




 コッカス、恐らくコカトリスの突然変異。



 コッカスってのはレンブランが森でコイツを見つけたとき、なぜか首から下げていた木製の筒にそう書かれていたのでそのまま呼ぶことにしたらしい。



 片羽を失い大量出血。

 

 

 普段ならそんな死にそうな魔物無視する所だが、レンブンランはそうしなかった。


 単純に可哀想と言うのもあったがそれ以上に『何者かに飼育されていた痕跡』のあることに酷く好奇心を掻き立てられ一緒に見つけた幼馴染のノーム兄妹に嘘までついて自宅に持ち帰ったのだ。


 基本的にと言うか至極当然の事ながら、魔物は飼いならされる物ではないらしい…。


 俺に与えられたレンブランの知識にも、そんな事例はこのコッカスを置いて他にはない。



 コッカスを連れ帰ったレンブランは、早速治療と称して失った片羽をかねてより研究していた俺の世界で言うところの飛行機的なものを作るために再現していた鳥類骨格を義肢などの理論を応用し作り変えた義羽とでも言うのかソレっぽいものを取り付けた。


 ほっとんど、マッドサイエンティストな実験に近かったしこの世界の常識から考えて魔物を治療しあまつさえ機動力を回復させるなど自殺行為に近かったがそこはレンブランの読み通りコッカスは自分の命の恩人である自分を襲おうとはせずそれどころか簡単な命令なら律儀に聞くようになったのだ。


 「ほんと、マジでムカつく鶏だと思ったけど俺もお前に滅茶苦茶興味がわいてんだよなぁ~」



 にやつく俺に、コッカスが警戒心を露に喉をならす。


 レンブランのキオクの影響だろうか?


 最近、空腹の他にもう一つなんだか良く分からない飢餓感に襲われる事が多くなった。


 …ガリィちゃんに感じるアレな感じとは全く違う、こう…なんていうか頭がぐわ~んって…例えるなら腹減ったみたいな感じで『頭減った』みたいな?


 そう、足りない…欲しいんだよ『知識』が!


 「ここにゃ器具が揃ってる、お前の『翼』直してやるよ…その代わり色々調べさせて貰うぜ? なぁ、コッカス?」



 俺は、天井からぶら下がったケーブルの付いた赤と青のボタンの付いた古ぼけたスイッチの赤いほうをガチッと押す。

 


 

 ぷい~ん…。




 っと、まるで悪の組織が改造人間を作るときに使いそうなネジやらドリルやらが生えたアームが天井や床から蠢きながら生えてくる…はっきり言って趣味が良いとは言えない。


 …レンブランって、役立つ物は作れても芸術品は作れないタイプだな…。



 コッ! コケッツココココ!!!



 コッカスが、明らかに脅えている。



 どうやら、前回その義羽を装着された時相当の悪夢を見たようだ…分かる!


 分かるぞ!


 その気持ち!


 俺も麻酔無しで腹と喉縫われたもん!




 脅えきったコッカスに触手の如くアームが巻きつき、攻撃を仕掛けようと開きかけた口ばしをアームから伸びた細い管が締め上げる!




 「さぁて…」



 すっかり拘束さて身動き取れない、哀れな鶏にいつの間にか薄汚れたエプロンに身を包んだにやつく黒い少年が近づく。




 「ま、初めてだけど知識はばっちりあるからドーンと任せろよ?」



 コケーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!

 (『?』ってなんだーーーーーーーーーー!!!)



 と、言いたげな鶏は叫び声を残して軽く解体された。



 あ、もちろんちゃんと組み立てたぞ?




 「肉でも捌いて売るのかい?」



 すっかり返り血を浴びたエプロンを脱ぎ捨てた俺に、背後から聞き覚えのある声。



 「まさか、レンブランの『トモダチ』にそんな事しねーよ」



 カランカが見たのは、鮮血に染まりぐったりしている魔物とそれをどう見ても解体していたとしか思えない物騒な器具を持ったこれまた返り血に顔面を染めた少年の姿だった。


 


 「コレは治療だよ、あんたが壊した翼を修理して縫合し_____」




 カランカは、呆然と俺を見つめる。



 なんだ?



 血まみれなんて、戦場を駆ける剣士様なら見慣れたもんだろうに?



 「目…アンタのその目…」



 「目?」



 そう言えば、この村に護送されてきたときもそんな事言ってたっけ?

 


 俺は、近くにあった試薬棚の方を見る。



 ガラス張りの棚の戸に俺とカランカが映って…ん?



 「なんだこりゃ?」



 そこに映った自分の顔に違和感を感じ、俺は棚に近づく。



 血の跳ねた眼鏡越しに映るのは、右目は黒、左目が緑の自分の顔。



 は?


 何コレ??



 此処のところ、命がけで駆けずり回っていたので結構久々に自分の顔を凝視したがわけだけど…。


 


 「目…変色してる?」


 「気が付いてなかったのかい?」



 驚く俺にカランカは、呆れたように言う。




 「気が付かなかった…」



 俺は、しみじみガラスにに映った顔の左目に手を伸ばす。



 「レンブラン…」



 コレは、見紛うことなくレンブランの目の色だ。




 が、その目の色はふっと消えいつもの俺の色に戻る。




 「あ…」




 多分、キオクやなんやを扱うときに影響されて変色するようだ。




 ジャッキ!




 背後に立っていたカランカが、折れたとは言え十分な長さのある大剣を俺に向ける。




 「なんだよ?」


 「アンタは一体何者だ!」



 当然の質問かも知れない。



 こいつ等にして見みたら、突然現れて大事な勇者をあんなことにしてあまつさえ自分達が把握していなかった情報や未知とも言える敵への対処そしてこの世界のあらゆる籠を受け付けずあるべき理を捻じ曲げる脆く弱い存在。



 さぞ、不気味で恐ろしいだろう。



 カランカの目に浮かぶのは、恐怖とこんな訳の分からないモノに勇者と世界の運命を握られた絶望。


 そして、殺そうにも手を出せない葛藤。



 「もう一度聞く! アンタの目的は何だ! 一体どれ程の事を知っている!?」




 殺気を放つ赤い目。



 

 「こんな狭いとこでそんなの振り回すなよ、どうせ殺すなんて出来ないくせに」




 そう言ってやると、悔しそうに唇を噛んだカランカが投げやりに剣を床に突き刺す。



 『答えろ』無言でそんな視線を俺に投げる。



 「多分、俺は何でも知ってる…これから何をどうすれば良いか、どうしたらあんた等の言うところの『世界を救う』ってのが出来るかも…コレは何千何万と繰り返されてきた茶番に過ぎないんだよ」

 


 俺の言葉に、カランカが息を呑む。


 どうせ、何を言っているのか理解なんて出来ていないのかもしれない。



 「俺は、こんな下らない茶番に巻き込まれたクラスメイトとそいつの姉さん…それにガリィちゃんや赤ん坊を絶対に救ってみせるんだ!」



 こんな非力で脆い俺だけど、その為ならなんだってするさ!



 ランプの光も弱くなった薄暗い部屋には、カランカの浅い呼吸だけが響く。



 「…なんでだろうね」


 

 少し沈黙していたカランカが、ふいに口を開いた。



 「アンタにあったのは、初めての筈なのにまるで何処かであったような妙な気持ちになるよ…」



 その目には、先ほどの混沌とした感情は無くあるのはまるで古い友人でも見るような穏やかなものだ。





 ああ、多分それは俺に向けられる物では無い。



 何千回と時を繰り返していたレンブラン、その中で彼は幾度と無く彼女達と旅をした。


 

 無論、妹のガリィちゃんを勇者に殺させない為上手く取り入り仲間として認められ女神に選ばれた訳では無かったがその全てを見渡す知識になぞらえこう呼ばれてた。



 『賢者』



 と。



 

 裏切り、殺し、血にまみれて、時は逆さに回りだす。



 レンブランが、どんなに血にまみれてもどんなに全てを裏切っても結局妹を救えずあの空間で絶命して気が付けば全てが終わりまた繰り返す。



 そして、彼女達もまた全てを忘れまた旅を始める。



 だから、カランカのコレは奇跡なのかもしれない。


 もしかしたら、俺が少し手を下したらカランカだけはレンブンランの事を思い出してくれるのかもしれない!



 が、そんな考えはすぐに消えた。



 …レンブランはそんな事望んでない。



 俺の手のに、生々しく駆けずる感触と霞が掛かったようなレンブランの悲鳴。


 

 冷たくなった仲間の屍を背に、自ら狩り飛ばした最愛の人の首を抱えて只々『コレで終わらせるから』と泣きじゃくる緑の目。



 俺は、喉まで競り上がっていたカランカへの言葉を飲み『へぇ、あっそ』と受け流す。



 伝えられたらどんなに良かっただろう、だがこれはこの"時"には全く関係の無い事だ。



 沈黙する俺を、赤い瞳が訝しげに見詰める。



 レンブランは、今回彼女に出会えたとき何を思っただろう?


 全てを継承した筈の俺の脳裏に、それはぼやけて覗けない。




 「頼む、あたし達に協力しとくれ! アンタに取っちゃ茶番なのかも知れないけどねっアンタ無しじゃ勇者は成長できないしもし世界を救う方法を知っているなら_____」




 レンブランの愛した最愛の女性は、恥じも外聞もかなぐり捨て得たいの知れない少年に助けを請う。



 そんな彼女に顔色を変えず、全てを胸に収め口を閉ざした少年はにやりと笑ってこう言った。



 「それじゃ、取引といこうか?」 


 

 在りし日の賢者の言葉そのままに、赤い瞳を見返す緑の目は何処か優しげだった。





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 「っ!? おぶっ!? ぶじゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」



 最高に気味の悪い夢をみたような気がして飛び起きた筈の俺は、朝飯とばかりに特攻してきたラブリーな飢えた獣に唇を貪られそのまま雑魚寝していた板の間に後頭部を激しく打ちつけた!



 「いでって! こりゃっめ"って! ぷえっ! ちょっ! じゅるじゅる~~~」



 「うにゃぁ!? こら! 夜中も食べたのに! そんなに食べたらコージが無くなっちゃうよぉ!」



 俺の傍で擦り寄るように丸まっていたガリィちゃんが、異変に気付いて慌てて赤ん坊を引っぺがそうとする!




 無くなるとか…ホントにそうなったらマジで恐い!



 そんなぎゃぁぎゃぁとした騒がしい騒動を、鼻の下を伸ば…鼻血を吹きながら『腐女子眼』を発動させた聖なる女神に仕える僧侶にして選ばれし勇者の従者であるリーフベルはここぞとばかりに革紙にペンを走らせる。



 それを、諦めた表情で見守る外見幼女の最年長者で同く勇者の従者である魔道士メイヤに『そこには何も無い私は無だ』と言い聞かせる剣士カランカはしっかりと前を向き革の手綱を握った。







 良く晴れた青空の下。


 巨大な鶏に引かれた馬車は、ガタゴトと草原を進む。




 見ての通り俺はこの勇者一行に加わった。


 というか、目的を果たす為にこいつ等を利用するのが得策だと振んで計算ずくで取引したのだ。



 ホント、やってる事はレンブランと何一つ変わらない。



 が、何もかもがレンブランのキオクにある情報より遥かに早い速度で進行している…それだけは間違いない。

 




 まるで、誰かが慌てて事を進めているみたいに。





 「オヤマダ! 方角は間違いなのかい?」




 荷台を覗き込んできたカランカが、未だ赤ん坊に食いつかれたままの俺を呆れたように見る。




 「じゅぼっ! ゲホッゲホッ…ああ、そのままもうしばらくで見えて来るはすだ!」



 すっかり満足した赤ん坊の背中をぽんぽん叩く俺に、革紙に羽根ペンを走らせていた腐じょ…リーフベルが僧侶らしい真面目な表情で問う。




 「そこには何が?」




 俺は、『着いてからのお楽しみ』とリーフベルに少し笑って見せカランカの隣でハンドボール位の水晶玉を浮かべる小さな魔道士に視線を向ける。




 これから向う場所に俺が足を踏み入れるには、この魔道士メイヤの力が要るはずだ。

 


 小さな魔道士は、ふわふわの銀髪を不機嫌そうに揺らして浮遊する水晶を覗き『エンゲル係数がーエンゲル係数が~』とぼやいていた。



 ちなみに、エンゲル係数の計算法を教えたのは俺。



 メイヤの持ってた、魔道書を読ませてもらう変わりに何か教えろといわれたので多分旅の役に立つだろうと公式を教えたんだが結果露呈したのは現在このパーティーの家計は火の車であること…原因は俺…というか俺と赤ん坊にあった事が判明し何だか肩身が狭い。




 「しょ 食費れち…食費が半端ないいれち…」



 メイヤの背中に、ドス黒いオーラが立ち込める。



 そう、つまり構図としては





 赤ん坊→俺→大量の食料摂取→ノーマネー




 ってか、こいつら食料とか買い付けだけで狩猟とかしねーのな…。



 まぁ、世界を救うための旅をしている勇者一行だからこの世界を司る6大国つーパトッロンもいるしまた金貰えばって思ったがそうも行かないようだ。



 「こえ以上、どんな名目で申請すればいいれちか!」



 問題としては、俺とガリィちゃんがパーティーに同行しているのと赤ん坊がこの状態で有る事を勇者の従者達は6大国に伝えていなかった…てゆーか俺がとめた!



 だってさ、勇者と狂戦士と正体不明の俺だぜ? そんなのお偉方に知られたらソレこそ面倒なことになる!



 と、言うわけで必要経費の食料の部分は俺によって赤ん坊に供給するカロリーを生産する為消費されまくり当然通常より遥かに嵩みに嵩んだ!



 そして、怪しまれないようにあの手この手を駆使し申請書書きつづけていた訳だが…。


 



 村を出て早3日。



 ネタは尽きていた。


 


 「ん? ちょいと! 狂戦士は何処だい?」



 先ほどまで、俺から赤ん坊を引っぺがそうと騒いでいたガリィちゃんの姿が無い事に気が付いたカランカが焦ったような声を上げる。



 「ああ、それなら『ゴハンとってくる!』と言って出て行きました」


 

 答え様とした俺の声押さえリーフベルがカランカに答え又しても革紙に羽根ペンを走らせる…本日『腐女子眼』はまだ解放されていないらしい。




 「なっ…出て行ったって! 大丈夫なのかい!? また暴走でもしたら!」



 「それは、大丈夫っていったろ?」



 俺は、胡坐をかいた膝に満足げにピスピスと可愛らしいいびきをかいてる赤ん坊を乗せたままこっちを覗き込むカランカを見返す。



 「今のガリィちゃんは、安定してる…問題ない」


 

 俺は、自分の右の首筋をそっと撫でる。



 そこはあの時、ガリィちゃんに噛み付かれた場所で今はまるでジグザグとした雷のような傷跡になっている。



 そして、コレと同じ物がガリィちゃんの左の首筋に…多分、比嘉が使っていたコードを書き込んだ影響だと思うが俺たちは感情や魔力と言ったものを殆ど共有する事が出来るらしい。



 が、俺は魔力の共有は避けていた…もしそんな事したら赤ん坊が俺を喰う時にガリィちゃんまで衰弱してしまうし狂戦士の魔力を吸収した赤ん坊がどうなるか本当に予想がつかないからだ!

 


 出来れば感情の共有も解除したかったけど、それだけはどうやっても出来なかった…まぁ…もし今後ガリィちゃんが狂戦士に覚醒してしまってもコレなら遠隔でも直接意識下で抑える事が出来るからと自分を無理やり納得させことしか出来なかった。



 そして、その恩恵と言ってはなんだがこうやって目に見えない場所に離れても俺にはガリィちゃんの様子が手に取るように分かる。




 東の方向、5キロ地点。



 元気一杯に何かを捕まえた模様…大物かな? テンションがハンパない!



 「後1キロで沢があるはずだ、そこでガリィちゃんと合流したい」



 俺の言葉に、カランカもリーフベルも顔を顰める。



 二人とも『沢なんてあるのか?』そんな表情だ、確かにここら辺の地図には載ってないが『前に』そこで休憩を取ったんだ間違いない。



 少して、俺の言葉通り沢が見えてきた。



 「驚いたね…」



 カランカが、声を漏らす横でコッカスが口ばしを冷たい沢につこみココココ…っと喉をならす。



 俺は、馬車の荷台から降りて固まった背中をバキバキと鳴らして欠伸をした。



 コイツに喰われた後は、腹も減るけど兎に角眠いんだよなぁ~…。



 俺は、眠気を堪えながらリュックからキャンピングテーブルを取り出して組み立てる。



 ガリィちゃんが、なにか狩ってくれたみたいだしまず何か食べないと…。



 ゴトンっと、ファンシーなテーブルに置かれたそれをみてメイヤが眉をひそめる。




 さほど大きくないキャンピングテーブルには、ミスリス製のハンマーにノコギリにペンチと切れ味抜群のナイフなど物々しい器具が次々に並べられていく。




 ケッ!? ココココココ・・・!!!




 それを見たコッカスが、飲んでた沢の水を噴出しダッシュで馬車の荷台の影に逃げ込む…心の傷を抉ったらしい。

 



 「うえぇ~また、魔物の肉れちか…」



 「まぁ、仕方ないわよ…以外に美味しいから良いじゃない」



 げんなりしたメイヤをリーフベルが慰める。



 エンゲル係数問題が浮上してからの俺とガリィちゃんの役目、それは狩猟による食料の確保とその調理だ。


 まぁ、食料は99%俺が俺が消費しているのだからコレばっかりは仕方が無い。



 「あたしゃ別に、魔物の肉とかそんな事はかまやしないんだけどね…」



 カランカが、リユックからエプロンを引っ張り出している俺に溜め息をつく。



 「なんだよ…調理には問題無い筈だけど?」


 

 レンブランのキオクには、この世界の一般家庭の味から希少食材・毒や魔力をもった特殊食材の調理法まで正にそのまま店が出せそうなくらい豊富な知識が詰め込まれていた。

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