第7話「料理問答」

 俺とレオ、イーサン、ジャンは市場の露店食品エリアに居る。

 このエリアは、様々な料理をテイクアウトして売る店が軒を連ねていた。

 周囲は香ばしい匂いで満ちている。


 何故なのか……前世でもそうだったけど。

 露店の料理は、どれもこれも美味しそうで目移りしてしまうもの。


 俺は念の為、索敵の魔法を発動。

 加えてジャンに周囲を警戒させながら、レオ、イーサンを連れ、各店を回る。


 ボヌール村近郊の野外と違って、安心しきって無防備な息子ふたりは、

 あれは何?とか これはあれだとか……

 目をキラキラさせながら、チェックを入れていた。

 分からない時は俺へ質問して来る。


 対して、俺は丁寧に説明する。


 肉の種類は、農作業と狩りになじんだ息子達にも分かる、牛豚羊鶏、そしてジビエなど。


 魚は普段食べなれた淡水魚の鱒は分かるものの、海水魚は俺でも種類までは不明。

 だから一緒に店主に尋ねる。

 それもまた楽しい。


 料理方法は、網焼き、串焼き、揚げ、茹で等々。

 露店だからシンプルな料理が多い。

 だが、店主のこだわりなのか、中には凝ったものもあって面白い。


 ミートパイ、ラグーにパテは嫁ズとも散々食べたからお馴染み。

 なので自信を持って子供達へ説明する。


 色とりどりの野菜サラダ、焼き立てのパンもどっさり。

 飲み物は熱い冷たい、お茶に果汁等々、何でもござれ。

 酒だけは未成年だからNG。

 俺もこの場では飲まない。


 デザートには香ばしい菓子や新鮮なフルーツも。

 息子ふたりは甘党だから更に目がキラキラ。


「お父さん、俺これ!」

「これ買って良い? お父さん!」


 ウチの10歳男子ふたりは食欲旺盛。

 俺は出来る限り、要望に応え、いろいろな料理と飲み物をどっさり買ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達家族が生きている中世西洋風異世界には、前世日本のように、食事開始時に挨拶する習慣などない。


 ボヌール村でさえ、我がユウキ家と親族、仲間の家庭のみが、「いただきます」と「ごちそうさま」を行う。

 たまに「どうしてそういう挨拶をするの?」と聞かれるが、

 創世神様へ感謝してと答えている。

 まあ、そう言えば大抵の人は引き下がってくれるからだ。


 という事で、フードコートのような露店共有のテーブルに陣取った俺達。


「じゃあ、いただきます!」


「いただきます!」

「いただきま~す」

「いただくぜぃ!」


 俺の掛け声に、レオ、イーサン、人間に擬態したジャンが応える。


 がつがつ、ぱくぱく。

 がつがつ、ぱくぱく。


 どこかの貴族家ならともかく、我がユウキ家は庶民の家。

 そしてここは露店。

 多少お行儀が悪くてもOK。


 ある程度食べて頃合いと見た頃に、俺はレオとイーサンに尋ねる。


「どうだ? 美味しいか?」


 対して、ふたりは微妙な笑みを浮かべる。


「う~ん、とっても美味しいけど」

「ウチのごはんの方が少し美味しいかな……」


 ふたりはユウキ家の食事と比べているようだ。・

 

 ここで、のけものにはされないと、ジャンが乱入する。


「実際、坊ちゃんたちのウチの料理の方が全然! 何十倍も美味いですよ」


 すかさず、俺はジャンに追随する。


「ジャンの言う通りだ。ウチの食事の方が断然美味い。何故だか、分かるか?」


 俺の言葉を聞き、レオとイーサンはしばし考え込む。

 考える事は大切だ。

 思考停止となり、すぐ答えを求めるより全然良い。


 でも、ギブアップみたい。


「う~ん……」

「分からない。お父さん教えて」


 うん、時間もあまりないし、答えを教えてやるか。


「まず念の為、この市場の露店の料理はレベルとしては中々だし、相当美味い。それと旅先で気持ちがうきうきしているから尚更美味いんだ」


「そうなんだ」

「ふ~ん」


「でだ! 俺達が食べているユウキ家の料理はまず食材が新鮮で質が良い。この王都は、各地から数日以上かけて、食材を運ばせているものが多いからな」


「うん、新しいものの方が、肉も魚も野菜も美味しいよね」

「採れたては美味しいよ!」


「ああ、中には少し日を置いた方が、美味しくなる食材もあるし、料理も違うから単純に比較は出来ない」


「そっか!」

「ウチはほとんどハーブ料理だし、味付けは違うよね」


「ああ、味付けも違うし、料理人の腕が違う」


「料理人の腕が違う?」

「そうなんだ」


「ああ、露店の店主にも凄腕の人は居るかもしれない。だが超プロ級のアマンダとベアーテにはたぶん敵わないし、ふたりの教えを日々受けているお母さん達も全員店を開けるくらいのプロ級だもの」


「お父さん、確かアマンダママはこの王都の白鳥亭のシェフだったんだよね」


 レオが「ポン」と手を叩いて言えば、イーサンも兄の真似をして手を叩く。


「あ、そうか! それで今の白鳥亭には行かなかったんだ。アマンダママじゃない人の料理だから」


「そ~いう事。今の白鳥亭の料理はアマンダママ風。オリジナルじゃない。つまり、素材と料理人の腕が違うから、まあ絶対とは言えないけれど、ほぼウチのメシの方が美味いよ。愛情もこもってるしな! だからお前達も、食べてそう感じたんだ」


「愛情は納得!」

「うん! 成程ね!」


「で、俺が何を言いたいかといえばだ。旅先で食べるメシは、あえてウチのメシと比較せず、素直に楽しめば良い。そして一番大事なのは毎日超おいしいウチの料理を食べられる俺達は超が付く幸せって事なんだ」


「お父さんに賛成!」

「同じく」

「そうにゃ!」


 最後は4人の意見が一致。

 俺達は全員で、こぶしを「こつん」と合わせた。

 そう、納得のフィストバンプを行ったのである。

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