第5話「イルマリ様問答」
『ケン……いや、ケン様。本当に貴方には……いつもいつも驚かされる……』
イルマリ様はそう言うと、改めて優しく微笑み、深々と頭を下げた。
よっし!
ここまでは想定内。
俺の腕の見せ所はここからだ。
『イルマリ様、昨日同じ神託がレイモン様にもありました』
『レイモンにも……いや、レイモン殿ですか』
イルマリ様は一旦レイモン様を呼び捨てにし……ひと呼吸置いて言い直した。
アールヴはこれまで他種族に対し、とてもぞんざいな態度を取っていた。
一番分かりやすいのは言葉遣い。
何かあれば随所に出る。
そしてなかなかその悪癖は直らない。
まあ頑張って貰うしかない。
とりあえず今回はスルーして、俺は話を進める。
『はい! ついてはお願いがあります』
『お願い? 何でしょう?』
『レイモン様は、俺に関して、オベロン様と同じ扱いをすると約束してくれました』
『む? レイモン殿が、ケン……様に対し、オベロン様と同じ扱い? ……ど、どういう事でしょう?』
『はい、まずは話を整理しますね』
『は、話を整理?』
『ええ、俺は一応、神なのですが、いわゆる名誉職みたいなものです』
俺がそう言うと、イルマリ様は首を傾げる。
『め、名誉職……とは、何でしょう?』
『はい、名誉職とはいろいろ意味はありますが、基本的には他に本業があって、報酬を受けないという役職です』
『報酬を受けない? いや、そもそも神様に報酬などないと思いますが』
『いえ、報酬と言うか、本質的には違いますけど、ありますよ。あくまで私見ですが、俺の考えを言いますね』
『ケン様の考え?』
『はい、イルマリ様、神様の力……神力の源とは何でしょう?』
『謎かけですか? ……神力の源? ううむ、具体的な言葉が見つかりません……イメージは間違いなくあるのですが』
『イルマリ様、神力の源とは、信仰だと思います』
『信仰?』
『はい! 信者が神を絶対に信じ、敬い、祈りを奉げる……神の教えを自らの人生に重ね、実践する。そういった信者の真摯な行いが、信仰として神に絶大な力を与えると俺は思うのですよ』
俺がそう説明すると、イルマリ様は理解してくれたみたい。
『ううむ、成る程ですね……』
再び皆さまへ断っておく。
この考えは主観だと。
『重ねて申し上げますが、あくまで俺の私見ですから……念の為、天界の公式見解ではありません』
『…………』
『話を元へ戻します。神様の名誉職である俺は全世界の方々に信じて貰おうとは思いませんし、そもそも本物の神ではない』
『…………』
『本業は人間で裏方のふるさと勇者ですから……なので、家族と仲間に支えて貰えば、それで満足なのですよ』
『家族と仲間が支える……』
『はい! というわけで、オベロン様は、俺を家族、実の弟として支えると約束してくれました』
『ケン様を実の弟ぉ!? 妖精王の! オ、オベロン様がですか!』
『はい! 妖精の国アヴァロンで約束してくれました。管理神様の神託はまだ伝わっていませんが、明日、オベロン様には管理神様の神託後、改めて俺から直接、話すつもりです』
『な! と、という事は、オベロン様は貴方様のような人間を弟とお認めになったのですか?』
『はい! あの方が俺を神と知る前です。人間である俺を実の弟のように思うと、仰って頂きました』
『むむむう……』
人間である俺を実の弟に……
アールヴの祖であり、人間とは一線以上を引く妖精族が、
それも王たるオベロン様の判断が、イルマリ様を驚かせたようである。
『レイモン様も同じく、俺を弟として扱うと仰ってくれました』
『…………』
イルマリ様が無言となる。
また以前の価値観で、物事を考えたに違いない。
そこで、俺は教育的指導。
『駄目ですよ、イルマリ様』
『え? ダメ?』
『はい! レイモンなどという人間は、この際どうでも良い……たった今、そうお考えになったでしょう?』
『う!』
『……まあ、良いですよ。……ここでお願いです』
『お願い?』
『いきなりで厚かましいですが、イルマリ様にもオベロン様、レイモン様と同じように、俺を弟として支えて頂けませんか?』
『な! 私も……お前、いや、貴方様を弟と?』
『はい! 兄として、家族として、俺を支えてください。不出来な弟のこの俺を、存分に使いまわしてください』
『か、神様を使いまわすって……』
『大丈夫です! 言ったでしょう、俺は正式の神ではなく、名誉職だって。これも先ほど言いましたが、俺が信仰を欲するのは、家族と仲間だけで構いません』
『ケンが信仰を欲するのは、家族と仲間だけ!』
『はい、イルマリ様も家族に入っていますから!』
『な、成る程! おお、わ、分かりました。いや、分かったぞ、ケン!』
『はいっ! ご理解頂けましたかっ!』
『ああ、ようやく分かった! ケン! お前と私は家族か! ならば今までと同じ通りにお前と接すれば良いのだなっ!』
『はい、仰る通りです。その方が助かります!』
『うむ! もう一度確認だ! 私イルマリは、アールヴ族の長として! と同時に、家族であるお前の兄として、世界を支えていけば良いのだなっ!』
ああ、良かった!
メフィストフェレスのほざいた事は真っ赤な偽りだ。
やはりイルマリ様は分かってくれる。
理解に少し時間がかかるだけだ。
『はい! 宜しくお願い致しますっ! 兄貴っ!』
『あ、兄貴!?』
『はい、これも俺の私見ですが、兄貴とは近しい兄の呼び方です』
『おお、近しい兄の呼び方かっ! では、オベロン様もレイモン殿も、ケンからそう呼ばれるのだなっ?』
『はい! レイモン様にはもうOKを取りました。オベロン様にも明日ご了解を頂きます!』
『オベロン様にもか? 成る程! それは良い!』
という事で、そろそろ移動……
その前に、最後の念押し。
『それと、イルマリ様』
『な、何だ?』
『今回明かした、俺が神様だって事は厳秘です。本来は天界の極秘事項だそうです』
『分かった!』
『なので俺はアマンダを含め、嫁達にも一切言いません。イルマリ様もご自分の胸にだけ納めておいてください。これから会う者達にも内緒ですよ』
『これから会う者達にも内緒? あ、ああ! 分かった!』
『では、イルマリ様、いえ、兄貴! ……そろそろ行きますよ』
『うむ! 可愛い弟よ! 共に行こうじゃないか!』
あらら、俺へ「可愛い」が付いてしまったが……
最後の締めもレイモン様との時とほぼ同じ。
告げるべき事をイルマリ様へ告げ、俺はピンと指を鳴らし、
魔法を発動させたのである。
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