第4話「再会」
上機嫌のレベッカ父ガストンさんに正門を開けて貰い、俺とオディルさんは無事ボヌール村の中へ入った。
オディルさんは改めて正門と木柵を眺めていた。
規模こそ王都の巨大な正門とそびえるような高い街壁とは全然比べものにならない。
だが、ガストンさんが見せた警戒の物々しさにオディルさんはつい尋ねてみたくなったようだ。
「副村長様、こんなに頑丈な正門と木柵で村を守るという事は魔物とか山賊とか、敵がしょっちゅう襲って来るのでしょうか?」
「ええっと……そうですね。昔は週に2回から3回はそういった奴らの襲撃がありましたね。過酷な戦いの連続でしたよ」
「じゃあ、最近は?」
「めっきり減りました。月に1回あるかないかという感じです」
「それは良かった。平和なのは何よりです」
オディルさんはそう言うと、黙って俺へ意味ありげな視線を送って来た。
「貴方が魔物や山賊も掃討してるのね」って、言いたいらしい。
しかし俺は臆さず動じず曖昧な眼差しを返すだけだ。
そもそも村でも……この俺が『上級魔法使い』をも遥かに超えた『ふるさと勇者』である事を知っているのは、ウチの嫁ズだけだと伝えてある。
大変恐縮ではあるが、基本的に伏せてある事だから、オディルさんには気を遣って物言いをして欲しいとお願いしていた。
ガストンさんとのやりとりには、彼女、早速その気遣いを見せてくれた。
そうこうしているうちに出迎えるユウキ家の一個連隊が見えて来た。
嫁ズはリゼット、クッカ、ソフィ、クラリス、サキ、アマンダの6人。
クーガーとミシェルはレベッカと赤ん坊のお世話係として残ったのだろう。
そして、グレースはベルがご機嫌斜めで出られなかったのか?
子供は赤ん坊3人を除くタバサを始めとした計7人。
出迎えたのは全員ではないが、家族13人でもずらりと並べば壮観である。
王都を出発する時、オディルさんをボヌール村へ連れて行く事を告げ、村の正門に到着した際、迎えに来るよう伝えたのである。
ちなみに……
オディルさんが村へ来ると聞き、レベッカの喜びようは尋常じゃなかったので、 クッカに鎮静の魔法をかけて貰ったほどだ。
アマンダを見たオディルさんは、人間だけでなくアールヴまで居るのを見て再び驚いた。
しかし全員が手を振っているのを見ると、嬉しそうに微笑んだ。
そしてここでガストンさんが、
「じゃあ、俺はここで。仕事に戻るから」
「ありがとうございました。副村長様、数日お世話になります」
「ははは、何もない村ですが、飯はそこそこ美味くてのんびり出来る。どうぞくつろいでいってください」
愛娘が人生の恩人だと言っていたオディルさんに会えて、ガストンさんも嬉しかったのだろう。
笑顔で再び深く頭を下げ、正門へ戻って行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「オディル・ブラン様、ようこそボヌール村へいらっしゃいました。大したおもてなしは出来ませんが、くつろいでいってくださいませ」
ユウキ家のまとめ役リゼットが凛とした声で挨拶すると、他の嫁達は黙って深々と頭を下げた。
子供達も一礼する。
実は……俺に11人嫁が居ると告げた時、オディルさんは驚くと共に、ちょっと不快そうな表情も見せた。
元々ヴァレンタイン王国は一夫多妻を認めている。
しかし愛する夫ひと筋のオディルさんから見れば、嫁11人はいくら何でも多すぎるし、俺の事を女に見境のない『ふしだら男』だと思ったのかもしれない。
だがリゼットを中心とした秩序ある雰囲気に考え方を変えてくれたようだ。
「初めまして、皆様。オディル・ブランと申します。今日から暫くお世話になります、何卒宜しくお願い致します」
オディルさんが丁寧に挨拶を戻すと、リゼットはにっこり笑った。
「さあ、我が家へ。レベッカが待っています。オディル様のお顔を見せてあげてください」
「はい!」
「部屋も用意してありますから、ゆっくりしてください」
「分かりました」
リゼットが先導し、俺達は家へ。
子供達はもう遠慮せずオディルさんへ話しかけていた。
はは、サキも同じだ。
天真爛漫なサキに釣られてオディルさんも少女のように笑っている。
そんなこんなでユウキ家到着。
早速、レベッカとご対面。
レベッカが寝ている部屋には、やはり世話係としてクーガーとミシェルが詰めていた。
生まれたばかりの子と一緒に寝ていたレベッカは、懐かしいオディルさんの姿を見て、瞳が潤んでいる。
感極まったらしく、レベッカの目には大粒の涙があふれて来た。
「オディルさん、ご無沙汰しておりました……そしてありがとうございます。私の我が儘を聞き入れてくださって」
レベッカの涙まみれの顔を見て、絞り出すようなかすれた声で発する言葉を聞き、オディルさんも感極まったのか、目が真っ赤になっている。
「と、とんでもないわ。レベッカさん、本当に良く頑張ったわね。おめでとう」
熱く見つめ合うレベッカとオディルさんを、俺達は優しく見守っていたのであった。
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