第19話「川の字プラスワン」

 いよいよ就寝タイムとなって……

 俺達は4人一緒に寝る。


 ちなみに俺は昔から、部屋を真っ暗にしない。

 いつも小さな豆電球を点けていた。

 理由は簡単、超が付くこわがりだったから……


 この異世界に来てからも、その習慣は同じ。

 部屋は、魔導灯の淡い光に満ちている。


 そして、敢えて言ってはいなかったが、俺の寝るベッドは超が付く巨大。

 用途は一目瞭然。

 ひとりではなく、多人数で寝る為だ。


 何?

 スケベだって?

 酒池肉林の夜?

 男の願望?


 いやいや、違う。

 エッチだけじゃない。

 お互いの心を、そっと寄り添わせる意味もある。

 女子の貴女にはもう分かっているよね?


 そして男子の貴方が考えた事も言葉も、言い方は微妙だけど確かに当たってはいる。

 嫁は9人、彼女達と愛の行為をした結果、子供も8人居るからね。

 

 だけど、嫁ズとは敢えてエッチしなくてもOKなんだ。

 抱き合って、単に眠る事も多い。

 子供達だって、何人も混ざって寝るよ。


 何?

 嘘くさいって?


 いやいや!

 貴方も、いずれ分かります。

 肉体的な繋がりは勿論なんだけど、女子との精神的な結び付きって凄く重要さ。

 深い仲の恋人同士や夫婦になれば、尚更なんだ。


 さてさて!

 クッカとリゼットが両端に寝て、俺が真ん中に寝て、ベアトリスと向き合う形で寝る。

 ベアトリスと俺の距離は30㎝もない。

 大胆といえば、大胆だが、俺にはベアトリスの目的が分かる。


 つい先ほどまで、嫁ズとハーブの話で盛り上がっていた、ベアトリスであったが……

 俺に対し、特別に聞きたい事があるのだ。


『ねぇ、ケン。少しお話ししたいの、良い?』


『ああ、クッカ、リゼットと共有しても良いかな?』


『ええ、構わないわ』


 あっさりベアトリスが了解すると、魔導ランプに照らされた淡い灯りの中で、クッカとリゼットが頷いた。

 一緒に話が出来るというだけでなく、気持ちも共有出来ると感じ、嬉しかったのだろう。


『早速だけど……ケン、貴方は一旦死んでるじゃない。その時って……どうだった?』


 ベアトリスが、俺へ聞くのは分かる。

 彼女の言う通り、俺は一旦死んで、転生している。

 死をしっかりと経験している。


 片や、ベアトリスは完全な死を迎えてはいない。

 幽霊とは本来、魂の残滓だが、自我や理性は殆ど残ってはいない。

 だから元は人間であっても、悪霊となる可能性がある。

 情け容赦なく、人間へ害を及ぼす場合も多い。

 

 しかしベアトリスは、殆ど元の人間に近い『残滓』として存在している。

 そしてこの質問は嫁ズを始めとして、多くの相手と交わされて来た。

 俺の答えは……いつも決まっている。

 

『ああ、その話はもう結構な数の相手としたけれど……いつも同じ答えさ。……分からない、そう言うしかない』


 俺の極めて曖昧な答えに対し、ベアトリスは少しだけ不満な表情である。


『え? 分からない? それって……』


『ああ、俺が異世界へ来る事になった経緯いきさつを、憑依したベアトリスは知っているだろう?』


 そう、ベアトリスは最初、俺に憑依した。

 最近は、リゼットが殆どだけど。

 その時にお互いの魂を見合う事になった。


 仕組みは到ってシンプル。

 人の魂の中にはいくつも記憶の部屋、その部屋の入り口となる扉がある。

 その扉を開けて中を見れば、相手の記憶が体感出来るという仕様だ。


 ベアトリスが、俺の人生を見たのと同様……

 俺も彼女の人生を見て知っている。


 だがベアトリスは俺の魂を見て納得したが、違和感を覚えたらしい。


『ええ、ケン、貴方の魂を見たわ。……いろいろ大変だったわね』


『まあ……いろいろあったけど……何とかなった。ここまで、たくさんの人に助けて貰ったよ』


『分かるわ……家族全員で助け合ったみたいね……でもね、魂の中にある記憶の部屋を良~く見たけれど……ケンがどうして死んだのかが、分からない……』


『ああ、俺の言った通りだろう?』


 ベアトリスは俺が体験した『死』を知りたかったのだろう。

 そして心構えをしたかったに違いない……

 でも俺が死んだ経緯は今でも謎。

 運命の神により、死を与えられたらしいが、管理神様もはっきり教えてはくれなかった。

 多分、死に関する記憶の部屋も……

 大いなる意志により、手が加えられているのは想像に難くない。

 

『うん……全然分からなかった。それに、いくつか記憶を知る扉に鍵もかかっていた……』


 微妙な問題なので、聞かれるまでは言わなかった。

 先に、言っておけば良かったかもしれない。


『すまない。その施錠はいろいろあって、この世界の管理神様から厳秘だと言われている部分さ。クッカやリゼット達、家族にも言っていない』


『そう……なんだ……』


『ああ、ごめんな! で、話を戻すと、俺は何故死んだのか、原因さえ分からない……いきなり異界へ連れて来られ、死んだと言われ、管理神様、そしてクッカ達女神に会った』


『ふう~ん……ねぇ、じゃあ、クッカは? ケンの事、どう説明されていたの? そもそも女神になる前、自分は何者だった……なんて考えなかったの? 貴女の魂も見たけど良く分からなかった……』


 鼻を鳴らしたベアトリスは、ここで質問の矛先をクッカに変えた。

 対して、ベアトリスから質問されたクッカも、自分の体験を語る。


『ええ、後で考えると辻褄が合ってくるけれど、旦那様と同じよ』


『ケンと?』


『ええ、私はクミカの記憶を持っていないでしょ? なので……気が付いたら、新人女神として天界に居た。そして後方支援課へ配属され、すぐに管理神様から、旦那様のサポート役として推薦したけど会うかい? って、聞かれたわ』


『へぇ、天界かぁ……私には想像もつかないわ』 


『ごめんね、それ以上は天界の守秘義務があるから言えないの。さっきの話じゃないけど旦那様にも伝えてはいない。私の魂にも、封印されている場所があったでしょ?』


『ええ、あったわ……』


 クッカの魂の中にも、見る事の出来ない記憶がある……それは天界の秘密。

 さすがにベアトリスは納得し、大きく頷いたのであった。

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