第19話「お子様軍団の社会科見学③」

 正門を後にした俺達が、次に来たのは……

 中央広場に隣接した市場である。

 エモシオンの市場には、主に屋台という感じの簡易な店が、たくさん軒を連ねていた。

 また地面に敷物を広げ、商品を並べただけの『店』も多い。


 昨日、エモシオンへ来た際、傍を通ったが……

 オベール家の城館へ急いでいたので、子供達はちゃんと見る事が出来なかった。

 なので、改めてじっくり見せる事にしたのである。


 子供達は「凄い!!!」の感情が押し寄せて来て、まともな言葉が出ないらしい。


「わぁ!」

「あう!」

「むむ!」

「うう~っ!」


 様々な表情で唸る子供達……

 うむ、可愛い。


 じゃなくて!

 気持ちは、俺にも分かる。

 

 ボヌール村でずっと暮らして来た子供達は、『お店』といえば、ボヌール村の大空屋しか知らない。

 その数十倍ある様々な店に圧倒されてしまうから。

 ずばり、不思議いっぱいなワンダーランドだものね。


 今でも思い出す。

 田舎暮らしの俺だってそうだった。

 両親が離婚して、都会へ引っ越して……

 

 母と祖父母に、生まれて初めて遊園地へ連れて行って貰った時は、同じ顔して、同じ反応だったもの。

 つまり俺の子供は皆、俺に似ているって事。

 ああ、嬉しい。

 

 という、超親馬鹿野郎は、どこかへ置いといて……

 

 まずは、食料品を見る。

 麦や野菜など普段見慣れたもの以外に、子供達の目を引いたのは様々な形をした色鮮やかな果実の山、そして凄い種類の香辛料だ。


 これらは殆ど国外から来る。

 南の遠い国から、今回同行したような商隊がわざわざ運んで来ると教えたら……

 子供達は、目をキラキラさせている。


 俺の手を「ぎゅっ!」と掴み、尋ねて来たのはシャルロットだ。


「パパ、南の国ってどこ?」


「うん! このエモシオンよりず~っと南にあるアーロンビアって国だ。今回俺達が旅したより、いっぱい時間を掛けて遠くから運んで来る」


 俺はそう言いながら、以前出会った商隊を思い出した。

 

 昔、従士達と旅へ出た時……ゴブリンの襲撃から救ったっけ。

 今頃……どうしているのだろう?

 

 あの時、さすがに酒は飲まなかったものの……

 お礼として、食べた事のない南国の料理をたくさん振る舞われ、昼間からめちゃくちゃ踊ったっけ。

 

 またおみやげだと言って、珍しい香辛料をいっぱいくれた。

 あの人達、まだ元気で商売の旅をしているのだろうか?

 ※俺と従士達の小さな旅編 第5話参照。


 俺が昔を思い出して、感慨にふけっていたら、「つんつん」と脇腹を突かれた。

 見れば、シャルロットが顔をしかめている。


「パパ、もしかして……あんな怖い人が出て来るの?」


「ああ、シャルロット、当然ああいう奴らもたくさん襲って来る。それに魔物だってい~っぱい出る。でも負けずに戦い、仲間と荷物を守りながら、エモシオンへ持って来る。更にここから王都へも行くってさ」


「ええっ!? お、王都にも? すご~い!!!」


 ああ、シャルロットの奴、可愛い。

 まるで、金髪碧眼の西洋人形みたいだ。

 目を、真ん丸にして驚いてる。

 ミシェルも小さい時、こんな感じだったのだろう。

 

 シャルロットは王都には行った事はないけれど……

 グレースやレベッカから、「凄く遠いよ~」って聞いていたみたい。


 愛娘の、あまりの可憐さに顔がほころんだ俺は、話が弾む弾む。 


「ああ、凄い。それにアーロンビアにも俺達と同じように苦労して、野菜や果物を育てる人達が居る。南の国はとっても暑いから、大変みたいだぞ」


「ボヌール村よりも暑い?」


「ああ、全然。想像出来ないくらい暑いそうだ。南へはパパも行った事ないけど、砂漠と呼ばれる、砂だけの場所もあるらしいぞ」


「へぇ!」 


 シャルロットは、「大好きなママと同じになりたい!」って言うのが口癖。

 ママのミシェルと同じ、つまり商人志望。


 一方……

 意外なのが、イーサン。

 レベッカは自分同様、勇ましい狩人にしたいらしいが、商売に興味があるらしい。

 今も熱心に、店と商品を眺めている。

 

 だがレベッカも最近は、息子の希望を許容していた。

 自分が、念願の細工職人になれた事も大きいようだ。


 そんなこんなで、親子で凄く盛り上がったから……

 とりあえず仕入れやおみやげ購入は後にし、見学を徹底する事にした。

 生活必需品、日用品を興味深そうに見て、雑貨を売っている店で子供達は大歓声をあげた。


 そう!

 子供にとっては最高の雑貨、おもちゃが並んでいたからである。


「パパ、行って来る」

「行ってきま~す」


 さすがにタバサとシャルロットも、俺から離脱。

 レオとイーサンは、すでに物色を始めている。

 更にフィリップも加わり、お子様軍団は大いに盛り上がったのであった。

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