子供達と旅に出よう編

第1話「新たな仲間達」

 ボヌール村で行われた『祭り』の後……

 村に新たな仲間が増えた。


 当初の予定通り、アンリとエマは移住して来たのだが……

 ふたり以外にも村民が増えたのだ。


 結果、今日も早朝から、『例の挨拶』が飛び交う。


「おはよう! アベル、アレクシ、アンセルム」


 打てば響くとは、まさにこの事。

 ソフィの挨拶に対し、即座に反応がある。


「おはようございます! ソフィ様、今日も頑張りましょうっ」

「おはようございます! ソフィ様、良い朝ですねっ」

「おはようございます! ソフィ様のお声を聞くと、私達3人、仕事にも一層身が入ります」


 そう、あの祭りの際のダンスが、やはりフラグだったというか……

 デュプレ3兄弟も、暫くしてボヌール村移住を志願したのだ。


 長かった7年の歳月を経て、ソフィことステファニーと再会したアベル達3兄弟は、新たな人生へと踏み出す事を決めた。

 まず直属の従士長に相談、更に従士長と共に俺へ相談した上で、オベール様へ暇乞いを申し出たのだ。


 実は俺も、3兄弟がこうなる事を予測して、オベール様夫婦へ事前に話を入れていた。

 主ステファニーとの再会、ボヌール村での厳しくも楽しい暮らし、そしてあの祭りの日の、兄弟達の爽やかな笑顔を見たら……

 彼等の次の行動を確信していたから。


 幸いオベール様もイザベルさんも、既に了解をしてくれている。

 俺がソフィことステファニーを、3兄弟へ引き合わせた際、時間差でオベール様夫婦にも入って貰った。

 再会を心の底から喜ぶデュプレ3兄弟を目の当たりにして、オベール様は自分が愛娘と再会した時を重ねたようだ。


 結果、3兄弟がこれまで積み重ねたオベール家への忠義という信頼が、ステファニーによるものだと認識していたオベール様は即座に移住をOK。

 エモシオンの祭りにより、新規の人材獲得と既存の者の配置転換が上手く行っていた事もあり、イザベルさんも快諾レベルでOKしてくれた。


 ちなみに……

 3兄弟が、ソフィをこのように尊称で呼んでも違和感はない。


 何故ならボヌール村の村民達も、俺がオベール家の宰相だって知っている。

 であれば、俺の嫁ソフィは宰相夫人。

 元従士であるアベル達が、『様』を付けたって全然当たり前なのだ。


 こうして……

 アンリと共に、3兄弟は村でも俺の従士となり、間接的にソフィへ仕える事となった。

 彼等が望んだ通り、また『昔と同じ』になったのである。


 そして、


「ソフィ、おはよう!」

「イネス、おはよう!」


「ソフィ、おはよう!」

「マリアンヌ、おはよう!」


「ソフィ、おはよう!」

「ルシール、おはよう!」


 ソフィが3兄弟の後に挨拶を交わすのは、可愛い村の女子達。

 そう、あの祭りの夜、3兄弟がそれぞれペアで踊った相手なのである。


 この彼女達からも、3兄弟へ、村への移住要請があったらしい……

 主のソフィに仕えるというより、こちらの方が移住を決意した大きな原因かもしれない?


 ソフィと朝の挨拶をした後、女子達は、


「畑へ行こう、アベル。今日はトマトの苗の植え方を教えるから、しっかり覚えてね」


 対して、


「おお! イネス、頑張って覚えるぞ」


 更に、


「アレクシ、今日は家畜の世話よ」

「了解だ、マリアンヌ」


 とくれば、


「アンセルム、畑にたくさん生えた草むしり……手伝ってね」

「任せろ、ルシール。お前の分までぜ~んぶ、やってやる」


 それぞれ会話をした後、笑顔で見つめ合い、3兄弟は各自カップルとなった。

 手までしっかり繋いでる。

 そして熱々の幸せオーラをたくさん放射しながら、農地へ向かって歩いて行った。


 と、その時。


「おはようございます! ケン様」

「おはようございます! 村長!」


 次に挨拶して来たのが、これも新村民となったアンリとエマ。

 相変わらず仲が良い。

 当然、しっかり手を繋いでる。


「おはよう!」

「おはよう!」


 俺とソフィが挨拶を返すと、


「いやぁ、アベルさん達……朝から凄いですね」

「本当に仲が良いわ……」


 アンリとエマは、顔を見合わせて苦笑いしていた。


 ふたりの言葉を聞き、俺もつい苦笑した。

 いやいや、ラブラブの君達も、けして3兄弟に負けていないよって。


 でも敢えて口にはしなかった。

 だって新参同士、アンリとデュプレ3兄弟は良きライバルって感じなんだ。


 祭り以来、アンリはアンセルム達と良く喋るようになった。

 まだ10代のアンリにとって、兄弟は全員が年上だから、良き先輩として敬いつつ、絶対負けないようにと思っているみたい。


 だから……


「僕達も負けていられないな」

「そうね、気合を入れなきゃ!」


 そう宣言すると、アンリ達も手を繋ぎ、畑へ行ってしまった。


 はは、アンリ。

 負けないって、仲の良さ?

 それとも仕事?

 まあ、両方だろうな。


 と、俺がまた苦笑していたら……


「ねぇ、旦那様、私達も早く行こう。クーガー姉とレベッカ姉が待ってる」


 ソフィが、いきなり腕をからめて来た。

 急に甘えん坊になったのは、3兄弟やアンリ達に『刺激』を受けたせいだろう。


 ちなみに、今日の俺達の仕事は狩り。

 メンバーは他に、クーガー、レベッカ、そして息子のレオとイーサン。

 フルメンバー6人で、新鮮なお肉をゲットしなきゃ。


 少女時代のソフィは乗馬が得意で、結構狩りをしていたという。

 ボヌール村に来ても、狩りへ行くのは変わらなかったが……

 最近は、グレースのお世話でずいぶん御無沙汰だった。

 そういう事で、久しぶりの出撃……


 俺とソフィは寄り添い、クーガー達の待つうまやへと歩いて行った。

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