第22話「店も手伝わなきゃね!」

 女子のすもう大会が、クーガーの優勝で終わり……

 続いて、男子の大会が始まった。


 出場者が94人と、女子の6倍近い大人数なので、開始から終了まで結構な時間が掛かる。

 その上、合間にアームレスリングや文官向けの小イベントも行われる。

 

 前にも言ったけれど……

 ここまで盛りだくさんにしたから、さすがに1日では終わらない。

 翌日の計2日間掛けて『祭り』は行われ、男子すもう大会の決勝は明日に行われるのである。


 始まったばかりだけど……オベール家城館内の様子を見た俺は思う。

 今回、この『お祭り』をやって、本当に良かったと。

 運営に関して、オベール家全員が一丸となったから。


 企画を発案した俺、『弟子のアンリ』が先頭を切って頑張るのは勿論である。

 だが、領主のオベール様、イザベルさん夫婦までが雑用をこなすのを見て……

 家令、使用人達が「これは、いけない!」と気合が入り、従士、衛兵らも「乗り遅れてはいかん!」と……

 自分本来の仕事をこなしながら、全員で仕事を分担してくれた。


 また、殆どの者が『採用イベント』にも参加してくれた。

 これも良かったみたい。


 俺が事前告知した、

「参加すれば、自分の評価に繋がり、あわよくば給金が上がるかも……」という、極めて現実的なきっかけだったが……

 実際にやってみて、良い気分転換になったようだ。

 

 出た結果に一喜一憂しながらも、また自分の持ち場や運営の仕事に戻って行く……

 その表情は、とても生き生きとしていた。

 「自分はこのオベール家を支える一員なんだ」と、改めて実感したに違いない。


 それに俺は少し考えて……

 祭りの手伝い、すなわち『運営担当』の組み合わせは、全然違う職種同士にした。

 いつもの職場の繋がりを関係なく、シャッフルしたのだ。

 

 考えて欲しい。

 日々自分の仕事だけをしていると、横の交流なんてあまりなくなるじゃない。

 オベール家という、同じ職場に居ながら、普段は全然没交渉だから。


 具体的にいえば、門番と料理長とか、従士と庭師とか、メイドと衛兵とか……

 普段接点のない者同士がペアになって、一生懸命仕事をすると、意外なコミュニケーションも生まれる。

 話してみて、お互いの仕事の内容とか見えない苦労も、改めて知る事になるだろう……


 さてさて!

 やがて男子のすもう大会が開始され、アームレスリングや文官小イベントも何回か行われ、暫し見守ったが、運営自体、問題はなさそう。

 

 そして俺とアンリが『すもうの行司』をやるのを、羨ましそうに見ている者が何人も居る。

 警備担当の、従士長以下従士や衛兵達だ。


 試しに聞いてみたら、「ぜひ! やりたい」と言い出したので、基本的なルールを説明してやった。

 詳細にルールを書いた紙も渡した。

 そしてオベール様の了解を得て、俺とアンリが戻るまで、後を任せる事にしたのだ。


 こうして……

 時間を作った俺はアンテナショップの仕事を手伝う為、エモシオンの町へ、アンリと共に出かけたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 すもう女子大会に参加したクーガー、レベッカ、ミシェルは、決勝戦が終わると、速攻で城館を退出していた。

 そのまま残って、男子のすもう大会を見たかったのはやまやまだろうが、「不公平だ!」と他の嫁ズが怒ってしまう。

 もう城館を出て1時間以上経っているから、既にアンテナショップの店舗で働いている筈である。


 俺とアンリはずっと城館に居たから、祭りにより、店がどれくらい混んでいるのか、全く分からない。

 ただ『プレオープン』という事で、スタッフは全員不慣れなのは間違いない。

  

 不慣れだと、何かにつけてつまらないトラブルも起きやすいだろうし、俺やアンリが居れば、防げる場合も多い。

 だから、なるべく早く応援に行った方が良いのだ。


 気になった俺は、アンリに声を掛ける。


「おい、ちょっち、急ぐか」


「はい、早く行かないと、エマにひどく叱られますから」


 は?

 エマに叱られる?


 意外なアンリの言葉。

 こいつ、仕事中はいつも毅然としているから、てっきり亭主関白になると思っていたのに……

 4つ年上の姉さん女房となる、エマには形無しのようだ。


 なので、当然突っ込みをしてやる。


「……何だ、お前、もう尻に敷かれてるの?」


「まあ少し……ケン様を見習って敷かれてます」


 と、例によって上手く切り替えして来たアンリの顔は、苦笑しながらも、凄く嬉しそうだ。

 「俺、最高に幸せです」って、しっかり顔に書いてある。

 はいはい、ご馳走さま!

 分かりました!


 閑話休題。

 

 そんな俺達が向かう店舗は、中央広場付近にある。

 オベール家所有の建物で、アンテナショップ用に借りたものだ。


 もうひとつの、『祭り』の会場となったエモシオンの町から、大きな歓声が聞こえて来る。


 だが、常人以上の聴覚を持つ、俺の耳へは更に……

 

 私設の小さな楽隊のシンプルな音楽とか、芸人の出す派手な音や大声……

 そして老若男女問わず、様々な人々が発する大きな喜びの声が飛び込んで来たのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る