第6話「家族会議③」

「ええっと、各自から意見を出して貰うのも良いんですけど……収集がつかなくなる可能性もありますね」


 リゼットがそう言うと、俺に向かってアイコンタクトを送って来た。

 「何か、アドバイスが欲しい」って言う合図だ。

 ならば、要望に応えましょう。


「リゼット、衣食住プラスで、意見を出して行こうか」


「衣食住?」


「うん! 文字通り、着る、食べる、住む、さ。それぞれについて考えて、現状でボヌール村では足りない部分はどこだって意見を出せば良い。プラスはそれ以外、医療とか娯楽とか、諸々。最終的に順番を付ければ良いのさ」


「順番ですか?」


「ああ、順番。すなわち優先順位って奴。不自由な部分が全部解消されるに越したことはないけれど、現実的には難しい」


「確かにそうですね」


「だったらさ。全てを出し終えた上で、今、一番解消されれば良いモノは何かって議論をして、どんどん順番を付けて行く。最後は実際、応募して来た人とすり合わせをして、適材適所だと思える人を採用するんだ」


 俺が意見を述べたら、この場の嫁ズ全員が納得して、笑顔でフォローしてくれる。


「成る程!」

「分かり易い!」

「さすが、旦那様」


 ああ、褒められちゃった。

 ちょっと考えれば、誰でも思い付く当たり前の事なんだけど、上手く俺に言わせてくれたみたい。

 

 こんな時、俺に振って、ちゃんと夫を立ててくれる、リゼット始め嫁ズの心遣いを感じる。

 凄く、嬉しい。

 気分が良いから、更に意見を言わせて貰おう。


「あと、これは一応、考えておいた方が良いんだけど……」


「考えておいた方が良いですか?」


 リゼットは、「にっこり」笑って、俺の言葉を復唱する。

 おお、相変わらず聞き上手だ。

 司会進行だけではなく、こんなところも長けている。

 

 だから、俺の話も「どんどん」勢いがついて行く。


「ああ、今回は、アンテナショップ、ボヌール村、エモシオンの人材募集をする事になったじゃないか」


「ええ、そもそもアンテナショップの人材不足から始まった話ですけど、落としどころは、優秀な人材を導入して、ボヌール村とオベール家の共存共栄って趣旨ですものね」


「うん、アンテナショップは、ボヌール村とエモシオンの案内役兼特産品の販売担当、そして店内カフェの調理、給仕担当のスタッフ、オベール家の募集は役人というのは決まってるから良いとして……ボヌール村で生計を立てて生活するのは基本、前提が違うと思うんだ」


「前提ですか?」


「ああ、良く考えてみてくれ。同じスキルを持っている人でも、ボヌール村では商売として専業にして行くには難しい。エモシオンならそこそこ成り立つと思うけど」


「成る程、私達のボヌール村は小さな村だし……お客さんって、すご~く限られますからね」


「ああ、リゼットも前、言ってたよな?」


「はい! 私もハーブ園を造りたいと思った時に、村でのカフェは駄目だって思いました」


「そうそう、この村で仕事をするなら、よほど需要があるか、商売にならない限り、兼業でやって貰うしかない。今の俺達みたいにね」


「兼業? ああ、本業を持った上で、同時にやるって事ですね。……例えば農業とか、狩りとか」


 リゼットの言う通り。

 俺達は基本農民だけど、何でもやる。

 狩りなんかは勿論、大空屋での物品販売、宿屋業務。

 自分の家の修理から、服作り、果てはあくまで目立たないようにだけど、回復魔法を使った医療行為まで……


「そう、大空屋なんかは、村で唯一の店だからまだ良いけど……クラリスの服を考えてみてくれ。服だけ作って、ボヌール村だけで商売しても成り立たない」


「成る程……でも今回、エモシオンでクラリスの服や絵が凄く売れたらいけるかも……」


「ああ、クラリスの服だけじゃなく、リゼットとクッカのハーブも含めてな」


「はい! 村の商品全部が、ぜひ売れて欲しいです」


「うん! 指名で買いたいという商品を作れる商売なら、ボヌール村在住でも、エモシオンや王都で売るなりして、専業でやっていける可能性はある。あとは利益を出せる生産規模と掛かる経費を考えた採算次第だ」


 俺がそう言うと、


「旦那様、納得! 基本は農業に従事して、兼業、もしくは片手間でも良いよって人じゃなきゃ、村への移住をお願い出来ないぞって事でしょ?」


 レベッカが、熱い眼差しを投げかけて来た。

 そう、実は少し前に彼女から、ある相談を受けている。

 相談というのは……

 いずれ、アンテナショップで、自作のナイフを売ってみたいってもの。


 そうなんだ。

 柄造りの腕が上達するにつれ、レベッカの新たな夢が、大きく大きく膨らんだ。

『ナイフの柄職人』として、王都のオディルさんみたいに、デビューしたいって気持ちが強くなったらしい。

 当然、本業であり、大好きな狩人をやめてまでって事じゃない。

 兼業で、地道にやって行きたいって希望なのである。

 

 だが、大きな課題がある。 

 肝心の『刀身』を作れる職人が、村には居ない。

 でも実は……もう、分かるでしょ?

 

 そう!

 この俺が『鍛冶』をやろうって思っている。

 実はレベッカを含め、嫁ズ全員に内緒にしている夢って……

 鍛冶屋になって、レベッカと合作の、カスタムナイフを作るって夢なんだ。

 現在ボヌール村に鍛冶屋は居ないし、「丁度良いかな」って。

 誰か、良い師匠と巡り合えたら嬉しいけど。 

 

 俺は笑顔で、レベッカへ頷く。


「リゼットやレベッカの言う通りさ。よし、じゃあ各自、意見を出してくれ。衣食住プラスの順でな」


「「「「「「「了解!」」」」」」」


 俺の打診に対し、嫁ズは全員大きな声で、元気良く返事をしてくれたのである。

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