第2話「真夜中の依頼②」

『ははは、さすがに吃驚びっくりしたぁ?』


 相変わらず姿は見えないけれど……

 俺が驚くのを、どこかから見ているのだろう。

 管理神様ったら、悪戯っぽく笑っていた。

 片や俺は……唖然あぜん


『……ええ、さすがに吃驚ですよ。神様になれだなんて』


『だよねぇ。じゃあ、これからもっと、吃驚させちゃおうか? 具体的な説明をするよ~ん』


『お、お願いします』


 俺は「ごくり」と唾を呑み込む。

 転生したてで、レベル99にして貰った時も相当驚いたけど……

 今度は、けたが違う。

 なんたって、神様になる。

 これって、凄い。


『最近はねぇ、神様も人手不足なんだよ~ん。それで君に白羽の矢が立ったってわけだよ~ん』


『そう……なんですか?』


『うん、君ならぴったり適任だよ~ん。で、ね。これから頼む仕事において、ケン君の立場はぁ、正確にいえば神様代理ってとこだよ~ん』


『神様……代理』


『うん! 君はレベル99で能力は神様並みだけど、一応人間だから神様代理だよ~ん。ちなみに使徒より格は断然上だよ~ん』


『な、成る程』


『正式な辞令の肩書きでいえば、天界の臨時職員という事になるよ~ん。お願いする業務内容は、天界から下界へ派遣されるサポート担当だよ~ん』


『天界から下界へ派遣されるサポート担当って? ああ、もしかして』


 俺には、『ある光景』が思い起こされた。

 それは……

 死んで転生した俺が、現在住む異世界へ来る前、ある『異界』に居た時の光景だ。

 今みたいに、『声だけ』の管理神様と、クッカを含め3人の美しい女神達が居た……


 管理神様、俺が何を考えているか、見抜いたみたい。


『そう! そのもしかしてだよ~ん。イメージとしては、君のお嫁さんのクッカが、女神だった時の仕事と同じだよ~ん』


 クッカが女神だった時の仕事……

 ええっと、思い出せ。

 確か、彼女はこう説明してくれた。


 ……天界は我々神が住まう場所。

 神様連合とは、創世神様をトップにして、様々な神様の所属する組合みたいなもの。

 ケルトゥリ様、ヴァルヴァラ様、クッカの所属する後方支援課は創世神様の教えに基づき、天界の声を地上の人々へ授けて加護を与える、すなわちサポートするのが主な業務のセクション……なのだと。

 この俺が……あの3人の女神様と『同じ仕事』をやるのか?


 依頼内容も聞かず、気軽に引き受けておいて何だが……

 今になって、やっぱり心配になって来た。


『う~ん、しかし……こんなに不器用な俺が神様をやるのですか? 果たして、出来るのかなぁ……』


 俺の不安&疑問に対し、管理神様は、


『出来る、出来る、楽勝だよ~ん。期間限定だし、君なら、研修も不要だよ~ん』


『…………』


 楽勝って?

 何? 

 君なら、研修も不要って、

 何?

 まるで怪しい会社の、人材募集広告みたいだけど……

 果たして、俺が神様になって、本当に大丈夫だろうか?


 ああ、でも管理神様って、相変わらずウルトラライト!

 その超が付く楽観的さは、俺もぜひぜひ見習いたい。


『ケン君はクッカと同じ、天界神様連合後方支援課所属となるよ~ん。僕が認定した君の階級はB、つまりB級神となるよ~ん』


 俺のランクはB……

 クッカは確か『ど新人』でランクDの女神だった。

 なら、ど新人よりは少しだけ上って事か……


 でもB級って響きは、何となくだけど……D級より、凄く怪しい……


 まあ、良いや。

 あまり、深く考えても仕方がない。

 それよりも、いろいろと『確認』させて貰おう。


『成る程。そういえば、先程、期間限定と仰いましたけど?』


『ああ、本来の担当が休暇から戻るまでの、ケン君はつなぎ役だよ~ん』


『え? 本来の担当って誰ですか?』


『ほら! 君も良く知ってる、あのヴァルヴァラだよ~ん』


『え? ヴァルヴァラ様?』


『そう、嬉しい?』


『はい! じゃあ、俺はヴァルヴァラ様の代理ですね。了解でっす』


 俺は自然と笑顔になる。

 脳裏には、赤毛レディッシュの、たくましい戦女神いくさめがみヴァルヴァラ様の姿が思い起こされたから。


 最初は初めて出会った時の、『女ヘラクレス』のような、雄々しくムキムキな、本来の姿。

 次は変身した、金髪&ダークブルーの瞳を持つ麗人、男勝りな美少女ジュリエットの姿。

 どちらも、魅力的だ。

 

 ヴァルヴァラ様は俺なんかを……『親愛なる友』として認めてくれた。

 それどころか「女として口説かなかった!」なんて言われて怒られもしたっけ。

 「もう二度と会えない」なんて言っていたけど……また、彼女に会えるかもしれない。

 ああ、凄く、懐かしい……


 「つらつら」と考える俺に対し、管理神様の説明は続く。


『うん、それに仕事をして貰うのも、昼間の仕事に差し障りがないよう、君が夜寝ている時間を充てるよ~ん』


『あ、それは助かります』


 成る程!

 それって、以前のパターンと同じだ。

 ※『金の女神と銀の女神編』参照。


 で、サポートする対象者は?


『で、肝心の、サポートする相手って誰ですか?』


『サポート対象者はね、君と同じだよ~ん』


『俺と同じ? どういう事ですか?』


『うん、転生者だよ~ん』


『え? 転生者?』


 サポートする相手って、俺と同じ転生者なのか。

 これまた吃驚。


『りょ、了解です』


 思わず、俺が噛んで返事をすれば、


『同じ転生者だったら、相手の気持ちもよ~く分かるよ~ん。だから、ケン君にはまさに適任なんだよ~ん』


 だんだん、今回の話が見えて来た。

 でも、もう少し情報が欲しい。

 代理とはいえ、任された『仕事』を、円滑に且つ完璧にやりたいから。


『ま、まあ、そうかもしれません。じゃあ相手の素性とかも、教えて下さい。男か女か、死んで転生した経緯いきさつとか』


『ええっと、対象者は、女の子だよ~ん。経緯いきさつとかは、君と相手がしっかりコミュニケーションを取る為に、直接その彼女から聞いてくれるぅ?』


『……了解……です』


『その世界では以前のクッカ同様、君は実体を持たない幻影となるよ~ん。ちなみに、レベル99の魔法とスキルは基本、そのまま使えるよ~ん』


『了解です! それ、ありがたいです』


 思わず、お礼を言ってしまった。

 でも、レベル99の力が使えれば、ラッキー。

 実体のない幻影だって、何とか相手をサポート出来るだろう。


『ひとつ注意だよ~ん。君のレベル99の力を使い過ぎて、対象者を甘やかしてはいけないよ~ん。女の子には凄~く優しい君だけど、一応神様らしく、厳しくスパルタ主義で頼むよ~ん』


『りょ、了解!』


 一応、神様らしく、厳しくスパルタ……か。

 でも相手もある事だし、ましてや女子。

 『力加減』が、とても難しいぞ。


 と思っていたら、


『じゃあ、早速行ってくれるぅ、宜しくね~、ばっはは~い』


 管理神様が、出発を促した瞬間。

 俺の意識は、いきなり手放されたのであった。

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