第4話「新村民や~い」

「アンテナショップを作る最大の目的は、ボヌール村の良さを知って貰う事だ」


 俺が話を進めると、また嫁ズに元気が戻って来る。


「ボヌール村の良さですか? ……凄く分かりますよ、住む人が、おおらかで優しく働き者です」

「私……何度も言っていますけど、この村の全部が大好きですから」

「妖精王ご夫婦が楽園だと褒めたくらいだから、とても素敵だと思います……内緒なので、口外出来ませんけどね」


 アンテナショップの目的を伝えた、嫁ズの反応は様々……

 でも、みんなボヌール村が大好き。

 それは共通認識。

 うん! 掴みはOK。

 さあ、本題だ。


「そして、分かっていると思うけど……ボヌール村一番の悩みは、人材不足なんだ」


 これも嫁ズは、全員同意。

 独身の時と違い、親になると子供本位になって、村の将来を考えるようになるから。

 嫁ズの誰も、新たな『仲間』が増える事を望んでいる。

 まあ、最初に俺がこの村へ来た時に言われた通り、どこの誰でも良いってわけじゃない。

 

 女子達が言っていた、男なら誰でもOKではないって事。

 あくまで、人柄ありき。

 だから……俺が昔に倒した変態狼男のような、村の和を乱す不届き者では困るのだ。 


「人材不足かぁ……むむむ、特に若い人が居ませんよねぇ」

「レオの彼女アメリ―ちゃんと共に、村にすっかり溶け込んだカニャールさん一家とか……村には若くて新しい人が必要だと思うよ」

※昔に帰ろう編 第10話参照。

「うふふ、あのレオ君の彼女かぁ。可愛いよねぇ……確かに、真面目で働き者のカニャールさんみたいな方が大勢来れば……村は活気付くわ」


「ああ、みんなの言う通りだ。だがボヌール村は、王都からずっと南の小さな村だ。この国では多分、殆どの人が知らないだろうな、どう思う?」


 俺の問いかけを、聞いた嫁ズは残念そうな表情になる。

 知名度のなさというのは、移住者を募るには不利となる。

 

 はっきり言って、厳しい現実である。

 だが、受け入れざるをえない。

 逆に俺は転生する際、そんなボヌール村の方が好きで選んだけれども……


「ええ、この村の事なんて、確かに知らないでしょう」

「ですね」

「旦那様の言う事は、分かります」


「だが俺は、のんびりした、このボヌール村が大好きだ。確かに王国では無名の村ではあるけれど……悪戯に大きく宣伝するつもりはない。だから近場のエモシオンに出店する、手軽なアンテナショップを思い付いた」


 嫁ズは、全員真剣に聞いている。

 俺は、嬉しくなって説明を続ける。


「俺の考えているアンテナショップに来れば、ボヌール村の事を良く知る事が出来る。どんな人たちが住む村なのかって。もしくは蜂蜜が美味しいとか、服が素敵だとか、生産する商品の素晴らしさも伝えてくれる。その上、クッカやリゼット、クラリスの夢も叶う。そして、ここが一番大事だが……新たな人が、移住するきっかけの場所となるんだ」


「アンテナショップ……素晴らしいと思います」

「同意です、でも新たな人が移住って? どういう事ですか?」

「ねぇ、旦那様、教えて下さい」


「了解! 店員として雇った人とか、馴染みになったお客さんが、店を通じてボヌール村を知ってくれるだろう? 結果、住みたいなぁとかさあ。そこまで行かなくても、遊びに行きたいとか、村を好きになってくれる、きっかけの場所になったら良いなって思うんだ……」


 ここが、俺の企画の肝。

 村に興味を持って勤めてくれたり、来店してくれた人の方が、数倍上手く行くと思う。

 内緒だけど、俺は人の心が読めるし。

 相手の『本気度』を確かめたい時には、悪いが魔法を使わせて貰おうと思っている。

 その方が、お互いに不幸にはならないから。


 嫁ズは、と見れば……

 全員、大賛成みたい。

 良かった、良かった。


「ですね!」

「そう思ってくれれば嬉しいです」

「異議なし」


 嫁ズの意見がまとまったようなので、俺は更に補足説明。


「うん、村へ好意的な素振りが見えたら、こちらからさりげなく誘っても良い。相手の人となりを見極めた上で、移住を打診出来るから、行き違いも少なくなる」


「行き違い?」

「どういう事?」

「誤解って事ですよね?」


「うん、乱暴したり、生活のルールを守らず村の和を乱す、不適格な人は論外だけど……俺達の村を良く知らずに、無理やり来て貰っても上手く行かないと思う」


「確かに!」

「ええ、この村を知らない人が、いきなり住んでも辛いかも……」

「基本、地味で質素、不便な生活だし……便利な町の暮らしに慣れた人は戸惑うわ」

 

「だな……万が一行き違いになれば、不満がたまる一方だ。挙句の果てに、良い事しか言わずに、騙したとか責められてしまう……それじゃあ村のイメージダウンになって逆効果だ」


「成る程! でもお店で村の事を知って貰えれば……まず行き違いがない」

「ああ……ですねっ!」

「納得! 相手が望めば、こちらからの話もスムーズですし、私達もじっくり希望の人が選べます」


「更に考えたよ、俺。いきなり永住するのではなく、最低1週間から、長くて1か月くらい仮の村民として働きながら滞在して貰った方が良い。納得した上で移住すれば、お互いハッピーになると思う」


 そう、アンテナショップで美化されたイメージだけを持っても、結局は上手く行かない。

 根を生やして住むのだったら、暫く暮らして貰って、厳しい現実も受け入れて貰わないと。


「確かにそうですね。それに1週間は仮の村民って、この前の妖精さん達と同じパターンみたい」


 俺の言葉を聞いたリゼットが、記憶を手繰った。

 彼女の言う通り、オベロン様&ティターニア様以下、妖精軍団は1週間村で共に働きながら過ごした。

 とても楽しかったし、強い仲間意識が芽生えた。

 それが村をあげた、最後の大送別会に繋がったんんだ。


「ああ、その通り。ちなみにアンテナショップの経営は正直厳しいと思う。売り上げと経費のバランスを考えないと……一番かかるのは人件費だろう。だから少しでも経費を使わないよう、オベール様やジョエルさんには全面的に協力して貰う事を考えている。店舗も上手く格安で借りたい。営業も毎日ではなく、週のうち3日くらいに抑えてね」


「うふふ、旦那様、しっかり考えたんだね、えらい! さすが大空屋の若旦那」


 ミシェルが「パチン」とウインクした。

 何か、だんだん母イザベルさんに似て来ている気がする。

 

「お? ミシェル、惚れ直したか?」


「うん! 元々大好き」


「はは、嬉しいぞ。まあ1年くらいやって、採算が合わないようだったら、傷が広がらないうちに撤退する、つまりは閉店だな。資金も俺が魔物を狩って得たお金を使えば、もし上手く行かなくても、被害が少なめで済む」


「さっすが!」

「じゃあ、昼間やる旦那様の仕事を、妻全員でケアするわ。その分アンテナショップに力を注いで」

「賛成!」


 ああ、いつもながら嫁ズの心遣いは嬉しい。

 ありがとう!


「サンキュー! でも俺、昼間も頑張って働くぞ」


 俺は嫁ズの温かい優しさに感謝しながら、きっぱり宣言したのであった。

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