第2話「特別な店①」

「俺の考えた、村の為の施策なんだけど……」


 そこまで言って、俺は軽く深呼吸。

 で、一気に言う。


「オベール様やジョエル村長と相談して許可を貰い、エモシオンに特別な店を出す」


 俺の提案を聞いた嫁ズ。

 へ?

 という反応……


「エモシオンに特別な店?」

「いきなり、何故?」

「一体、何の店?」


 ?マークを飛ばしまくる嫁ズの中で……

 クーガーだけが、にっこりしている。

 

 元々ウチの嫁ズは、勘が異様に鋭いが……

 特に、クーガーは際立っていると思う。

 もう俺の意図を見抜いたようだ。

 

 しかし間を置かずに、クッカも「ポン」と手を叩いた。


 どうやらクーガーとクッカだけは、俺が何を考えているか、分かったらしい。

 ふたりで、顔を見合わせて「にこにこ」笑っている。


 最近、クーガーから聞いたのだが……

 クッカから、クーガーへ『ある申し入れ』があったという。

 

 その、ある申し入れとは……

 今は亡き、クミカの記憶と経験を共有したいから、教えて欲しいというお願い。

 

 俺には、すぐクッカの意図が分かった。

 クッカは、失われたクミカの記憶とスキルを補完したいのだ。

 更にはクーガーと、もっともっとコミュニケーションをとりたい気持ちもあるに違いない。


 クッカは、今迄散々悩んだと思う。

 天界の女神として生まれた自分は、最も大切なクミカの記憶を欠落した事に関して。

 記憶を受け継いだクーガーへ嫉妬を感じた事もあると、俺には本音を見せ、愚痴った。

 絶対に、内緒の話だけど。


 片や、クーガーもそう。

 女神時代のクッカが体験したように、俺の恋人として、甘い時間を共有したかった……

 幼い日に体験した、楽しい夢の続きを見たかった……

 という、最早果たせぬ願望があった。

 悩むクッカ同様、切々として訴えた夜は多々ある。


 だが……

 クミカの記憶は、幼い日の楽しいものだけではない。

 突然、訪れた別離から辛い日々は始まった。

 親が離婚したという特殊な事情であれ、俺はクミカへ何も告げずに去ってしまったから……

 パパとママになって結ばれようという約束をあっさり破り、裏切ったと思われても仕方がない。


 しかしクミカは、こんな酷い俺を見捨てず、ひたすら信じて待っていた……

 長い間、孤独な寂しい日々を過ごして来た。

 

 そして、漸く俺が帰郷すると知り、再会を心待ちにしていた。

 やっと叶ったと思った、幼い日の淡い夢が……

 無残な事故死により、粉々に永遠に砕かれた……

 結果、運命の神が下した非道な運命を呪って、嫉妬と憎しみを持つ女魔王に堕ちてしまった……

 

 俺と再会し、人間になって、嫁になってからも……

 元は同じクミカである、クッカとクーガーはお互いに相手の幸せを妬んだ。

 しかしふたりは俺を愛しながら、一緒に暮らし『葛藤』を乗り越えた。

 今や、親友且つ戦友となった。


 クッカの申し入れを、クーガーは当然、快諾。

 記憶の共有により、クーガーとクッカの絆は、更に更に強くなっている。

 何かあれば突っ込み合う、喧嘩友達というノリは、全く変わらないけれど……


 ふたりは元、ひとりの人間クミカ……なのだから、こうして仲良くなるのは当たり前なのかもしれないが……


 閑話休題。

 ということで、肝心の店の話である。


「店の表向きは、大空屋エモシオン支店。展開する内容はボヌール村のアンテナショップだ」


 そう、俺の提案は、ボヌール村のアンテナショップ開設である。

 『企業の新製品の為』というより……

 県などの『行政』が作った『故郷』の魅力を伝えるアンテナショップのイメージだ。


 そんなアンテナショップは、都会でもたくさん見かけた。

 残念ながら、俺の故郷のアンテナショップは最寄りにはなかったので、他県の店にばかり行ったのだが……

 まあ、嫁ズには何の事だか分からないのは当然。

 だから、詳細はこれから説明する。


 しかし今迄楽しんだ昔遊びの影響か、興味津々の嫁ズ達は、俺に期待の眼差しを向けて来る。


「アンテナショップ?」

「何それ?」

「教えて下さい」


 リゼット、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、グレースが引き続き首を傾げる一方、


「やっぱり!」

「思った通りですね」


 やはりというか、クーガーとクッカは頷き合っていた。

 

 クーガー達の様子を見て、観察力と洞察力の鋭いリゼットにはピンと来たらしい。

 俺と、クッカ&クーガーを結ぶ点……

 いわゆる共通項を考えれば、おのずと答えは導かれるからだ。


「分かった! その店の趣旨って、旦那様とクミカさんの生きていた前世と関係ありますよね?」


 リゼットを含めた嫁ズも、当然クミカの事を知っている。

 楽しい記憶も、辛い出来事も……


 でも、

 全てを『前向き』にしようと、敢えて話を振ってくれたのだろう。

 やっぱり、家族って良いなぁ。

 笑顔で質問するリゼットへ、俺は心の中でとても感謝していたのであった。

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