第6話「開演」

 『夢の会議』翌日から……


 お子様軍団には、絶対にばれないよう、作業が始まった。

 一番ばれそうなのが、木枠や拍子木などの製作作業。

 そして、クラリスによる紙芝居絵を描く作業。


 安全なのは、これまた俺の作った空間魔法による異界――すなわち亜空間。

 絶対に、お子様軍団は入って来れない。

 そして現実世界では、俺と結婚するまで、クラリスがひとり暮らしをしていた村の家。

 結婚後もそのままになっており、現在は服を縫ったり絵を描く工房と化していたのである。

 この工房にも、お子様軍団は殆ど来ない。


 紙芝居製作作業は苦労しながらも、着々と進んだ。

 木枠や拍子木は俺がメインで作る。

 そして肝心の絵は当然、クラリス。

 俺と入念な打合せをした後、上がって来た下絵は素晴らしかった。

 

 ちなみに、主人公の猫は白黒のぶち猫となっていた。

 すなわち妖精猫ケット・シーのジャンそっくりだったので、思わず笑ってしまったが……

 聞けば、クラリスも猫が好きで、更に元気なジャンが大好きなのだという。

 嫁ズ全員に好かれるジャン、あいつは幸せ者だ。 


 やがて、紙芝居絵は完成……

 改めて思う、本当にクラリスは天才だと。

 タッチがまるで幻想的な絵本のようであり、彩色のセンスも抜群であった。

 これで俺はもう、笑われずに済む。


 そして夜は、俺の創った夢の楽園でリハーサルが続いた。

 話し合った結果、紙芝居屋をやるのはいずれ『全員で』となった。

 俺のパフォーマンスを見て、嫁ズが面白がり、次回以降はぜひ自分もやりたいと次々に申し出たからである。


 楽園エデンで気持ち良く練習出来たのも、早い上達に繋がったのだろう。

 最初の会議から約1か月で、準備は全て完了したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 準備が出来てから1週間後……

 いよいよ、紙芝居が行われる日がやって来た……

 

 拍子木を叩いたら非常時だと間違われるとか、防犯上の支障がないよう、俺は事前に内容を伝え了解を得ている。

 義両親のジョエル村長夫婦、これまた義父のガストンさん、先輩従士のジャコブさんに。

 全員、紙芝居を面白がって、了解し、とても楽しみにすると言ってくれた。


 さあ準備だ。

 時間は午前11時、お昼休み少し前……

 場所は村の中央広場。

 服装は迷ったが、結局いつもの普段着。

 気分は若干パワーダウンするが、その分はパフォーマンスで頑張る。


 さすがにお子様軍団にもばれ、「何をするの、教えてぇ」とせがまれたが、「もう少しで分かるぞ」となだめた。

 道行く村民も、何が始まるのかと興味深そうに見つめている。

 そのうち数人は、直接聞いてきたので、俺は伝えてやった。


「申し訳ありませんが、内緒です。お昼休みに、改めて来て貰えれば、分かりますよ」


 もう、言うまでもないが……

 ボヌール村は人口約100人の小さな村だ。

 僅か30分後には、「俺達が何かやるらしい」と村民全員が知っていた。


 これも『ケイドロ』を含めた昔遊び効果のお陰である。

 ちなみに、村民でケイドロを遊んだ事がない者は……居ないのだ。

 老若男女全員が楽しんで、毎日誰かが遊んでいるから。


 また新しい遊びを教えてくれるのではと、すぐ村中に広まったのである。


 30分経って、村民全員が知ると同時に、俺達の準備も整った。

 そして12時ジャスト、


 カン! カン! カ~ン!

 時間が来たので、俺の拍子木が華々しく打ち鳴らされる。


 その時にはもう中央広場には約50人、村の半分の人口が集まっていた。

 誰も彼も、今から何が始まるのだろうって、顔をしている。

 さて、紙芝居開始だ。

 ちょっと恥ずかしいけど、勇気を出し、行ってしまえっ!

 デビュー戦の『相方』はやっぱりクーガー。


 まずは俺が、大声を張り上げる。


「さあ、紙芝居が始まるよ、始まるよぉ! さあて、今日のお話は何かなぁ?」

 

「な~に? 紙芝居って? それにお話ってな~にぃ?」


「ははは、このまま居れば分かるよぉ! さあ、お立合い、お立合い!」


「ケンおじさぁん! 見物料は要らないのぉ?」


「おいおい、かわい子ちゃん。ケンおじさんはないだろう? ケンお兄さんと呼んでくれ。今日は見物料はなし、特別サービスでタダだよ~ん」


「嬉しい! タダなのぉ! じゃあ、特別大サービスでケンおじさんを、私の旦那様って呼ぶよぉ」


 おお、さすがに息がぴったり。

 しょっぱなから、やりとりがバッチリ決まっていたから、当然か?

 まあ、村民はクーガーが俺の嫁だって知っている。

 だから、奇妙な掛け合いに皆、笑っていた。


 俺は大袈裟な身振りで「やった!」って、嬉しそうなポーズをする。


「ええっ? 私の旦那様だってぇ! 君みたいな、かわい子ちゃんなら、お兄さんも嬉しいぞぉ! 特別にそう呼んでくれてもOKだ」


「やったぁ! 旦那様ぁ、早く、早くぅ」


 ここで太鼓を鳴らす。

 太鼓はさすがに作るのが難しかったので、引き寄せの魔法で用意した。

 こちらの異世界ではポピュラーらしいが、プロヴァンス太鼓と呼ばれるものだ。

 話の辻褄は、以前俺がグレースと王都に行った時に、市場で安く買った事にしてある。


 どんどんど~ん!


「今日の話はっと! おお! 主人公は何と猫だ!」


 俺が話の内容を切り出すと、これまた打合せ通り。

 クーガーが、某有名画家の絵のように大袈裟に驚いてみせる。


「へぇ、猫なのぉ! 面白そ~」


 更に口に手を当てて悲鳴を押さえるポーズのクーガー。

 連れて、俺の口調もどんどん滑らかになって行く。


「おお、猫だ! それも普通の猫じゃない、何と! 喋る猫なんだぞぉ!」


「うっそ、旦那様ぁ! そんな猫、絶対に居ないって!」


「いやぁ、それが居るんだな、さあお話を始めるぞ」


 どんどんど~ん!


 うん、ここまでは上手く行った。

 俺が木枠の扉を「ぱかっ」と開ける。

 

 うん!

 良いぞ!

 タイトルが出た。

 『靴を履いた猫』って。

 さすがクラリス。

 絵だけじゃなく文字も可愛く処理されている。

 俺の、前衛的な文字とは大違いだ。


 タイトルを見た、クーガーがまたまた過剰な反応。

 打合せ&リハーサル通りである。


「ええっ? 旦那様ぁ! 靴履いてるって、どんな猫ぉ?」


「さあ、それはこれからのお楽しみだぁ!」


 どんどんど~ん!


 俺はまた、さっと紙を引く。

 次の紙が現れると……

 さあ、いよいよ天才クラリスの本領発揮。

 彼女の力作である紙芝居絵のお披露目だ。


 次の絵は、ボヌール村と同じような田舎村の風景である。

 素晴らしい出来栄えの、紙芝居絵を見た村民達は目を丸くする。


「わあ! 凄い!」

「おおい、ボヌール村だぁ」

「素敵!」

「うわぁ、青~い! 綺麗な大空!」


 反応は当然だ。

 『靴を履いた猫』の話は、俺の居た前世の地球、中世西洋の民話だけれど……

 紙芝居にクラリスが描いたのは、ボヌール村と周囲の風景そのものなのだから。


 俺は大きく頷きながら、口上を続ける。


「むかし、むか~し、ボヌール村とよ~く似たある村に、働き者の男がいましたよぉ。真面目な男には3人の子供が居たんだぁ、それも全員、男の子と来たぁ」


 うん!

 掴みはOK。

 

 村民は舞台が自分達と同じような村と聞き、一気に紙芝居へ引き込まれたのであった。

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