第2話「家族会議」

 我がユウキ家では、不定期に家族会議が開かれている。

 大体、1か月に1回くらいの割合。

 開催時間は主に夜で、参加メンバーは、俺と嫁ズ。

 

 本当は子供達の意見も聞きたいから、タバサ達第一世代もいずれは入れるけど、年齢を考えたらだいぶ先になる。

 話す内容は、千差万別だ。

 議題と関係ない、とりとめのない雑談も多い。

 会議とは言え、家族間のコミュニケーションが主なので、雑談が混ざっても構わないと思っている。


 だが、どんな事を話しても、基本的な方針は絶対ぶれない。

 現在の生活を、もっともっと改善して行こうという考えに尽きる。

 

 以前、妖精王オベロン様夫婦が遊びに来た時にも話が出たが……


 突き詰めれば、このボヌール村を『次世代へどう仕上げて渡して行くか』の話が一番盛り上がる。

 少しでも暮らしやすい、良い環境にして、愛する子供達しっかりとへ託したい。

 そんな熱い『親の思い』からだ。


 俺が現在最大の懸念を持っているのが、オベール家の『事情』である。

 え?

 まずは、ボヌール村自身の問題を考えないのかって?

 勿論、俺達はボヌール村第一、それは当然なのだけど……


 実は、理由がある。

 先日、エモシオンの町へ行った時の事だ。

 領主のオベール様から、いろいろと相談された。

 時が経つのは早いもの。

 嫁のソフィことステファニーの父オベール様も結構な年齢、もう50代半ばである……


 前世ほど、平均寿命の長くないこの異世界。

 もう少ししたら『老齢』にさしかかるオベール様にとって、一番心を痛めているのが、オベール騎士爵家の将来なのである。

 そう遠くない自分の死後、愛息フィリップの代になって……どうなるか、行く末が心配でたまらないのだ。


 現在仕えてくれている従士に関しては、過去に裏切った例の事件も若干影響があるが……

 俺にいろいろと相談するのは、生粋の戦士としての彼らが、文官としての能力に関して秀でていないせいもある。


 『影の宰相』イザベルさんはしっかりしており、とても頼りになる奥様ではあるが、この異世界の貴族社会は所詮、男性上位。

 殺されるから絶対に言わないけど、イザベルさんもけして若くはない。

 なのでオベール様……

 息子にとって代わる野心がない、誠実な男の『補佐役』を、今のうちに立てておきたいという願望が強くなったそうだ。


 『補佐役』って、俺みたいな歴史オタクならすぐ分かる。

 いわゆる、軍師とは少し違う。

 敢えて例えれば豊臣秀吉に対して豊臣秀長。上杉景勝に対して直江兼続。

 ふたりとも愚直なまでに忠実に、主に仕えた男である。


 こうして……

 考えに考え抜いたオベール様は……この俺へ、白羽の矢を立てた。

 まあ、そのように考えるのは良く分かる。

 

 俺は、オベール様の愛する娘ステファニーの婿。

 オベール家直系の孫娘ララまでもうけている。

 加えてオベール様の現在の奥さん、イザベルさんの娘ミシェルの婿でもあり、つながりのあり過ぎる濃~い身内。

 オベール様の一粒種フィリップから見ても、義理の兄にあたる。

 

 万が一周囲から、何故平民なんかを採用? って理由を問われたとする。

 ステファニーの正体は絶対に内緒だとしても……奥さんの義理の息子なら血縁的に全く問題がない。


 そしてこれも内緒だが、勇者級の力を持ちながら、権力への野心がない。

 否、野心があるどころか、全然真逆。

 俺は目立たず騒がず、静かにスローライフするのが望み。

 だから、絶対に裏切らない。


 レベルとオールスキルで、能力も、幅広い知識?も文句ない。

 すなわち俺――ケン・ユウキが『宰相』に一番の適任者だと言われたのである。

 ズバリ、一家ごとエモシオンの町へ移住して、オベール騎士爵家へ重臣として仕えて欲しいと懇願されたのだ。


 しかし……

 俺の根っこは、このボヌール村。

 嫁リゼットの父であり、村長のジョエルさんからは「お前が次期村長だ」と固く念を押されていた。

 

 いくらオベール家が大事な身内でも、村を離れるわけにはいかない。

 力関係でいえば、領主で貴族という身分にものを言わせて、オベール様が強引に命令を通す事も考えられる。


 まあ、以前の傲慢なオベール様ならそうしていたかも。

 だが今のオベール様は違う。


 一領民の俺へとても気を遣ってくれている。


 ふるさと勇者としての俺の強大な力を、オベール様が畏怖し、遠慮している部分は確かにある。

 だがそれ以上に娘の恩人、また愛する身内として、認めて貰っている。

 奥様イザベルさんも、無理して誘ってはいけないと諭しているらしい。


 というわけで……時間が流れ、

 今夜も会議が行われる。

 議題は、またもオベール家について。

 俺達が、「オベール家へ仕えるように」と言われた話がメインとなっていた。


 ミシェルとソフィも直接の身内だから勿論だが、全員が真剣に考え、白熱して意見交換をしている。

 気合が入っている理由は、誰が考えても分かる。

 現在のボヌール村の平和と生活向上は、オベール家の取った施策の力が大きいからだ。

 オベール家とボヌール村は、いわば共存共栄、一心同体なのである。


 嫁ズから、いろいろと提案は出た。

 実現可能そうなもの、無理そうなもの。

 話せるものも、絶対言えないものもあった。


 嫁ズは、最終的に俺へ一任してくれた。

 多分メインで、オベール様へ仕えるのは、村長代理の俺という事になるだろうから。

 なので俺は熟考して、どのような提案をするか決めた。

 伝えた後は……オベール様夫婦の判断である。


 それに俺は、オベール様個人へ、改めて別件で話したい事があった。

 

 これまで何回か、話していて分かった。

 オベール様は心の片隅に、永久に治らない傷を負っている。

 けしてかさぶたにならず、血をずっと流し続ける傷を。

 俺が話す事で、完全には治癒出来ないかもしれないが、最低のケアだけはしてあげたいと考えたのである。


 前世で、両親を既に亡くした俺。

 だがこの異世界へ来て、嫁ズとの結婚により、義両親がたくさん出来た。

 若干ひいき目ではあるが、皆、俺を可愛がってくれる。

 実の息子のように温かく優しく接してくれる。


 だから、全員へ恩返ししたい。

 俺を幸せにしてくれる人に、少しでも報いたい。

 それが俺の本音。


 オベール様夫婦もそう……

 とても優しい父となったオベール様と、いつも元気に力付けてくれる母イザベルさん、そして甘えん坊で懐いてくれている弟フィリップが……俺は本当に大好きなのだ。

 ふるさと勇者の力が、少しでも役に立つのなら、絶対に皆で幸せになりたいから。


 家族会議の翌日、俺はリゼット父ジョエル村長へ相談した。

 この義理父へ、俺は『全て』をカミングアウトしていない。

 なので、差し障りのない部分を伝えたのである。

 

 オベール様と上手くやっているのは、俺&家族のつながりと貢献が大きいと評価しているジョエルさん。

 文句なく、俺の提案をOKしてくれた。


 こうして、家族会議から3日後の朝……

 俺は何人かの嫁ズと共に、オベール様の居るエモシオンへ向けて旅立ったのである。

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