第19話「弾む気持ち③」

 翌日の朝食後……

 俺は、またまた大広間へ家族を集合させた。

 

「よおっし! 注目!」


 先日といい、もう新しい遊びお披露目のお約束となっているので家族は期待に胸を膨らませている。


「やった!」

「今度は何?」

「楽しみ!」

「あそぶぅ!」

「ばぶぶう」


「…………」


 クーガーだけは、何故か怪訝な顔をしている。

 事前に俺が、何も相談しなかったからだろう。

 仲間外れにするつもりはなかったが、ちょっとまずかったかな?


 まあ良い。

 俺は、今回の秘密アイテムを披露する事にした。


「今回は、ミシェルとクラリスの協力によるサプライズなんだ」


 家族の注目の中、名前をあげられた両名がすっと俺の傍らに並ぶ。


「見てくれ、3人でこれを作った」


 俺は高々とボールを掲げた。

 さすがに、クーガーが一番に反応する。


「おおっ! それはもしかして?」


「ははは、そう、もしかしてだ……悪いがクーガー、今日は俺達が仕切るぞ」


「うふふ、OK! いえぃ、いえ~ぃ!」


 こういう地道なフォローが、大事なんだ。

 自分に気を遣ってくれたと理解したクーガーは、逆にノリノリとなってくれた。


 ここからの説明は、当初の希望通りミシェルにさせる。

 遊びの仕掛け人になるという、念願の夢が叶った瞬間だ。


「これはボールと、いってね!」


 活き活きと説明するミシェル。

 いかにも楽しげ。

 ママの晴れ姿に、娘のシャルロットも嬉しそうである。


 難しいルールも、何もない。

 それでも念の為に、顔狙いだけはNGにしたので安全。


 投げ方と受け方の基本説明が終わると、早速キャッチボールが始まった。

 最初は皆、上手く行かずに「いらっ」ともしたようだが、すぐに慣れて思った通り投げられるようになる。


 ちなみにボールの数が5個しかないので、時間による完全交替制。

 きちんと順番を守るように俺が指示をすると、幼い子供達はちゃんと待っているのに、何故か嫁ズは不満そうにむくれている。

 彼女達は早く遊びたくて、いきなり我儘な子供に変貌してしまったのだ。


 まったく!


 俺は思わず笑ってしまうが、そんなのは可愛いものである。

 ミシェルも望み通り、シャルロットとキャッチボール。

 しっかり投げる愛娘の器用さに、目を細めて喜んでいた。


 クラリスの息子ポールはまだ幼いのでボールがきちんと投げられずころころ転がってしまう。

 だけどボールを拾うクラリスは笑顔一杯で幸せそうだ。


 さあ! まだまだ祭りは続くぜ!


「ミシェル! サプライズ第二弾だ」


「了解!」


 俺の指示を受けたミシェルは、「待ってました」とばかりに手を振った。

 まだ何かあると聞いた家族の期待は、否応なく盛り上がる。


「何々!」

「まだあるの?」

「早く、教えて!」


「さあ、外に行くよ! GOGO!」


 ミシェルが促して、家族全員は自宅から出たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後……


 俺達家族は、村の農地で二組に分かれていた。

 当然、作業の邪魔にならない休耕地で遊ぶ。


 農地で作業していた村民達も、一体何が始まるのかと注目している。

 最近はもうお約束。

 俺達が、新しい遊びを始めると分かっている。

 何人かはタイミングを見計らって、ぜひ混ぜてくれと言ってくるだろう。


 俺達が遊ぼうとしているのはシンプルな球技、ドッジボールであった。

 キャッチボールが出来た人が、まずボールに慣れるという意味ではぴったりなゲームだ。

 柔らかいリネン製ボールなので思い切り投げても怪我はしない。

 念の為、顔狙いだけはNGにしたので更に安全。


「始めるよ!」


 ミシェルが開始を宣言し、ゲームはスタートした。

 ボールが飛び交い、子供達も容赦なくパパとママに投げ込んで来る。


 普段の鬱憤を、晴らそうとするふたりも……


「うっふふふ、クーガー、日頃の恨みを晴らしてやるぅ!」


「甘いわぁ、クッカ、返り討ちだぁ!」


 様々なドラマが展開され、ドッジボールは大盛り上がりだ。

 

 俺の魔法を掛けたリネン製ボールがあっちこちで弾んでいる。

 家族全員の気持ちが、大きく楽しく弾んでいる。


 そんな中……急に作戦発動!

 

 何と! 俺の知らないところで秘密作戦が進行していたのである。

 当然作戦立案者は、ミシェルとクラリスだろう。

 悪戯っぽく笑っている。


「よおっし! 全員で旦那様狙いだ!」

「ばっちり決めますよ」

 

 えええっ、俺に集中攻撃!?


「うっひゃあっ!」


 俺は大袈裟に声をあげて逃げようとする。

 当然ポーズだ。


「せ~の、ほらぁ、旦那様へ愛をこめてぇ!」


 家族から一斉にボールが投げられる。


 こんな時のお約束は……

 

「うっわぁ、やられたぁ~っ!」


 俺は、家族から投げられたボールに敢えて当たったのだ。

 5発のボールを全て受け、オーバーアクションで倒れて痛がる。


 ああ、嬉しい。

 

 温かくて優しい家族の『総攻撃』を受けて、俺は幸せをたっぷりと実感していたのであった。


 ※『昔に帰ろう編』はこれで終了です。

 次話からは新章が始まります。

 

 もっともっと続きが読みたいぞ! とお感じになりましたら、

 作者と作品へ、更なる応援をお願い致します。

 この作品が……もっと多くの方にお読み頂けるよう、応援して下さい。


 皆様のご愛読と応援が、継続への力にもなります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る