帰る故郷はスローライフな異世界！レベル99のふるさと勇者

第１１４話 「魔王軍侵攻せり①」

　先週……

　魔王軍ナンバーフォーと自称したアホな狼男が、西の森に出た。

　幸いあっさりと倒したが、いよいよヤバイ兆候が出て来たと思う。

　なので、以降、パトロールをより強化している。

　クッカに聞いたが、相変わらず管理神様は情報公開してくれないという。

　例の魔王に関しては、最近急に出現したくらいとしか分からないようだ。

　その為、情報があまりにもない。

　現状では、相手の出方が全く分からない。

　それ故、警戒するくらいしかない。

　そんな、ある夜の事……

　俺とクッカは、いつも通り西の森を見回りしていた。

　西の森は今迄に、2体の狼男＝魔王軍が出現しているから要注意の場所だ。

　リゼットがお気に入りの野生のハーブ園もあるから、奴らに荒らされると非常に困る。

　魔王軍が俺の留守にボヌール村を襲うとまずい。

　なので、従士達は村にて留守番であった。

　と、その時。

　俺は異変があるのに気づく。

　今、俺達が居る場所は数日前に通ったが、ただの崖であった筈。

　それが、何と！

　いきなり洞窟が出現していたのだ。

　加えて、青白い魔法の炎で照らされた木の看板も掲げられている。

　俺は首を傾げて、クッカへ話し掛ける。

『なぁ、クッカ。念の為に確認……こんな洞窟って以前からあったっけ？』

『いえ、無かったですよ』

　俺もクッカも、憮然とした表情だ。

　洞窟が、単にあっただけではない。

　他にも、いくつか理由があるからだ。

『確かにそうだよな……それに、こんな看板があるもの』

　俺が指差した看板には、下手な文字でこう書いてあった。

　～まおうぐんさいぜんせんきち～

『…………』

　眉間に皺を寄せて、無言で首を横に振るクッカ。

　あまりのベタさに絶句したのと、元々気分が悪いのとその両方であろう。

『大丈夫か、クッカ』

『旦那様、ちょっと眩暈（めまい）と頭痛が……』

『おいおい大丈夫かよ、かといって……この洞窟をこのままにするのは、まずいよなぁ』

　俺が呟くと、クッカは苦笑した。

　ふたりで暫し考え込んだが、やはりこのままでは埒（らち）が明かない。

　見なかった事にも出来ないし……

　溜息を吐いた俺は、クッカを促した。

『はぁ……仕方がない、入るか』

『旦那様、……やっぱり中へ入るのですか？』

　クッカは、いつになく消極的だ。

　声のトーンも落ちている。

　謎の体調不良を訴えてからというっもの、最近のクッカの調子は万全ではない。

　しかし、ボヌール村の近辺に魔王軍の基地を放置するのはまずい……だろう？

『ああ、このまま放っておけないし、入るよ』

『でも旦那様……表札の脇に、変な骸骨（がいこつ）とか飾ってありますよ。断言します！　中に居るのは絶対に死霊使い系の奴です』

　うん、確かに。

　悪趣味な事にね。

　骸骨が飾ってあるよね。

『そうだろうな』

『……実は私、ゾンビとか生理的に駄目なんです。臭いし、気持ち悪いし』

　考えてみれば、クッカは嫌いなものが多い。

　ゴブはNGだし、蛇もミミズも苦手だ。

　そしてゾンビも……

　男の俺だって、そんな奴等は好きなわけがない。

　クッカが女子らしいといえば、その通りかもしれない。

『じゃあ、入り口で待ってるか？』

　俺の違う提案に対して、クッカはやはり首を振った。

『ううう……こんな場所でひとり待つのは嫌ですし、旦那様おひとりでまた思うようにスキルが使えないとまずいし……仕方がない！　私も一緒に行きます』

　そうか！

　とりあえず頑張れ、クッカ。

　では、俺の出来る事といえば……

『よっし！　じゃあしっかり手を繋（つな）いでいてやるから』

『あ、ありがとう！　旦那様』

　俺は、クッカの手を「きゅっ」と握ってやった。

　心の底から、ゾンビが嫌なのだろう。

　手が、緊張で硬く強張っている。

　洞窟の入り口には、粗末な木の扉が取り付けられていた。

　堅固な防衛システム（笑い）というべきだろうか？

　ノブを回してみたが、開かない。

　どうやら鍵が掛かっているようだ。

　生意気な！

『旦那様、開錠のスキルを使いましょう』

『開錠のスキル？　そんなのあるんだ』

『はい！　1回発動してNGなのはお約束。次回からはこの世界のどのような錠前も開けられるマスターキーのようになります。まあいきなり巧く行く場合もありますけど』

『……相変わらずのスキル習得だね』

『お約束ですから！』

『分かった、分かった』

　俺は、開錠の魔法を発動。

　最初は開かなかったが、次の発動で呆気なく鍵が解除され扉が開く。

　こうして俺は、開錠のスキルを手に入れたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　こうして……

　俺とクッカは、突如出現した洞窟の中を進んで行く。

　洞窟の内部は、真っ暗だ。

　しかし、俺とクッカには夜目が効く暗視のスキルがあるから全く問題はない。

　クッカいわく、

　魔王軍が基地にした洞窟は、元々この場所にあったらしい。

　壁を見ると、人為的に掘削したという感じではなかったからだ。

　天然の洞窟に、若干人の手が加わったというところか。

　徐々に奥へ進むと、俺とクッカの索敵に反応があった。

　例によって、『アンノウン』と表示されている。

　戦う相手と1回も遭遇した事がないと、そうなってしまうのだ。

　周囲に気をつけながら更に進むと、小さな広間に出た。

　アンノウンの反応は、ここにある。

　物陰に隠れて「そっ」と見ると……

　骨だけのスケルトン2体であった。

　これでは友好関係を結ぶのは……

　ゴブよりも全然無理だろうな。

　どうせ、片付けるんだ。

　俺は更に「そっ」とスケルトンに近付いた。

　奴等は、スキルで気配を消した俺に全く気付かない。

　ごしゃ！

　俺が、背後からスケルトンの頭を拳で殴打し、破砕した。

　普通の魔物と違って、スケルトンは声を出さない。

　ただ、黙って襲って来るだけだ。

　仲間が倒されて、俺に気付いたたもう1体も振り返る間も無く、バラバラになってしまう。

　俺が、すかさず拳で粉砕したからである。

『とりあえず2体か……でもまだまだだな』

　洞窟内に入って、分かった。

　入り口附近にはあまり反応がないが、奥に多くの反応があったのだ。

　今回の敵は、結構大勢だ。

　その中に、大きな反応もひとつあったので、これが親玉だろう。

　魔王軍の『基地』だから……『司令官』に違いない。

　そもそも不死者（アンデッド）の定番であるスケルトンは諸説が飛び交っている。

　死霊が宿って動かしているとか、邪悪な魔力によって動かされているとかだ。

　ここのスケルトンは、どうやら後者のようである。

　俺が2体倒すと、いくつもの反応が動いてこちらへ向かって来たからだ。

　既に俺とクッカが敵として侵入したと相手にばれてしまったらしい。

『まあどっちにしろ良いよ。この基地ごと潰すからさ』

『はい！』

　がしゃ、がしゃ、がしゃ

　奥から骸骨共が、大地を踏みしめる音が聞こえて来る。

　俺とクッカは……

　迫り来る敵を、向かい撃つべく身構えたのであった。