第112話 「女神の体調不良」

 夢魔リリアンが、魔王軍進撃を告げてから約1か月が過ぎた…… 

 

 規模も強さも不明な、怖ろしい魔王軍。

 軍のナンバー4を称していたが……

 ライカンみたいな『お間抜け狼男』ばかりではないだろうし。

 そんな未知の敵と戦う決意を胸に秘め、俺とクッカは毎日のパトロールに精を出している。

 

 ケルベロス達従士にも伝えると、嬉しい事に俺と一緒に戦うと言ってくれた。

 

 全く臆したところは、彼等従士にはなかった。

 ケルベロスは殺気を込めて唸り、ベイヤールは黙って前がきをした。

 ジャンも、珍しく真剣な表情で爪をバリバリ研いだ。

 うん!

 頼もしい限りである。

 

 ただ、いかんせん味方の数が絶対的に足りない。

 

 嫁ズの中でいえば、レベッカやミシェルが一応は戦える。

 しかし戦うのが人間ならばともかく、相手は魔王軍。

 一緒に戦うにしても、最前線へは送り出せない。

 せいぜい、村を守って貰うくらいである。

 

 なので、クッカに相談し従士の数を増やしたいと言ったら、

 何と!

 俺の召喚魔法には、上限の制限が設けてあるらしい。


 上限の制限とは、召喚数。

 俺が行える召喚は、一度に3体だけという事だ。

 だったら、もっと強力な従士を呼べよ! 

 という声がガンガン聞こえて来そう。

 しかし、ケルベロス以下3人とは今迄、苦楽を共にして来たという気持ちがある。


 実は、ケルベロスの方からは、そのような申し出があった。

 自分の代わりに、もっと強い奴を呼べと……

 そして、勘の良いジャンからはバシッと先手を打たれた。

 「俺や嫁ズ、仲間の従士達と生死を共にしたい!」という嘆願をして来たのだ。

 当然、ベイヤールも黙ってアイコンタクトをして来た。


 彼等の覚悟を見て聞いて、俺は……

 不覚にも嬉し泣きしてしまった。

 ここまでされたら……

 俺だって彼等と運命を共にしたい。

 

 それに引き換え、頼みの綱、管理神様はあれから何も教えてくれていない。

 もし魔王軍の本拠地が分かれば、こちらから一気に攻め込んでやるのに。

 

 仮に敵が大軍で攻めて来たら……

 俺とクッカ、そして従士という限られた味方しか居ないこちらは圧倒的に不利。

 それにボヌール村と村民達を守りながら戦うのも、大変。

 敵の本拠地で、思う存分暴れた方が全然戦いやすいのだ。


 こうして、俺とクッカ、従士達は戦いの訓練を続けた。

 対魔王軍の作戦も練りに練った。


 更に、1ヶ月が過ぎた……

 何ごとも無く、平和な日々が続いていた。

 相変わらず村の仕事を含めて忙しいが、充実した日々ではある。


 しかし!

 突然異変が起こったのだ。


 ある夜の事。

 いつもの通り、俺がクッカとのデートを兼ねた『パトロール兼討伐』へ行こうとしていた矢先……


『……旦那様』


 空中に浮かんだクッカが、暗い表情をしている。

 気のせいかもしれないが、何となく、顔色も悪そうだ。

 

 俺は、吃驚びっくりしてクッカへ尋ねる。


『クッカ! ど、どうしたっ!?』


『……何故か……気分が悪いのです。……眩暈めまいもします』


 女神も人間同様、体調不良になるのだろうか?

 しかし、そんな事を言っている場合ではない。


『それはよくない。今夜は俺ひとりで行くから、お前はゆっくり寝ていてくれ』


『……そんなわけにはいきません。以前に旦那様、仰っていましたよね、私が居ないと力が思うように発揮出来なかったって……』


 確かに……

 クッカが不在の時、俺はいつもの能力を発揮する事が出来なかった。

 とても、もどかしい思いをした記憶がある。

 だからクッカは自分の身体の事より、俺を心配しているのだ。


『でも……だいぶ辛そうだぞ』


『だ、大丈夫です、私は天界の女神。し、死ぬわけがありません』


 そうかなぁ……

 再度、クッカの顔色を見たがとても悪い。

 俺はなおも止めたが、「どうしても出かける!」と言って首を縦に振らなかった。

 じゃあ俺も出掛けないと言ったら、それも駄目だと頬を「ぷくっ」と膨らます。


 仕方なく俺は20歳過ぎの法衣ローブ姿の青年に変身、クッカを連れて討伐に出かけたのである。


 ……今夜は西の森においてのパトロ-ルと、ゴブなど敵対勢力の討伐を行う予定。

 そっと見ると、クッカはまだ具合が悪そうだ。

 今の俺達は、万全の態勢ではない。

 

 そんな時に限って……

 という言葉がある。

 まさに、言葉通りである。


 俺とクッカの索敵が、強大な気配をひとつ察知した。

 しかも、『似た気配』を俺達は知っている。

 こいつを、放置しておくわけにはいかない。

 とにかく、行かなくては。


 俺達が現場へ着くと、予想した通りの相手が……居た。

 変なポージングをして異常に発達した筋肉を見せ付けるけむくじゃらな男がひとり。

 そして、配下らしい狼が数十頭。

 男の年齢は一見20代後半といったところ。

 デジャヴ!?

 こいつらは、もしや~。


 俺は攻防に備えながら、奴らの前に姿を見せた。

 魔法使い姿の俺を見て、男が笑う。


「がはははは! 貴様、誰だ? その出で立ちだと魔法使いか、何かかぁ!」


 うん!

 この波動はやはりそう!

 俺には分かる!

 ライカンと全く同じ……

 こいつも狼男だ。

 であれば、大体の強さも予想がつく。


「ほう! その驚きよう、ビビりよう、怖がり方は俺の兄者を知っているなぁ」


 兄者?

 やっぱりか。

 あのライカンの『弟』なんだ。

 あのね……

 あんたに驚いたり、全然怖がっていないから。

 むしろ想定内です。


 俺は、狼男を無視してクッカに向き直る。

 クッカの顔色は……

 相変わらず悪い。

 とっても心配だ。


『クッカ……さっさと片付けるぞ。それで今夜はもう帰ろう』


『は、はい……すみません、そうして頂けると本当に助かります』


 俺はクッカをいたわると同時に、直前に迫った戦いの準備をしていたのであった。

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