帰る故郷はスローライフな異世界！レベル99のふるさと勇者

第９８話 「貴族令嬢を救出せよ⑦」

　俺はリゼットの指示通り、レベッカ達を迎えに行った。

　そして道すがら、ざっくりと説明してステファニーへ引き合わせたのである。

　貴族のステファニーが、いきなり俺の嫁になるのを、他の嫁ズはどう思うのだろうか？

　でもその心配は、杞憂に終わった。

　リゼットとステファニーが打ち解けているのを見て、全員が笑顔になってくれたから。

　またリゼットがレベッカ達他の嫁の話や、村で生きて行く心得等を簡単に教授してくれていた。

　リゼットがステファニーを『姉』と呼んだ事で、ふたりはすぐに距離が縮まり、仲良くなっていたのだ。

　誰にでも可愛がられる妹キャラのリゼットと、貴族令嬢らしくない気さくなステファニー。

　ふたりはまるで、以前から仲が良い、姉妹のようになっていたのである。

　こうなると、話は早い。

　今回のステファニーの『話』は、女性にとっては理不尽極まりない話だ。

　改めて本人から聞いたレベッカ、ミシェル、クラリスもすっかり同情してしまった。

　リゼットを皮切りに、馬鹿息子への非難が爆発する。

「何度聞いても、許せないですね……その馬鹿息子は」と、怒るリゼット。

「当然！　ダーリンが許せば、私が射殺してやりたいっ！」と、真っ赤な顔で怒るレベッカ。

「旦那様、私、滅多に怒らないのですけど……久々に腹が立ちました。その人、少し懲らしめて下さいますか？」と、相変わらず大人しい言い方ながらも怒るクラリス。

　そして最後に……

　憤る嫁ズを諌めたのが、いつも冷静なミシェルである。

「まあまあ……相手は王都の貴族だから……常識知らずで極悪非道なんだ。ところで旦那様、私からはふたつ。クッカ姉は知っていますよね、今回の事」

　女神であり、家族の一員クッカに対しての細やかな気配り。

　さすがは、ミシェル。

　空中のクッカが、嬉しそうにＶサインを出す。

「ああ、知ってる。と、いうか今回もしっかりサポートしてくれたよ。一緒に助けに行ったんだ」

「うふふ、了解です。それとジャンは必ず無事に連れ帰って下さい」

　ステファニーの身代わりとなった、ジャンの事を心配するミシェルに、嫁ズ全員も頷いた。

　よし！

　ここは、安心させてやらねばなるまい。

「分かっているさ。作戦は、今の所ばっちりだし、何かあれば、ジャンからは念話ですぐ、連絡が入る事になっている」

「あ、あのクッカ姉って……」

　ステファニーが、首を傾げて聞いて来た。

　実際、クッカは今も空中に浮かんで俺達を見守ってくれてはいる。

　だが、俺だけに見えていて、嫁ズには姿が見えない。

　ただ、少し前にリゼットが西の森で会話したように、他の嫁ともこの家で話している。

　なので、ステファニー以外には、その存在をちゃんと認識されているのだ。

　そんな事情を、俺が改めて説明してやった。

「め、女神様が！？　いらっしゃるのですか？」

　驚くステファニーに、嫁ズのコメントも相次いだ。

「うん！　凄く優しいの。私にハーブの事を色々と教えてくださったわ」と、リゼット。

「私達にもよ！」

「そうそう」

「とても助かったのですよ」

　レベッカ、ミシェル、クラリスが口を揃えて強調したので、ステファニーは目を輝かせた。

　前にも言ったが、この世界の女性は、概して信心深いのである。

「女神様……クッカ様と私もぜひ話してみたい」

　ワクワク感出しまくりでステファニーが身を乗り出すが、ミシェルがストップを掛けた。

「まあまあ、それはおいおいと！　それよりもまず朝御飯を食べようか、そしてステファニー様は、旦那様の作戦通りに変身しなくちゃ！」

「はいっ！」

「じゃあ、旦那様」

　リゼットが、俺に朝食開始の音頭を取るよう呼びかける。

「おっし！　じゃあ皆で朝飯食べよう、頂きま～す」

「「「「「頂きま～す」」」」」

　ステファニーを新たに嫁に加えた、俺の新しい生活が、今ここに始まったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　朝食後……

　ステファニーは嫁ズが見守る中、俺の魔法により、髪の毛と瞳の色を次々と変えて行く。

　美しいプラチナブロンドの髪と碧眼を持つステファニーは妖精のような雰囲気を持っている。

　だが、元々鼻筋が通って顔立ちが整った美少女だから、どのような髪と瞳の組み合わせでもバッチリ似合う。

　髪の色は俺と同じ黒に始まり、栗色（ブリュネット）、金髪のバリエーションである暗めのダークブロンド、灰色っぽいアッシュブロンド、赤みを帯びたストロベリーブロンドなどを経て最後には赤。

　瞳の色は最も数の多いブラウンに始まり……

　薄い茶色（ヘーゼル）、グリーン、グレー、バイオレッド、アンバーへと変わって行く。

　変身するステファニーへ、嫁ズの歓声と溜息が交錯する。

　派手で美しい色も凄く良かったが、今回変身する趣旨は目立たずに、ボヌール村で暮らして行く為だ。

　……結局、髪は俺と同じ黒、瞳は茶にて決定した。

　こうなると、顔立ちは同じでも印象が全く違ってしまい、誰もステファニーとは気付かない。

　服をどうしようかという話になったが……

　ステファニーは背格好がクラリスに近かったのも、幸いした。

　クラリスは、手先が器用な子だ。

　裁縫が趣味であり、腕前はプロ級である。

　聞くと、未使用の手作り服をいくつか持っていたので、取りに行ってくれた。

　暫し経って、クラリスは戻って来た。

　作った服を見ると、とても可愛い。

　早速、ステファニーに着て貰った。

　ああ、すっごく似合う。

　こうして……

　美しいが、ひとりの平凡な村娘が、誕生した。

　クラリスが一緒に持って来た鏡で、自分の姿を見たステファニーはとても嬉しそうだ。

　最後は、ステファニーの新しい名前を決めなくてはならない。

「ステファニー、お前の名前はどうしようか？」

「ええっと、ケン様……旦那様が好きな名前を付けてください」

「え？　好きな名前！？」

「はいっ！　旦那様にお任せします」

「分かった、時間をくれないかな。……すぐ考えるよ」

　恰好いいけどあまり仰々しい名前は駄目だし、軽すぎても難ありだし中々難しい。

　子供の名前を考えるのって大変なんだろうなと、つい考えたりもした。

　暫く考えて……決まった。

「ええと……ソフィって、名前はどうだろう？」

「ソフィ……とっても、良いかも！」

「そうか！　じゃあ今日からお前はソフィだ」

「ようし、生まれ変わった私はソフィね。頑張るわ、宜しくね、旦那様」

　ああ、髪と瞳の色が変わっても、可憐な笑顔は変わらない。

　俺は、改めてステファニーに惚れ直したのであった。