第45話 「復讐の炎に身を焦がせ」

 あれ?

 何だ?

 何で、こいつら驚いているの?


 俺は、ついポカンとしてしまう。

 だが、男達は怖ろしそうに俺を指さしている。 


「おおお、お前、平気なのか!? 熱くないのかぁ? ぜぜぜ、全身から、ほ、炎が噴き出しているじゃないかっ!」


「ななな、何者? も、もしかして!? に、人間じゃあねぇのか!」


「ま、まさか炎の魔人イフリートかよぉ」


 は? イフリートって何? 炎の魔人?

 俺が?

 どうして?


 指摘された俺が自分の手や身体を見れば……

 

 げええっ!

 た、確かに!

 真っ赤な……ほ、炎に包まれているぞぉ。


 間違いない!

 これはまた、あの子の仕業しわざだ。


『ククク、クッカァ!』


『ごごごごご! うっふふふ。今度は正義のヒーローにはこれまたお約束! 怒りに燃える演出として劇画風の炎を出してみましたぁ』


『…………』


『結構、炎の魔人イフリートっぽくて迫力あるんですよ、コレ』


『…………』


『だいじょ~ぶ! ケン様と奴等のこころに見せている幻覚ですから。現に熱くないでしょ?』


 ええっと……

 まあ、確かに熱くはない。

 しかし、こんな姿を見た奴等が、あちこちで言いふらさないか?


『で、でもさ……こんなん出して後で変な噂が広まらない?』


『うっふふふ。奴らにほいっと、忘却の魔法を掛けておけばオッケーでぇ~す』


 忘却の魔法?

 そんな便利な魔法があるんだ。

 なら、良いけどさ。


『さあ! こいつらに、さっさと、とどめを刺しときましょ』


『とどめ? 本当に? も、燃やしちゃうの?』


『いいえ、違いま~っす! さあ、いかつく腕組みして下さい。表情も思いっきりニヒルに、冷たい感じであいつ等を見つめて下さいね』


 俺が、クッカの言う通りにすると、更に俺の全身から凄まじい炎が噴き出した。

 いわゆる、業火ごうかって奴だ。


 ごごごごごごごごごごっ!


 人間とは思えない、業火に包まれた俺のビジュアルを見て、クラン大狼の男達は完全に戦意を喪失してしまった。


「あわわっ、化け物! こ、こ、こ、こっちへ……く、来るなっ」


「ひぃぃぃっ、た、助けてくれぇ」


「ままま、魔人様ぁ! こ、殺さないでぇ~」


『うっふふふ、さあ一歩、二歩と力強く踏み出して下さい、奴等の居る方へ』


『了解!』


 俺は腕組みしたまま、ゆっくりと奴等に近付く。

 地面を、力強く踏みしめて一歩、二歩と。


 きゅうう……


 3人の男達は、俺が近付くのを見ると、大きく目を見開いた。

 更に速攻で、白目に変わってしまう。


 失神!


 それが……クッカの言う『とどめ』であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 気絶した3人に、クッカから教授された忘却の魔法を掛けた。

 これで、変な噂がひとり歩きする事もないだろう。

 

 しかし、俺にはまだやる事が残っている。

 レベッカの可愛い尻を触った、不埒ふらちな髭男ガエル・カンポをこらしめる事だ。


 3人を片付けた俺を、ガエルは不可解&驚愕の表情で見つめていた。

 俺は「ふん!」と鼻を鳴らし、ガエルに向かってゆっくりと歩き出す。

 すかさずクッカが、俺をフォローしてくれる。


 『ざっざっざっ!』


 いきなり聞かされて戸惑った『足音の効果音』も、今の俺には心地良い、最高のサウンドだ。

 そして、俺はとうとう、ガエルから約10mの位置に立つ。


 見れば、ガエルの奴はもう開き直ったらしい。

 不可解な事、見えないものは一切信じない。

 無理やり作った、そんな表情が浮かんでいた。


「あ、あいつらへ、何をやったか知らねぇが、おおお、俺には通用しねぇぞ」


 怖くないって言うけれど……さすがに声が震えている。

 

 3人もの部下が、俺みたいな餓鬼を見ただけで、全員あっさり気絶させられた。

 わけが分からず、理由不明だから、怖いんだろう。

 

 ぶるっているらしいガエルに対して、俺はにやっと笑う。


「さあ、何の事かな?」


「ととと、惚けるな! 何か魔法でも使いやがったか!」


 おお、鋭い!

 大当たりだよ、幻覚の魔法って奴さ。

 忘却の魔法と一緒に、クッカから教えて貰ったので、次回から俺も使える。

 だが、敢えてこいつには使わない。


 俺は、奴の問いには答えず、はっきりと言い放つ。

 こいつには、クッカの力を借りる必要もない。

 

「おい、髭! 俺の可愛い嫁の尻を触りやがったな、許さないぞ」


 ガエルはだんだん、落ち着きを取り戻して来たらしい。

 再び、威嚇して来る。


「あの女が、てめぇみたいな餓鬼の嫁だなんてよ、半人前の癖に舐めやがって!」 


「はぁ? お前のような悪党の、小汚い髭面を? ははは、舐めるって? 冗談ポイだぜ! 汚ねぇ反吐が出らぁ! すっげえ気持ち悪いし、真っ平御免だ! ホントは触りたくもないけど仕方無いな」


 ああ、さっきのクッカの口調が移っている?

 でもこんな最低な奴、きつく罵倒するくらい構わないだろう。


「く、糞!」


「クソでも、何でも良いから、おっさん! さっさと掛かって来い。俺も剣を使わず、素手だけで相手をしてやるからよ」


 俺に散々挑発されたガエルは「もう勘弁ならない」という表情で突っ込んで来た。

 大きな拳を振り上げて、殴り掛かるガエル。

 

 しかし!

 俺は歩きながら、身体強化のスキルも発動していた。

 超チートな動体視力の前では、奴の動きも超スローモーだ。

 

 ガエルの動きを簡単に見切った俺は、あっさりと相手の拳を避ける。

 と、同時に、左手で胸倉を掴んでしまう。

 

 更にぐいっと片手で持ち上げる。

 首が締まる形となり、ガエルは苦しそうだ。


「くくく、苦しい! は、離せ」 


「へぇ? 離せだと? 不埒な悪党の遠吠えは聞こえんな」


 俺はその瞬間、容赦なく奴の左頬を張った。


 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱん~んっ!


 肉を打つ小気味良い音が辺りに鳴り響く。


「あががが、あ、あごが」


 必死に、痛みを訴えるガエルではあるが、俺は冷たく笑う。


「ほう! あごが、そんなに気持ち良くなったか? それじゃあ、次は腹にも大サービスだ」


 どごん!


 俺は続いて、憎きガエルの腹へ、怒りの拳を突き入れていたのであった。

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