第2話 沖ノ鳥島防衛戦②

 かつて太平洋戦争末期に数機だけ生産された幻の戦闘機震電。構想だけに終わってしまったジェットエンジンを積んでいま大空を切り裂く。


 漁船の舳先を狙って確実に破壊していく。

 手心を加えているのだ。


 スクランブル発進していた日本国防軍のイーグルが二機駆けつけてきた。

『所属不明機に告ぐ、ただちに攻撃を中止して指示にしたがえ』

「所属不明機だと?この日の丸が見えんのか若造!震電改じゃ!」

『震電改、了解した。ただちに攻撃を中止して指示にしたがえ。繰り返す、ただちに攻撃を中止せよ』

「いやぁ最近耳が遠くなってよく聞こえんわい」

 パイロットはすっとぼけて操縦桿を握りなおす。


 ふいに操縦席に警告音が鳴り響いた。ロックオンされたのだ。

 イーグル二機もロックオンされたらしく回避行動をとる。

『対空ミサイルを確認。脱出してください』

 若い女性の声が届いた。

「なんのこれしき、避けてみせるわ!」

『急旋回したら頭の血管が切れますわよ。脱出姿勢をとってくださいませ』

「あっ待て!」

 風防がはじけとび続けて操縦席が射出される。

 パラシュートが開いてゆっくり降りていくパイロットの前方で震電改がミサイルによって撃墜された。

「ぐぬぬっ」

 歯噛みして悔しがるパイロットだった。


 <SIIB>の洋警艦が三隻、漁船団の後方から姿を現した。

「これより作戦は第二段階にはいる。連合国民の生命、財産を守るため全力で反撃せよ」

 指揮官が命令をくだした。

 さらに日本の出方をみて占拠からの実効支配へと移る段取りだ。

 これらはかつて中国が南沙諸島で繰り返し、実績のある作戦だった。

 特に日本は民間船や軍艦ではない警備艇や調査船への対応がぬるい。


 洋警艦から無防備な沖ノ鳥島に砲火が集中する。そして対地ミサイルが撃ち込まれる。

 洋上警察管下の船ながら武装は軍艦に匹敵する特務艦隊であった。


 狭い沖ノ鳥島に逃げ場などなく地獄と化した。

 岸壁に停泊していた連絡船や輸送船、応援の巡視船まで炎に包まれる。


「上陸準備!」

 指揮官が次の命令をだした。

 上空を旋回するイーグルも遠巻きに警告を発する巡視船も攻撃してこなかった。本国の許可がおりないのか、あるいは恐れをなしたか。

 もっともその時は蹴散らすだけだ。それだけの能力がこの三隻にはあった。


 と、ふいに鈍い衝撃が船体にはしった。

 異音がしてみるみる船あしがおちていく。

「なにごとか!?」

「スクリューになにかぶつかったようです」

 すると異音はスクリューシャフトが歪んだせいか。

 僚艦が追い越していく。

 が、右側の洋警艦が揺れたかとみえると漂いはじめた。


 ~~~~~


「三隻目、ネコパンチ用意!」

 はずんた声がブリッジに響いた。

「外さないでね」


 照準モニターにスクリューが映しだされ次の瞬間、画面を黒い塊が横切った。スクリューは破壊されブリッジに重たい音響が届いたがほとんど衝撃はなかった。


「さてご老体を迎えにいくわよ」

 声の主が開いていた胸元のチャックを上げる。

「イカ天を上げて。待機中のエビフリャーに出迎えを指示。みなさん服装をととのえてね、うるさわよ」


 ~~~~~


 沖ノ鳥島は死屍累々の有り様だった。

 生き残った者たちは茫然自失していた。

 そして肝心の岩礁は二つともミサイルによって吹き飛び大穴がうがたれていた。

 もはや満潮時に露頭することはないだろう。


「立ち上がれ!」

 迫力のある声音が耳をうった。

 声の方向には褌一つきりの老人が仁王立ちになっていた。全身ずぶ濡れだった。

「日本男子なら下をむくな、前をみろ!」

 老人は遺体に歩み寄った。

「手伝え、墓をこさえるぞ」

「墓?」

「仏さんたちで島を盛り上げる」

「しかし……」

「しかしもへったくれもない!」

 老人は激発した。

「サンゴ礁などサンゴ虫の死骸の山だ。そこに人の死体が加わったところでなんの不都合があるか!」


 とんでもない理屈を振り回し遺体で山を築いてしまった。

 もともと満潮時でも10センチ前後の高さしかなかったのだから随分かさ上げしたことになる。

 老人が誰なのかようやく気になりはじめたころ飛行ドローンが降りてきた。


「海洋連合は撃退しました。帰りましょう、みんな待ってますわ」

 ドローンが喋った。

「うむ、ご苦労」

 老人はドローンに導かれるように海にむかった。

 そこには場違いな水着姿の美少女が老人を待ちかまえていた。









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