第84話『日本刀を出しときゃいいってもんじゃない』
現在俺とデルフィは、フェイトン山でゴーレムを狩りまくってる。
非公開の26番口ってとこがあり、そこから入ってるんだけど、ホントすげーわ。
なんつーか、無双系ゲームの雑魚みたいな感覚で金属系ゴーレムがワラワラ出てくんの。
ミスリルだろうがオリハルコンだろうがお構いなしですよ。
なんでこんなことになったかというと、フェイトン山のダンジョンコア停止のための条件として、採取のお手伝いをお願いされたんだな。
ここのダンジョンコアは停止されると1年は復活しないらしく、その間の金属を採り貯めといて欲しいと頼まれたんだ。
そんなわけで、とにかくゴーレムを倒しまくってるんだわ。
他の冒険者にも手伝って欲しいところだけど、いま冒険者ギルドは全力を上げて各地のダンジョンコア停止に奔走してるんでね。
深淵のダンジョンに関しては、前回のダンジョンコア停止の情報が引き継がれているらしく、帰還玉が使えるようになったみたいだ。
各階層への転移陣はそもそも存在しない仕様なんでどうにもならないが、それでも帰還玉が使えるってのはかなりありがたいってさ。
一応前回俺たちが攻略した時の情報を覚えてる限り提供したところ、帰還玉と合わせれば俺たち以外でも攻略は可能だろうってことで、そっちは冒険者ギルドに任せることにした。
かれこれ1ヶ月ほど狩り続けてるんだが、出現数が減りそうな気配はない。
26番口では出現数の少ない銅と
やり過ぎたか……。
普通に考えれば希少金属価値の大暴落が起こりそうだが、フェイトン山のダンジョンコア停止は確定しているわけだし、価格の安定化については鉄工ギルドに頑張ってもらおう。
あと、たまにロックゴーレムも出たんだが、そいつが大理石みたいな綺麗な体で出来てんの。
見た目通り価値の高い石材らしく、石工ギルドの人が大喜びしてたよ。
木工ギルドが恨めしそうにしてたけど、おたくらは樹海の木をいくらでも採れるんだから我慢してくれや。
**********
約束通り、というか約束以上の金属を納めた俺たちは、秘密の26番口よりさらに秘匿性の高い0番口というところに案内された。
ここが唯一ダンジョンコアに通じる出入り口らしく、知っているのはダンジョン協会とヘグサオスク評議会のダンジョン担当の偉い人だけみたいだ。
0番口から入ってしばらく進んだところに、坑道を塞ぐような形で扉が設置されていた。
「お、あったあった。コレだな」
この扉を開ける方法はなく、破壊して進まなければならない。
つまり、この扉を破壊出来るだけの力がないやつはお呼びでないってわけだ。
「どうする?」
とりあえずデルフィに確認。
今のところ一撃の破壊力は俺よりデルフィの方が高いからな。
「ん。私がやるわ」
デルフィは弓を構えると弦を引いた。
大きな魔力の流れと風の力が構えた弓に集まる。
そしてデルフィが引き絞った弦を離すと、竜巻のような風と魔力が大きな門を襲う。
門は風穴を空けつつ、その魔力の嵐に巻き込まれ、壁の辺りまでボロボロと崩れていった。
「やり過ぎじゃね?」
「……えへ」
一応ここはダンジョンなので落盤の心配はないらしいが、ちょっと不安だわ。
無残に破壊された扉の後を見るとなんだか可哀想になってくる。
そして数秒後、「ゴウン」となにか大きなものが崩れる音が、扉の向こうから聞こえてきた。
扉の残骸を越えると先には大部屋があった。
「変わった形のゴーレムね」
部屋の中央、おそらくは門の向こうで通せんぼするように立っていたであろう二体の巨像が、折り重なるように倒れていた。
向い合って立っていたのか、それぞれの左右半身がえぐり取られている。
ゴーレムっつーか、これ仁王さんじゃね?
いろんな寺の入口を守ってる、金剛力士像だと思う。
大きさは浅草寺の金剛力士像1/1スケールって感じで、かなりでかい。
いや、でかかった、というべきだろうか。
「なによ、さっきから変な顔して」
「いや、別に……」
なんでだろ、ちょっと悲しくなってきた。
しばらくすると、金剛力士像はそれぞれ残った方の腕を残して消滅した。
この辺はゴーレムと同じなんだな。
「あ、これ木製じゃん」
しかも高そうな木材だわ。
こりゃ木工ギルドの連中喜ぶぞー。
とりあえず鉄工ギルドの納品用収納庫に預けとこう。
金剛力士像が消えた後、転移陣が現れたので、それに乗って移動する。
移動した先はやはり日本風の部屋。
ただ、今までと違って畳張りの和風な部屋だね。
まあさっきの金剛力士像見れば、なんとなく趣味は分かりそうなもんだけど。
そうなると最強の武器ってのにちょっと不安が出てくる。
「ダンジョン攻略おめでとうございます」
俺たちを出迎えたのは、着物姿の女性だった。
「どうも。聞かれる前に説明しとくけど、俺は日本人で山岡勝介。つよくてニューゲーム三周目ね」
「あらあら、いきなりとんでもない情報ですわね。ということは最近よく起こっていた時間の巻き戻りはあなたが起点なのでしょうか?」
「そういうこと」
「そうですか。失礼、自己紹介が遅れました。わたくし、フェイトン山のダンジョンコアを勤めさせていただいております、本田沙弥香と申します」
「どうも」
「では一応訊いておきますが、ダンジョンコアを停止されるご意思はお有りで?」
「あるよ」
「そうですよね……。こういう資源供給のようなダンジョンを作ってしまったわたくしが悪いのでしょうが、何年も前に渋いおじ様が来て以来、誰も止めてくださらないのです」
「うん、だからあるよ、止める意思」
「またいつか、新たなダンジョン攻略者さんが訪れるまで、わたしは一人寂しくここでまっております。ではダンジョンカードをお出し下さい。ダンジョン制覇の情報を入力しますので」
「いや、俺の話聞いてる? 是非君のことを止めたいと思ってるんだけど」
「あの、ダンジョンカードを……」
「人の話を聞けって。俺はここフェイトン山のダンジョンコアを停止しに来たの」
「今なんと?」
「だから、本田さんを停止させたいの!!」
「まあ、なんということでしょう!! それならそうと早くおっしゃってくださいまし」
「最初っから言ってるけどね。で、その代わりと言っちゃ何だけど、武器がほしい」
「ええ、そういうことでしたらお望み通りに。何かご要望は?」
「防御無視、耐性無視、出来れば回避不可もつけてもらえると助かる」
「最初のふたつはお安い御用ですわ。でも回避不可は威力を犠牲にする必要がありますよ?」
うーん、だったら当たるように頑張ればいいか。
「じゃあ回避不可は無しで」
「かしこまりました。では武器のタイプはどうされます? 打刀、小太刀、胴田貫等々ご要望にそいますが」
「レイピアで」
俺の答えを聞いた本田がマヌケな顔でこちらを見返す。
「レ……なんですって?」
「だから、レイピア」
「……わたくし、刀しか作れませんことよ?」
「はぁ? じゃあエリックのおっさんの時はどうしたの?」
「えっと……それは『妖刀:風刃斬魄』のことでしょうか?」
「妖刀? いや『風の剣』だよ。最初にここ攻略したおっさんに渡したってやつ」
「ですから『妖刀:風刃斬魄』のことですね?」
もしかして、それが正式名称なの?
エリックじいさん、恥ずかしくて名前変えたな?
その気持ち、わかるぜ……。
「あー、たぶんそれ。それは普通の剣じゃないの?」
「打刀でしたわよ? 風の斬撃を飛ばすには適した形だとかで、威力を下げて追尾機能をつけましたわね」
そうだったのか……。
「いや、申し訳ないんだが俺はレイピアがいいんだけど」
なんか、だんだん本田が不機嫌になってきたぞ?
「あなた日本人でしょう!? 日本人にとって最強の武器は刀以外にありえませんわ!! そうでしょう?」
とりあえず刀が最強っていう安易な設定はあんま好きじゃないんだけどなぁ……。
「そもそも日本人であるあなたがなぜレイピアを?」
「だって、刀なんて出回ってないもん」
「ぐぬぬ……。でも刀が使えるとわかったら刀がいいとは思いませんこと?」
「俺は刺突がメインだからなぁ……」
「あら? 新撰組の基本戦術は刺突でしたのよ? 打刀でも問題ないのでは?」
知るかよ新撰組のことなんざ。
「いや、俺的にはあの反りがいらないんだよ、反りが」
「むむ……、あの反りが美しいのに……。では反りがなければ刀でもよろしくて?」
「うーん……どうなんだろ」
「直刀でしたら片刃のレイピアみたいなものでしょう!? というか、それ以上の譲歩は出来ません!!」
こりゃこのへんで妥協するしかなさそうだな。
「あ、ちなみに弓は作れる?」
「先程から申し上げておりますように、刀しか作れません!!」
あー、なんか怒っちゃったな。
「あの、じゃあ直刀でおねがいします。刀身の長さはコレぐらいで」
と参考までに竜骨のレイピアを見せる。
「わかりました。では残りのDPと私の存在をかけてお作りいたしますわ」
「よろしくお願いします」
「なにやら大事な使命を背負われているご様子。私の武器がそのお役に立てれば幸いです。ではごきげんよう」
と、本田はあっさりと消えた。
そして彼女が消えた後には一振りの刀が残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます