閑章二【青春の行方、そして発散】
第47話『青春の行方』
Dランクへのランクアップ当日、宿泊施設に引きこもったデルフィを放置し、俺は魔術士ギルドへ行った。
いつものようにハリエットさんの魅惑の谷間に見とれつつ、魔術士ランクをDランクに上げ、10,000Gに増えたローン枠を駆使して『炎』『氷』『雷』『魔』の『纏剣』と、『魔斬飛剣』『魔突飛剣』を習得した。
そういえば、ヘクターはまだ行方不明のままらしく、ハリエットさんは以前にましてお疲れ気味のようだった。
なにか陰湿なストーカー行為を受けているのかもしれないなぁ。
ハリエットさんから助けを求められるのであれば、無論動くつもりではあるが、本人が何も言わないのに根掘り葉掘り訊くのは野暮ってもんだろうってことで、しばらくは様子見かな。
その夜、デルフィを起こし、夜行馬車でダンジョンへ向かう。
ローンが増えたので働かないとね。
あと、レンタル防具のグレードも一気に青銅から鋼に上げたので、その分のレンタル料だってバカにならない。
そうそう、デルフィの宿だが、前回ダンジョンへ向かう前に引き払っていたらしい。
しばらくはダンジョン探索に集中するつもりだそうな。
**********
到着直後からダンジョン探索に励む。
夜行馬車は通常の馬車だったが、適度な揺れがむしろ眠りを誘ってくれた。
少々高かったが、ちょっとした疲労回復機能のあるフルフラットシートを取ったので、移動の疲れはほとんどない。
ダンジョン11~20階層は迷路ゾーンとなっている。
ミノタウロスのいた迷路施設が、階層全体に広がっている感じだな。
探索中、順調にSPを稼いでいた俺は<気配察知><魔力感知><気配隠匿>のスキルレベルを適宜上げていき、出来るだけこちらが先制攻撃を仕掛けられるようにつとめた。
2人パーティーだと、ちょっとした油断が全滅につながりそうだからな。
ちなみに上記の不意打ち御用達スキル三種については、デルフィもかなり高いレベルを誇っているようだった。
さすが森の人。
そんな感じで5日かけて20階層を攻略。
ローンの返済も終わり、それなりの貯えも出来た。
レベルやスキルも順調に上がっている。
俺と合わせてデルフィもどんどん強くなってるみたいだ。
20階層を攻略した翌日がちょうど無曜日だったので、休日とすることにした。
**********
「なにぃ? ショウスケお前、あの嬢ちゃんと何もねぇのか?」
「何もないも何も、ただのパーティーメンバーですし」
「いやいや、そうかもしれんが、それでもふたりっきりでダンジョン探索してたらそういう雰囲気になることもあるだろ? ダンジョンで野営したりすると特によぉ」
20階層を攻略した日の夜、ミノタウロスの斧を売った時からずっとエムゼタシンテ・ダンジョンにいるガンドルフォさんと、俺は屋台で飲んでいた。
確かにガンドルフォさんの言っていることも分かる。
11階層攻略後の規制解除で20階層までの規制がなっくなったので、効率を考えるとダンジョン内で寝泊まりしたほうがいいのは明らかだ。
規制があれば階層ボス攻略後の帰還転移があるが、そうでなければ浅層への転移陣を探して1階層ずつ戻るか、100G払って帰還玉を使うしかない。
毎日100G払うのはもったいないってんで野営の準備をしてダンジョンに潜ったのだが、最初の野営でテントを張ったあと、隣でデルフィの寝息が聞こえてきた時、俺の理性は危うく吹き飛ぶところだった。
とりあえず般若心経のエア写経でなんとか湧き上がる青春を沈めていると、<精神耐性>を習得し、即座にLv3までアップしたわ。
さらにSPを使ってLv5にし、ようやく一晩耐え切った俺は、帰還玉代を俺が持つことにして毎晩宿へ戻ることを提案した。
「ま、まぁ……ショウスケ的にそのほうがいいんなら、それでも良いけど……」
毎晩きっちり浄化施設を使って寝台で寝れるんだから、デルフィもさぞ大喜びするだろうと思ったが、なんか微妙な反応だった。
まぁ男と2人で野営するってんだから、彼女にもそれなりの心づもりはあるのかもしれんが、なんというか、今の関係が正直いって心地いいので、出来れば変化は避けたいんだよなぁ。
ヘタレと言うな言ってくれ。
俺は据え膳を食わない主義なんだよ。
「じゃあお前さん、その湧き上がる青春をどうやって発散してるんだ?」
「そりゃ、無限のイマジネーションと無敵のライトハンドで……」
「ショウスケェ……」
ガンドルフォさんが呆れたように首を振る。
「ダンジョン近辺の集落にゃあそういう店がちゃんとあるんだから、有効に活用しねぇと」
「はぁ……」
うーむ、俺のいた現代日本じゃ青春の売買は違法だから、どうしても抵抗があるんだよなぁ。
いや、もちろん興味はあるんだけどね。
「よし! お前さんら明日休みっつってたよな?」
「ええ」
「いいトコに連れて行ってやる」
いいトコって、そういうトコ?
「いや、でもそういう現場を万が一デルフィに見られたら……」
「アホぬかせ。ここのショボいトコじゃなく、もっといいトコだよ!!」
「もっといいトコ?」
「ここよりも歴史の古いタバトシンテ・ダンジョン付近は遊郭も洗練されててな。ここみたいに質の悪い立ちんぼに声かけられることもないんだぜ」
そういや宿や近辺でエロい格好の女の人に声かけられたことが何度もあったな。
まぁ相手にはしなかったけど。
「まだ高速夜行馬車に間に合うから早速出発しようか」
「いや、でも……」
「社会勉強だと思ってオッサンについて来い!!」
なんとなく断りづらい雰囲気だし、なによりこのままだと俺の中の青春がはっちゃけそうなので、ここはガンドルフぉさんに任せるか。
<精神耐性>上げすぎてそっち方面で悟りを開いてもつまらんしな。
明日、何を予定してたわけでもないけど、一応デルフィには一言伝えておこうと思い、宿を訪ねる。
なぜかガンドルフォさんと、パーティーメンバーの女の人が1人、宿屋についてきた。
「なに?」
「いや、明日ちょっとガンドルフォさんと出かけることになったから、一応伝えておこうと思って」
「ふーん。どこいくの?」
「いや、えーっと、その」
なんと答えてるべきか……。
助けを求めてガンドルフォさんを見る。
「いよぉ。嬢ちゃん。すまんが明日はショウスケを借りるぜ」
「えっと……」
「心配すんな。男同士で親睦を深めようってだけさ」
「そう、ですか」
なにやら不審げな目を俺たちに向けてくるデルフィ。
「で、嬢ちゃんも明日暇なら、エムゼタに言って買い物でもしてきたらどうだ? よかったらコイツが案内するぜ?」
そう言ってガンドルフォさんが紹介したのは、褐色の肌に白銀のショートヘアの女性だった。
たぶんだけど、この人ダークエルフってやつだと思う。
デルフィと違って出るとこは出てるな。
この誘惑に勝つには<精神耐性>Lv8ぐらい必要だわ。
「はじめまして、あなたがデルフィーヌちゃんね?」
「えっと、はい……」
「アタシはミレーヌ。見ての通りお仲間よ」
「あ、どうも……」
デルフィのやつ、人見知り全開だな。
「このオッサンも言ってたけど、明日暇なら一緒にエムゼタ行かない?」
「えっと……」
なぜか救いを求めるように俺を見るデルフィ。
なんだか申し訳ない気分になってくるな。
「まぁ気晴らしに行ってくれば? お金の方もちょっと余裕出来たし、服とか買ってもいいんじゃない?」
「……わかった」
「よかったぁ! じゃ明日の朝迎えに来るわね」
ってな感じで宿屋を後にする。
「すまんなミレーヌ」
「いいのいいの。アタシも暇だったし。久々に樹海女子トークに花でも咲かせよっかなぁ」
そう言うとミレーヌさんは手をひらひらさせて雑踏の中に消えていった。
「よし、じゃあ俺達も行くか。現地に助っ人も呼んであるから、大船に乗ったつもりでついて来い!」
「押忍!!」
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