第41話『魔法のすゝめ』
「ショウスケくん、さっきからバンバン撃ってるけど、魔力酔いとか大丈夫?」
「魔力酔い? 魔弾程度なら100発撃っても全然平気っすよ」
「いやいや、ショウスケくんヒト族だよねぇ?」
「ええ、まあ」
「だったらそんなに魔術バンバン撃ったらまずいでしょ」
「ああ、いや、俺何回も気絶寸前まで魔術の練習してたから、そのたびに魔力が増えちゃって」
「はぁ? そんなので魔力が増えたらみんなもっと魔力持ってるでしょ。普通のヒト族は日常生活レベルの生活魔術を使うぐらいの魔力しか持ってないんだよ? 僕ら獣人はそれ以下だけどさ」
あれあれ? なんか変だぞ?
「えーっと、普通はそんなに魔術って使えないんですか?」
「そりゃそうでしょ。そんなにポンポン魔術が使えるのなんてエルフぐらいのもんだよ」
ここでデルフィーヌさんが、無言で自慢気に胸を張る。
「もちろんヒト族の中には生まれつき魔力を多く持ってる人はいるみたいだけど、ほんの一握りだよね。修行である程度伸ばせるらしいけど、気絶寸前まで魔力消費したら保有魔力量が増えるなんて話聞いたことないし、それが事実ならとっくに魔術士ギルドあたりが魔術士養成に使ってるでしょ。あそこ、研究者は多いけど、魔術士は万年人手不足だから」
ふむう……、どうやらここにも加護の成長補正が働いてるのかもしれんなぁ。
なんというか、ゲーマー的には、MPをガンガン消費したら、その分最大MPが増えるってイメージがあるんだよねー。
その思い込みが加護の成長補正に影響してるんだろうな。
じゃあなんで死に戻りで何回もHP0になってんのにHPの方は増えないんだ、って話だけど、MPは消費した時点で最大値アップ、HPは0になった時点でノーカウント、ってイメージがあるわ。
この辺の意識改革が出来れば、死に戻りの度にHPが増える可能性もあるけど、長年染み込んだゲーマーの意識はそうそう変えられないだろうなぁ。
「じゃあ、普通のヒトは魔力増やせないと?」
「そうだねぇ。魔術をたくさん使って魔物を倒していくと”強化”で増えることが多いとは聞くけどね。それでも個人差はかなりあるみたい。人によっては消費魔力量を減らすってのが出来るみたいだけど、今のところ体系化出来てないのでそっちは”天啓”に頼るしかないかな」
なるほどねー。
<消費MP軽減>とかそういうスキルがあるんだろうな。
「ショウスケくん、まさかエルフの血が入ってるとかないよね?」
なんかデルフィーヌさんが興味津々な表情でこっち見てるよー。
「あははー、どうなんでしょうねぇ? 両親とか家族とか昔のことはあんま覚えてないんで」
すっかり忘れてたけど、記憶喪失の設定を引っ張り出してくる。
元々の俺は縄文時代まで遡っても人間の先祖しかいないと思うけど、こっちの俺は一応お稲荷さん製だからなぁ。
とりあえず笑ってごまかしとこ。
「あ、そーだ。2人ともちょっと待ってて」
俺から納得のいく答えが得られないとわかったフェデーレさんは、訓練場をキョロキョロと見回した後、小走りに俺たちの元を離れた。
そして1分もしないうちに1人の男性を連れてくる。
さらっさらの金髪ロン毛、整った顔立ちに尖った耳。
うん、エルフだね。
「こちら、弓術教官のクロードさん」
「なんだ、フェデーレ急に」
突然連れてこられたクロードさんは少し困惑している。
「まぁまぁ。えーっと、こちらはEランク冒険者のショウスケくん。で、こちらはFランク冒険者のデルフィーヌちゃん」
フェデーレさんがクロードさんに俺たちを紹介し、お互い適当に挨拶を済ませる。
「で、クロードさんに見て欲しいんだけど……」
そういいつつ、フェデーレさんがコントロールパネルを操作すると、8体のゴレームが動きまわり始めた。
「デルフィーヌちゃん、やっちゃって」
「え? あ、うん」
デルフィーヌさんは多少困惑しつつも魔弓を構え、各種『矢』系魔術でゴーレムを破壊していく。
「ほう……」
クロードさんはその様子に感心しているようだった。
「……とまぁこんな感じだけど、どうかな?」
「どうかな、とは?」
「Eランク、大丈夫だと思う?」
「Eランク程度なら問題あるまい」
「オッケー。じゃあ後で承認よろしくー。というわけで、デルフィーヌちゃん、Eランク昇格ね」
「え? えぇ!?」
突然のことで困惑するデルフィーヌさん。
正直俺も状況がイマイチ飲み込めていない。
「デルフィーヌちゃんは昨日Eランク依頼を無事成功させたでしょ? その実績があって、ギルド公認の教官からお墨付きが貰えればランクアップは問題ないんだよ」
「えっと、じゃあ、私……」
「うん、ソロでダンジョン探索出来るね」
「……!!」
驚きと嬉しさで声も出ねぇって感じだな、デルフィーヌさん。
「用事はこれだけか?」
「うん。あ、そうそう、最近のハイエルフって魔法使えないってクロードさん知ってた?」
「何?」
フェデーレさんの言葉にクロードさんが眉をひそめる。
「最近は魔術が発達してるから、魔法なんて流行らないんだって。ねー、デルフィーヌちゃん?」
「え、ああ、はい……」
「ふむう。相変わらず流行に流されているんだな、樹海の連中は」
デルフィーヌさんたちの話しぶりから、樹海ってのがエルフの里みたいなところだと思うんだが、なんかエルフって保守的なイメージあるんだよね。
でもクロードさんの言葉からは、なんかミーハーな感じが伺えんだが。
「あのー、エルフって流行に流されやすいんですか?」
というわけで、思い切ってクロードさんに訊いてみよう。
「エルフは長命だから保守的、と思っているのか?」
「ええ、まあ」
「なぜか他種族からはそう思われがちなんだが、長命ゆえに流行に敏感なのだよ」
「はぁ」
意味がわからんぞ。
「例えば君らヒト族が時代に取り残されたとしよう。そしてそのまま時代に適応できなくなったしても、数十年で寿命が尽きるわけだから特に問題はない。しかし我々エルフは、そうなってからも数百年の時を生きねばならんのだよ」
なるほど。
俺らの場合は時代遅れだろうがなんだろうが、隠居して”偏屈爺さん”呼ばわりされているうちに寿命を迎えるわけだ。
でも、例えば俺が生きていた元の世界で、着物姿で腰に刀ぶら下げて「ワシの若いころはー!」なんて言ってたらやばい人だもんな、完全に。
「我々にとって50年100年はあっという間だが、世間的に常識が書き換えられるには充分な時間でもある。ぼーっとしていたら時代に取り残されるのだよ。そして時代に適応出来ず人里を離れて隠遁するものや、自ら命を絶つものは少なくない」
「なるほど、だからこそ流行には敏感でなければならない、と」
「そうだな。とはいえ、樹海の連中は度が過ぎる。新しい物を取り入れるのは構わんが、古いものをあっさりと捨て去ろうとするのはいかがなものかと思うがね」
そういいながら、クロードさんはとつとつと歩き、コントロールパネルを操作する。
射撃場に10体のゴーレムが現れ、動き回る。
「エルフが魔術を使うというのは悪くない。しかし魔法を使えないというのはいかがなものかと、私は思うのだがねぇ」
いつの間にか手には長弓が持たれており、流れるような動作で弓を構え、弦を引く。
クロードさんが何もつがえないまま弦を離すと、10対いたゴーレムすべてのみぞおち辺りに、ほぼ同時に拳大の穴が空き、崩れ落ちた。
フェデーレさんとデルフィーヌさんが目を丸くしている。
おそらく俺も同じような顔をしているのだろう。
「今のって、魔法っすか?」
「ああ。私は風魔法と弓術が得意でね」
「それ、魔弓っすか?」
「いや。弓としては上等だが、魔術処理は一切施しいていない」
俺の問いに答えたクロードさんは、デルフィーヌさんに歩み寄った。
「君はハイエルフなのだろう?」
「え、あ、ハイ」
デルフィーヌさんすっげー緊張してるな。
「せっかく膨大な魔力を有しているのに、使えるのが魔術だけではもったいないぞ」
「あ……あの、私も、魔法……」
「魔法というのはイメージの具現化だ。魔力を使って属性の力を操るイメージだな。我々エルフは風属性の恩恵を受けやすい」
デルフィーヌさん服や髪が、風に吹かれたようになびき始める。
「風を操るイメージを持つことだ。このようにね」
そしてデルフィーヌさんのスカートが思いっきりめくれ上がる。
……白、か。
シンプルだが悪くないデザインだ。
「ちょ! 何を……!!」
デルフィーヌさんが顔を真赤にしつつスカートを抑えこみ、抗議の目をクロードさんに向けるが、すでに彼は背を向けて10mほど先を歩いていた。
「イメージだ、イメージ。はっはっはー!」
「ああ、クロードさん相変わらずだなぁ……。アレがなければ完璧なんだけど」
うーむ、紳士的な人だとは思っていたが、まさ変態紳士だったとは。
「……見た?」
デルフィーヌさんが顔を真っ赤にして、スカートを抑えながら恨めしそうにこちらを見ている。
もう風は止んでるし、そんな必死こいてスカート抑えなくても良さそうなもんだけど。
「ねぇ! 見たんでしょ!?」
「あー、えーっと、スレンダーなのに張りのあるいいお尻……」
喋ってる途中でおもいっきりビンタされたよ。
無事Eランクに昇格したデルフィーヌさんと、翌日一緒にエムゼタシンテ・ダンジョンへ向かうことになった。
何故か馬車代は俺持ちだったよ……。
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