第22話『Re:初めての人助け』

《スタート地点を更新》



 スタート地点に戻った俺は、急いで門を出た。


 これ、門番の人からすれば街を出たあとすぐに入って、またすぐに出た、みたいなことになってんのかね?


 まぁそんなことを気にしてもしょうがないので、俺は急いで現場に向かうことにする。



**********



 前回も森の中を走り回ってたから、正確な位置はわからないんだけど、それでもまだ近い位置にいるような気はする。


 場所はともかく時間的にはそろそろだと思うので、まずは『魔槍』の詠唱を開始。


「イヤァァ!!」


 ほらね? 前回より近い。


 <気配察知>におそらくは逃げている女性と、それを追いかけているグレイウルフ、さらに少し離れて女性を包囲している個体を確認した。


 後ろを追いかけているのはともかく、隠れて左右に展開している連中はうウザいな。


 そろそろ射程に入りそうなので、とりあえず左の茂みに隠れている奴に向けて『魔槍』を放つ。


「よし!」


 <気配察知>と<魔力感知>を全開にしていたおかげでほぼ正確な位置を把握していた俺は、難なく最初のグレイウルフを仕留めた。


 そのまま俺は『魔槍』詠唱をしつつ、右の木陰に隠れている奴を狙える位置に移動。


「キャァァ! 誰か……」


 対象を狙える位置に到着した時点で詠唱が終わり、即座に『魔槍』を放ち、2匹目も倒した。


 そこは逃げてくる女性に姿が見える位置だったので、先方も俺を見つけたのか、途中で悲鳴がおさまった。


「そのまま逃げて!」


 女性が驚いたような表情を見せる。


 そりゃそうだよな、いきなり現れた得体の知れん男にそんなこと言われても戸惑うわな。


 しかし今は緊急事態。

 

 とりあえずこの場から去っていただきたい。


「このまま走れば森を抜けれるから!! 急いで!!」


 すると、女性は無言で頷いてそのまま走っていった。


 左右から包囲していた連中はそれぞれ先頭を走っていたものを倒されたため、警戒してスピードを緩めていたが、後ろから追いかけていた連中はそのままの勢いで走ってくる。


 不意打ちが出来ないのであれば、効果範囲の広い『魔刃』の方が当たりやすかろう。


 ギリギリ詠唱を終えていた俺は、まず先頭を走る個体に『魔刃』を放つ。


 不可視の刃が先頭を走る狼の首を飛ばした。



《レベルアップ》



 それを見て続く狼どもは慌てて足を止める。


 もともと『魔刃』は無色透明だが、それでも魔力の塊である以上何らかの形で察知されるはずだ。


 なので、効果の程はともかく<気配隠匿>を意識しつつ放っている。


 今の一撃はほぼ不意打ちに近いのであっさり当たったが、向こうも俺が何らかの攻撃を行うことに警戒はしているだろうし、次はかわされるかもしれない。


 しかし、向こうが足を止めてくれたおかげで詠唱の時間は稼げた。


 2匹かたまって警戒していたので、そこに向けて、できるだけ動作でバレないように『魔刃』を放つ。


 手前にいた方は首を、奥にいた方は胸のあたりを切断され、悲鳴を上げる間もなく絶命する。


(<気配隠匿>と<無魔術>の相性ってもしかしてヤバくね?)


 残った狼どもが明らかに怯えた様子で後ずさる。


 ちょっとした哀れみを誘う光景ではあったが、ふと無残に食い荒らされた彼女の姿を思い出す。


「逃がさんよ」


 自分より弱いものを襲うからには、強いものに襲われても文句は言えんよな。


 怯える姿が可哀想だと思わんでもないが、ここは割りきって俺の糧になってもらおう。


 その後、目に見える位置にいる奴は『魔刃』で、茂みの奥に隠れているものは『魔槍』で倒し、計8匹の群れをあっさりと全滅させた。



《レベルアップ》


《スキルレベルアップ》

<気配隠匿>



 詠唱時間がネックになるかと思っていたが、正体不明の攻撃に対し、連中が戸惑って動きがとまったのは僥倖だったよ。


 もう少し数が多かったり、強かったりしたら危なかったかもな。



 あたりに他の魔物の気配がないことを確認し、死骸を集めて解体~収納した。


 前回売った解体用ミスリルナイフは、ちゃんとカバンに入っていたよ。


 さてと、このグレイウルフの死骸はたまたま見つけたってことにして納品しよう。



**********



 森を出て街に向かっていると、街のほうから5~6人の一団が走ってくるのが見えた。


「おーい!!」


 先頭にいるの、あれガンドルフォさんか?


 とりあえず手を振っておく。


「いよぉ! 無事だったかっ!!」


 程なく俺たちは合流した。


 どうややガンドルフォさんのパーティーらしい。


「ああ、どうも。どしたんすか?」


「どうしたもこうしたもねぇよ! このお嬢ちゃんが、森でグレイウルフの群れに襲われてるヤツがいるってんで救援要請があってな。それでたまたま俺らがいたもんだから慌てて来たんだよ。特徴聞いてまさかとは思ったが、やっぱお前さんだったのか」


 見れば例の女性が少し気まずそうな顔で立っていた。


 一瞬目があったが、すぐに逸らされる。


 そうかぁ、俺のために救援要請出してくれたんだなぁ。


 でも、これでグレイウルフの素材を「たまたま見つけました」で納品できなくなっちゃたなぁ。


「あはは……。なんとか逃げのびましたよ」


 さすがにDランク相当の群れを1人で殲滅したとか言えないよなぁ。


「しかし嬢ちゃんも偉いよな。お前さんが襲われてるってんで必死になって救援要請出してくれたんだからよ」


 ああ、そういうことになってんのね。


「今回は運が良かっただけだと思うぞ。薬草集めもいいが、あんま森には入るなよ!」


 女性の方を見ると、なんだか居心地悪そうな顔をしてた。


 女性はガンドルフォさんになにか言いたそうにしていたが、俺と目が合うと顔を真っ赤にして目をそらされた。


「はい、すいんません。ちょっと調子に乗ってました。以後気をつけますよ」


「え? ちょ……」


「ホントだぜ? どうしても森に行きたきゃひと声かけてくれよ」


 例の女性がなにか言おうとしたがガンドルフォさんの言葉に遮られる


 しかし、やっぱいい人だな、ガンドルフォさん。


「ええ、機会があればお願いします。君も、ありがとうね」


「えっと、あの……」


「じゃあ、俺たちゃ街に戻るわ」


 と、またまた女性の言葉がガンドルフォさんに遮られる。


 ガンドルフォさん、良い人だけどあんま空気とか読めなさそうだな。


 まぁここであんまダラダラ話してても意味なさそうだからいいけど。


「はい。ご迷惑をお掛けしました」


 ガンドルフォさん一行と例の女性はそのまま街に戻っていった。


 例の女性は何度かこちらを振り返っていたが、結局そのままガンドルフォさんたちと一緒に街へ戻ったようだ。


 まだ早い時間だったし、ここまで歩いてくる間にMPも少し回復したので、俺は薬草採取とジャイアントラビット狩りを行った。


 狩りの方は『魔槍』使ったら楽勝だったわ。


 傷口も槍で突いたように見えるし、問題無いだろう。


 とりあえずジャイアントラビットは3匹だけ狩って、街に戻った。


 もっと狩れたんだけど、いきなり狩りの効率が上がったらなにかと詮索されかねないからね。



**********



 この日の成果は200G程度だった。


 返済にはあてず、当面の活動費にしようと思う。


 当分は魔法の訓練をしたいから、魔術士ギルドに泊まる予定だが、食事は冒険者ギルドの食堂ですませる。



 例のごとく一番安いディナープレートを食べていると、ドリンク片手に相席してくる人がいた。


 軽く見回しても空席あるのに何で? と思ったら、助けた女性だったよ。


 そういやちゃんと見てなかったけど、この人すっげー美人なんだよなぁ。


 さらっさらの金髪ストレートのロングヘアーに切れ長の目、整った鼻筋、薄いけど上品な唇。


 肌の色は透明か? っつーぐらい白くて、スレンダーなスタイル。


 ひとつ残念な点があるとすればほぼ絶壁なところかな。


 まあ大きさに貴賎はないというし、無いなら無いなりの良さがあるんだろう。


 彼女が絶壁なのも、特徴的な耳の形を見たら何となく分かる。


 たぶんこの子あれだ、エルフだ。


 いやー、獣人がいるからもしやと思ったけど、やっぱいるんだな。


 他にもドワーフとかハーフリングとかいるのかねぇ?


「ちょっと……ジロジロみないでよ」


 いやいや、いきなり断りもなく相席されたら見るでしょうがよ!!


「あー、ごめん」


 でも謝っちゃう俺ってヘタレ。


「……何か用?」


 なんか言いたそうな顔してんのに言い出せないって感じで黙られると、いくら<恐怖耐性>で対人恐怖症が軽くなったとはいえ居心地は悪いんだぜ?


「私……嘘はついてないから」


「はい?」

 

「だって! あの後、あたなが狼の群れに襲われたのは事実でしょ?」


 急に大声出すなよびっくりすんなぁ……。


「ああ、まあ、そうだね」


 っつーか、別に気にしてないんだけどね?


 俺的にはあんな無残な死体を見といて放っといたら後味悪いだろうなって思ったから助けただけで、別に感謝してほしいわけじゃないし。


「それに、あなたが逃げ延びたんだから、私だって大丈夫だったろうし……」


 残念! 俺が行かないと君は無残な食べ残しになってたんだよー。


 あえていう必要もないことだけどさ。


「うん、そうだね。まあ今回はお互い運が良かったてことでいいんじゃない?」


「そ、そうね……」


 なんかホッとしたみたいだ。


「私、デルフィーヌ」


「え? あ、ああ。えーっと、俺はショウスケ」


 おお、なんか美人さんと知り合いになれたのか?


「ショウスケ……、ショウスケね」


 あんま人の名前連呼しないで……照れちゃうから!


「ああ、そういえば、どうしてあんなところに1人でいたの?」


「ちょっと採取に没頭しずぎちゃって……って別にあなたには関係ないでしょ!!」


 情緒不安定か。


「いや、まぁそうなんだけど……、気になっちゃって。例えばパーティー組んでたのかな、とか」


 もし他にもメンバーがいたら、見殺しにしちゃったかもしれないんだよなぁ……。


「パーティー!? 組んでないわよ!! 文句ある?」


「ああ、そうじゃなくてさ……」


「なに? 誘ってんの!?」


 ええ~? なんで怒ってんの?


「いやいや、俺だってソロだし」


「まぁ……どうしてもって言うんなら……」


「当分はパーティー組む予定はないよ」


 あれ、彼女なんか言ってたけど、遮っちゃったな


「え……? そうなの?」


「うん。団体行動が苦手でさ。やっぱソロが気楽でいいよね」


 よくわからんけど、女の人は共感しといたら良いんだっけ?

 

「そ、そうね。ソロが気楽よね……」


「だよね? うん。お互いソロ同士、これからも頑張ろうね」


「あ……、うん」


 あれ? なんか急にトーンダウンしたな。


 落ち着いたってことでいいのかな?


「じゃ……私行くわね……」


 そういうと彼女は立ち上がった。


 うーん、なんか落ち着いたっていうより落ち込んだ感じがしねぇ? 気のせい?


「あの……、ありがとう」


「あ……、うん、どうも」


 去り際にぼそっとお礼いわれた。


 よくよく考えたら俺って文字通り命がけで・・・・彼女を助けたんだよなぁ。


 まぁ……悪くない気分だな、うん。



**********



 夕食を終えた俺はそのまま冒険者ギルドの寝台に入った。


 なんか今日は魔術士ギルドまで行くのが面倒に思えたのでね。


 寝台に寝転がって、なんとなく今までのことを振り返ってみる。



 いきなり薄暗い森に放り出されて何回も死んで、這々ほうほうていで街にたどり着いたはいいものの文無し身分なし。


 しょっぱな不慮の事故で死んじゃったけど、いい人ばっかで良かったよなぁ。


 しかし冒険者ギルドっつー響きにワクワクしたけんども、結局最初は薬草集めっつー地味な肉体労働。


 まあそれでもバイトすらしたことない俺にしてみればすげー進歩だけどさ。


 薬草名人って呼ばれてたのは悪くなかったわ。


 んで徹夜で解体作業やったり、借金して魔術覚えたり。


 あ……ハリエットさんの胸元は思い出しただけでもヨダレが……。


 いかんいかん。


 えーと、あとは槍を片手にへっぴり腰で魔物狩り始めたと思ったら、ひょんなことから魔法を覚えてみたり。


 で、極めつけがデルフィーヌさんだよ。


 なんか行きがかりとはいえ、今思えばずいぶん熱くなっちまってたなぁ。

 

 結果的に助けられてよかったよ、ほんと。



 こっちにきて半月程度。


 短い期間だけど、家で引きこもっていた頃からは想像できない日々だったな。


 いろいろ大変だけど、これからもこの調子で頑張りますかね。


 ってことで今夜はさっさと寝よう。


 なんかいろいろ思い出したらそれだけで疲れてきたわ。


 じゃ、おやすみ……。

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