第20話『初めての人助け』
「昨日は来なかったね。今日も青銅の槍でいいかい?」
朝起きて朝食を終えた俺は早速冒険者ギルドを訪れた。
受付は例のごとくフェデーレさん。
他にも何人かいるんだけど、慣れてる人がいいよね。
武器レンタルだが、今日はちょっと別のを借りてみようと思っている。
「すいませんけど、レイピアを見せてもらっていいですか?」
「ほほう、なかなか渋いところをつくねぇ」
レイピアは突くことに特化した剣だ。
なんとなくだが、不意打ちで急所を一突きする俺の戦闘スタイルにはこれがあってるんじゃないかと思ってさ。
渡された剣は、刃の幅が3cm足らず、長さは1.2mぐらいかな。
結構厚みがあるけど、一応両刃になってるみたいだ。
「刃はあるけど申しわけ程度の切れ味しかないからね」
俺が刃の部分をジロジロ見てたら、フェデーレさんが補足してくれた。
しかし剣身がえらく綺麗だなぁ。
「……これって青銅ですか?」
「さすがにレイピアを青銅で作るのは無理があるよ。その細さで武器としての実用に耐え得る強度をもたせるなら鋼じゃないと。欲を言えばミスリルね」
「鋼……?」
青銅っつっても遺跡発掘なんかで見つかる青緑な感じじゃないからね。
金属の配合によっては金ピカにもなるからね。
だから見た目で判別するのは難しかったりするんよ。
「そ。ウチのは芯に純鉄入れてるから鋼だけど折れにくいんだよー」
「えーっと、じゃあレンタル料は?」
「20G」
「……すいません、青銅の槍で」
**********
例のごとく青銅の槍と採取キットをレンタルし、ジャイアントラビットの生息地に向かう。
とりあえず槍は収納庫においてある。
MPが700を超えたので、槍の出し入れぐらいは楽勝だ。
今日は本格的に稼ぐつもりなので、薬草採取をメインに、ジャイアントラビットを2~3羽狩る予定だ。
1時間ほどかけて薬草を集めつつ、ジャイアントラビットの生息地を訪れた。
「あれ? なんか少なくね?」
なんというか数が少ない。
ここは俺が最初に飛ばされたシェリジュの森に少し近い場所なんだが、どうやらウサ公どもは森から出来るだけ離れようと移動しているようだ。
生息地ギリギリのあたりに10匹ぐらいがかたまっている。
「……ん?」
いま、微かにだが悲鳴のようなものが聞こえなかったか?
たぶん森の方からだと思うんだが……。
「キャァァ! 誰かぁ!!」
やっぱりだ! 女の人の悲鳴だ!!
すげー遠くみたいだけど、聞こえた!!
とりあえず俺は悲鳴のする方へ駆け出した。
**********
最初のうちは悲鳴の位置がどんどん近づいていたが、ある時を境に悲鳴が途切れてしまった。
嫌な予感を覚えつつも、俺は悲鳴の発生源であろう場所へ急行する。
「……!!?」
目に入ったのは仰向けに倒れている女性の姿。
しかし近づいてみると、無残に食い荒らされていた。
「ひでぇな、こりゃ……」
解体講座でゴブリンやオーク等人型魔物を含め、解体をしていたおかげで血や肉にはそれなりの耐性は出来ていたが、人の死体を見るのは初めてだ。
ましてやこうやって食い荒らされたものとなると、いくら解体で死骸に慣れているとはいえ、精神的にはかなりくるものがある。
しかし、まずいことになった。
彼女をこんな風にした連中が、まだ近くにいるらしい。
駆けつけて来た俺を警戒して茂みや木陰に隠れたみたいだが、どうやら俺も獲物認定されたみたいだ。
茂みの中から、灰色の体毛に覆われた大型の狼が一匹、また一匹と現れる。
「くそっ……グレイウルフか」
単体討伐難度Eランク。
ただし、5匹以上の群れになるとその難度はDランクに上がる。
茂みから姿を表したのは3匹。
俺の正面と左右に展開し、囲むように陣取っている。
しかし、俺の<気配察知>には全部で8匹引っかかっている。
そのすべてがいま俺を狙ってるみたいだ。
「……後で助けてやるからな」
女性の死体に声をかける。
後でってのも変な話だが。
「さて……ただでは死んでやらねぇよ?」
収納庫から槍を取り寄せ、構える。
1匹でもいいから道連れにしてやる。
<気配察知>を全開にし、腰を落とす。
正面の奴がジリジリと間合いを詰めていたが、右側にいた奴が突然飛びかかってきた。
そちらに向けてとっさに槍を繰り出すと同時に、正面と左側にいた2匹が飛びかかってくる。
さらに茂みに隠れていた連中も一気に飛び出してきた。
<気配察知>のおかげで上手くタイミングが合ったのか、槍の穂先は飛びかかってきた敵の喉を貫いた。
《レベルアップ》
まぁ防御無視して攻撃に集中したらこれぐらいはなんとかなるか。
おかげで飛びかかってきた他の2匹には食いつかれたけどな。
1匹は左足の太ももに、もう1匹は喉を狙ってきてたが、これはとっさに肘を上げて防いだおかげで、ちょうど下腕を噛みつかれる形にとどめることが出来た。
「いってぇなチクショウ!!」
俺は槍を離し、左腕に噛み付いている奴に『魔弾もどき』を放つ。
痛みとちょっとしたパニックのせいで威力の調整が出来ず、頭は爆散した。
顔に返り血やら肉片やらが飛び散ってきたけど、気にしてる余裕なんて無い。
続けて左足に噛み付いている狼の頭をふっとばす。
《レベルアップ》
仲間の頭がふっとばされる光景にビビったのか、こっちに向かっていた連中が動きを止める。
「死ねオラァ!!」
止まったんなら容赦はしない。
狙いをつけて『魔弾もどき』を放つ。
さらに2匹を仕留めた辺りで、動きを見切られたのか、3匹目、都合5匹目に狙った奴は『魔弾もどき』をかわし、そのまま突っ込んできた。
さすがにここまで連続で魔法を使ったら魔力酔いは避けられない。
そいつは跳びかかった勢いでそのまま喉を噛み切って逃げようと思ってたんだろう。
しかし、なんとなく予想していた俺は喉を噛まれた瞬間にそいつを抱きかかえた。
逃れようとジタバタしているが、もう遅い。
抱きかかえたままの状態で、両手から魔力を放出すると、灰色の狼は血を吐いて死んだ。
そこで、俺の意識も途絶えた。
《レベルアップ》
**********
ジャイアントラビット狩ってたからそろそろレベルアップも近いと思ってたが、3も上がるとはな。
とりあえずステータスを確認したが、結構能力値も上がってるわ。
次はもうちょっとマシな戦いができるとは思うけど、今からどこに行けばいいだろうか?
彼女が死ぬのは1時間ぐらいあとだが、シェリジュの森まで直行しても30分ぐらいはかかるから、猶予は実質30分ぐらいか。
とりあえず森に向かおう。
**********
前回入ったのと同じ場所から森に入り、グレイウルフの生息地を目指す。
しかしあの人なんでこんなとこに1人で来てたんだ?
もしかしてパーティー組んでたけど他の人もやられた、とかなんだろうか?
周りを警戒しながら森の中を進む。
(あれ? 俺はどこをどう進んだんだっけ?)
前回は声の聞こえる方を目指したひたすら走ったので、どういう経路をとったのかが全く覚えていない。
なんとなく前回女性の遺体を発見したところを目指してはいたのだが、全く見覚えのない景色ばかりだ。
というか、仮に同じ場所にたどり着いても気付かないんじゃないだろうか?
うーむ、そろそろ時間的にヤバいんだが……。
「イヤァァ!!」
む?
「キャァァ! 誰かぁ!!」
やっぱそうだ!
前よりもちょっと近いぞ!!
**********
声を頼りに駆けつけると、ちょうど1人の女性が走っているのが見えた。
後ろからグレイウルフの群れが追いかけている。
後ろに向けておそらく魔術を放っているようで、一応牽制にはなっているが、仕留めるには至っていない。
しかも、目に見えて追いかけている個体だけでなく、隠れた位置にいる者も含めるとすでに包囲網は完成しつつあるようだった。
(くそっ! このまま全力疾走で向かっても間に合わない!!)
ならヤケクソで魔力玉を広範囲にぶっ放してみることにした。
「喰らえクソ狼ども!!」
<気配察知>である程度相手の位置を補足し、出来るだけ漏らさないように魔力をぶつける。
放射状に放たれた魔力が木々をなぎ倒しながらも、グレイウルフの群れを襲う。
《レベルアップ》
《スキル習得》
<酔い耐性>
《スキルレベルアップ》
<無魔法>
<気絶耐性>
かなりの数を倒せたが、それでも木々の影に隠れてやり過ごしたものもいるようだ。
(MP切れ……!)
全力で魔力をぶっ放したもんだから、MPを一気に使い果たし、その場に膝をつく。
頭はクラクラするが、意識を失うことはなさそうだ。
どうやら<気絶耐性>が効いてるらしい。
とはいえ、まともに動ける状態じゃない……。
女性の姿が見えない……、なんとか逃げ延びただろうか?
一応巻き込まないように注意はしたんだが。
「グルルル……」
生き残ったグレイウルフが、牙をむき出してこちらに近づいてくる。
クソッ!! 事前に槍を出しときゃよかったぜ。
もうMPが無いので『収納』も使えないや。
まぁ槍があっても今の状態じゃまともに戦えないだろうけどさ。
……結局俺はなすすべなくなぶり殺された。
こんなことなら気絶したほうが楽だったぜ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます