第72話ぶっちゃけトーク

 熊本から横浜へ、震災から避難してきた祖母がである。






 どうもわたくしと二人きりになると、邪悪な面を見せるんで一部を公開する。





 祖母のことは両親からいろいろ聞いていた。小学生のころからだ。妹からも聞いてきた。





 部活動であまり家にいなかったわたくしは、純粋に祖母を家のお手伝いさんとして尊敬していたのである。





 だから、正直父や母や妹たちが彼女を誹謗するのはいただけないと思ってきたし、ハッキリ言って、板挟みだった。





 だが、そんなわたくしを祖母は攻撃してくる。





 食器を運んでいるときに、キッチンの電気を消せとか、それくらいはこなせるから良いけれど、


 わたくしが、同じことを言うと、切れるのである。





「まだあそこには用があるけん!」


 と、激しく反論して、わたくしの私物であるスタンドライトの灯りをつける。わたくしのお小遣いで買ったものを使いたいというから、貸しているのだが、返してはくれない。





 呆れていると、


「あた(あんた)はちっちゃい! ちっちゃいちっちゃい!! ちっちゃか!!!」と暴言。


 分析するとこれは下げマンの言動だ。祖父が比較的若死にしたのもそのせいだろう。





 最近電子ジャーの使い方を憶えたからと言って威張る。どちらがちっちゃいんだ。母は土鍋で炊きこみご飯を作れるぞ?





 わたくしは祖母にいってやりたい。





 父も母も祖母にはいい印象を抱いていないよと。


 そして、影で攻撃してくるのを母に包み隠さず伝えたら、祖母はわけのわからないいちゃもんをつけてくるではないか。しかも必死。





 普通、避難先で世話になっているうちの子供に、悪口言うかね?








 わたくしは、祖母が非常用の備蓄を食べて仕舞えというので、理論立てて言った。





「おばあちゃん、それは非常用の冷凍ごはん(わたくしが我が家に導入した)。今それを食べたら、電子ジャーに残ったごはんを、冷凍せねばならず、電気の無駄になる。なぜなら、熱をもったものを冷蔵庫に入れると熱を冷やすために、電気量をくうから」





 すると祖母は「あたは(あんたは)米を炊かんからよかけども」


 と意味不明。わたくしの言ってることをみじんも理解しない。電子ジャーのみならず、わたくしは鍋でもご飯が炊けるんで、彼女の言ってることはあたらない。





 ああ、そういえば……と昔父の言っていたことを思い出す。


『おばーちゃんは、働かないから頭が悪い』と、非常に残念そうに言っていた。


 専業主婦だった祖母は働いて疲れて帰ってくる父のことを軽んじていた。それが父の不満だったのだろう。あるいはわたくしのように、なにか下げマンならではの罵りを受けたのかもしれない。





 母は「おばあちゃんはプライドが高い」と珍しくもらしていた。どうも、過去に彼女が美人だったのを褒めたのがいけなかったもよう。未だに美人のつもりでいる。92歳なのに。





 妹は正面切って祖母に殴られていた。まだ引きずっているらしく、彼女の誕生日パーティーのとき、祖母から三メートルも離れて席についていた。はっきり言ってDV祖母である。


 もう一人の妹は、祖母に「頭が良い」と言われていたが、よくひ孫の言動をチェックしてみれば、彼女が子供たちに祖母のことをどう言っているか、わかるというものだ。





 それに、大変悲しいことに、祖母はひ孫がニコニコして近づくとふん、と横を向いて「どこがかわいいのかわからないとたい」というつんけんした態度をとる。





 祖母よ、とっとと熊本に還ってください。お願いいたします。


 そして二度と我が家にこないで。







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