第2話 神王院姫耶の相談

終業のチャイムが鳴る。部活動に向かう生徒や帰宅の準備をする生徒、教室の中でたわいもない会話を始める生徒たちで一時的に教室が賑わう。

 前の席の比空が振り返った。

「よし、行こう」

 気合いを入れるように言って、比空は立ち上がる。瞳はいつものように輝きを帯びていた。そんなに放課後が待ち遠しかったのか。

 奥苗は前を歩く比空の背を追いかける。

 廊下にある窓の多くが風を取り入れようと開いていた。そこから夏特有のじめじめした空気が漂ってくる。気が早い蝉は早くも鳴き始めていた。

「暑いな」

 奥苗は自然にそう漏らした。長袖のワイシャツを腕まくりする。

「こう暑いと、気合いも入るよね」

 振り返らずに比空は大股で歩く。

「アイスでも食いてーな」

「じゃあ帰りに寄る?」

 比空がくるりと振り返り、そのまま後ろ向きに歩く。

「それは終わってからって意味だよな?」

「当然」

 比空は楽しそうに笑う。どこに楽しむ要素があるのかわからない。このまま学校を出て、コンビニやファミレスに寄って帰るほうがよっぽど有意義な時間を過ごせるはずだ。

 比空はまた前に向き直って足を進める。階段を下り、一階の一番隅に忘れられたようにある扉の前で立ち止まった。

 放課後の喧噪から切り離されたような静かな場所。

 相談部の部室。

「さて、今日も一日頑張ろう」

 扉に掛けられたプレートが裏返って、休止中の文字が相談受付中に変わる。

 奥苗は恨みのこもった目で相談受付中の文字を見据えた。こんなプレートがあるから、何でもかんでも他人任せにする相談者がくるんだ。プレートを反転させて休止中に戻す。

「なにやってんの」

 比空は眉根を寄せてもう一度プレートを相談中に裏返す。

「たまにはいいだろ」

「よくないよ」

 扉が軋みながら開く。奥苗は大げさにため息をついた。

 以前は委員会の集まりなどでたまに使われていた部屋。今は相談部の部室として使わせてもらっている。空き部屋をそのまま放置しておくよりは、誰かに使ってもらった方がいいのだとかなんとか。

 部屋にはクーラーがないので、比空はまず始めに窓を開けた。淀んでいた空気がわずかに流れるのを感じる。

 古い部屋特有の湿り気のある臭いが鼻をくすぐった。

 比空は中央に陣取っているソファーに腰掛ける。奥苗はテーブルを挟んだソファーに腰を下ろした。

「そこは相談しに来た人の席だよ」

 比空の鋭い視線が飛んでくる。

「滅多に来ないだろ」

 奥苗はそっぽを向いて古い本棚に取り残されたように並べられている書籍を眺めた。

「そういう問題じゃないでしょ。もー、さっきっから邪魔ばっかりしてない?」

 無視してそのまま座っていようと思ったが、比空の視線に耐えられなくなりしょうがなく奥苗は比空の隣に移動した。

 塩素の香りがする。六限にあったプールの授業の名残だ。視線を横にずらして比空を見る。わずかに濡れている髪が注ぐ陽光に照らされて輝いていた。

 奥苗は身じろぎする。

 いつもと違う比空の雰囲気に感情が揺れ動く。

 自分の動揺が表に出ないように注意する。

 静寂が続くと緊張も増加しそうだったので、奥苗は口を開いた。

「あんまり人が来なくて残念か?」

「人が来ないというのは必ずしもマイナスじゃないけどね」比空は体をソファーに沈める。「悩み事がないのはいいこと。誰にも悩みや相談したいことがなくて、それでここに人が現れないというのは嬉しいこと。だけど、もし誰にも相談できない悩みがあるのに、ここを訪れてないとするなら、その人は一人で悩みを抱えてることになっちゃうね」

「見ず知らずの他人に相談するってのもなかなか難しいだろ」

「まだ知り合っていない者同士だからこそできる会話っていうのもあるはずだよ、きっと」

 比空は体勢を変えた。わずかに奥苗との距離が詰まる。自分の心音がソファーを介して伝わっていないか不安になった。

「この匂い。なんだかいいよね」比空は目を閉じている。

「塩素の匂いか?」

「ううん。ソファーの。なんかちょっと古い感じが好き」

 比空は寝返りを打つように体の向きを変えて奥苗の方を向く。

 なんだか息が苦しかった。喉の渇きを覚えたので飲み物を買ってこようと立ち上がろうとしたとき、相談部の扉が優しく叩かれた。

 久しぶりの来訪者の合図。

 比空は瞬時に姿勢を正す。奥苗は一度比空に確認のために視線を送ったあと、立ち上がって扉を開けた。

 制服を模範的に着ている少女が背筋を伸ばして立っている。

「突然失礼します。こちらが相談部でよろしかったですか?」

 頭を下げた少女は遠慮がちに訊ねた。

「ああ、そうだよ」

 見知った顔だった。緩めのウェーブがかかった腰まで伸びる髪は少し色が抜けている。肌も夏なのに日焼けを知らないかのような白さなので、きっと色素が薄いのだろう。

 計算し尽くして配置されたような整った顔立ちをした少女は、大きな瞳で奥苗を見据えている。その佇まいから少女の持つ気品さや上品さが感じられた。

「どうぞー」比空の間延びした声。

 少女はぺこりと頭をもう一度頭を下げたあと、部屋の中に入った。

 神王院姫耶。相談に来たのは同じクラスの女子生徒だ。

「じゃあ、なんか冷たい飲みもんでも買ってくるわ」

 奥苗の申し出に神王院は小さく首を振る。

「いえ、そんな、大丈夫ですから」

「おもてなしの気持ちだからそんなにかしこまらないで」比空は神王院にソファーに座るように促す。「それじゃあ、わたしはいつもので」

「イチゴミルクだな。神王院は?」

「えーと」神王院はまだ遠慮するような素振りを何度か見せたが、そこまで意固地になるのも変だと感じたのか、「じゃあ、緑茶でお願いします」と頭を下げた。

「了解」

 奥苗は鞄から財布を取り出して部屋から出た。自販機のあるところまで歩きながら考える。久しぶりの相談者だ。相談部を設立して二ヶ月が経過したが、今まであった相談といえば、好きな人に告白する方法やら、テストの勉強法だとか、言葉は悪いがそれほど大きなものではなかった。

 紙パックの自販機に小銭を入れる。今度も今までと同じような相談だといいのだが。イチゴミルクが放出される。あまり大きな相談、面倒な悩み事は持ち込んで欲しくなかった。緑茶が放出される。自分でも理由はわからないが、比空が他人のために大きな荷を負うようなことになるのは嫌だった。

「はあ、神王院には悪いけど、めんどくせーな」

 まだ相談内容も知らないのにため息が出る。部室に寄らずにそのまま強引にでも帰っておけばよかったと少し後悔した。最後に出てきたバナナジュースを手にとって相談部へ戻る。

「待ってたよ」比空が戻った奥苗に告げる。

「おれを待つ必要なんかないだろ」奥苗は比空の隣に座って飲み物を配った。

「わたしもそう思ったんだけどね」比空は目で神王院を示す。

「いえ、それはできません。奥苗さんに飲み物を買いに行かせて私が勝手に話し始めるなんて」

 奥苗と比空は顔を見合わせる。律儀な人なんだな。

 比空はイチゴミルクを一口飲んだ後、始まりを知らせるように咳払いした。

「それで、どんな相談事なの? わたしたちにできることならなんだってするよ」

 奥苗は神王院を見る。どうでもいい相談であることを願って。

 神王院は背筋を伸ばし、真っ直ぐに比空を見据えて話し始めた。

「はい。実は今日のプールの授業でのことなんです。授業が終わって更衣室に戻ったときに妙なことが起こっていたんです」

「なにがあったの?」

「私の更衣室のロッカーに私の物ではない物が入っていたんです」

 と、神王院は鞄の中から丁寧に折りたたまれた物を取り出した。奥苗は目を見開く。それは普段男性が見慣れない物であり、無理に見ようとしたら確実に捕まってしまうであろう物だった。

 比空は差し出された物を広げる。

「これが、ロッカーの中に?」

 神王院は首肯した。

 比空はまじまじと自分の手の中にある物を見つめる。

 奥苗は目を逸らして、できるだけ平静を装った。いや、目を逸らした時点で動揺したのは気づかれたかもしれない。でも、そのまま見続けるという行為はできなかった。

「それを入れられた方を探して欲しいんです」

 比空は手に持った物と神王院を交互に見る。その顔は困惑の色をみせていた。

「これを、ねえ」

 神王院姫耶が鞄の中から取りだしたのは、下着だった。それも下腹部を隠すための代物で、かつ高校生が履くのかどうかは知らないが、少なくとも奥苗は学生が履くようなものではないと考えている紫のガーターベルトだった。

 自分の頬が熱を持ち始めていることを自覚する。

「えっと……そういう相談ならおれは外に出るぞ」奥苗は腰を浮かせる。

 比空はどうぞと言うように手をひらひらと上下に振った。

「えっ? でも」神王院の声が奥苗の動きをとめる。「できれば男性の方の意見もお訊きしたいんです」

「いや、そういうわけには……」

 言葉を濁しながら比空の顔を窺う。

「相談に来た神王院さんが居て欲しいって言うんなら、話を聞くべきだよ」

 浮かせた腰をそのまま下ろした。居心地が悪い。奥苗はできるだけ身体を小さくして、この話に自分は関わっていないアピールをすることにした。いったい誰にアピールをしているのかは自分でも不明だが。

「男性の方はこういうのを女性のロッカーに入れたりしますか?」

 話を振って欲しくなかったのに、神王院は容赦なく奥苗に質問をぶつける。

 奥苗は比空を見た。比空は顎を動かして答えるように促す。

「えっと、そうだな」考える間を置いてから、考える必要もない問いだったことに気づき、慌てて返答した。「入れない。そういうのは普通の男は入れない」

「そうですか」

「この下着は神王院さんのではないんだよね?」比空が話しに割って入る。

「はい。違います」

「誰かが自分の下着と間違えて入れたとか? ああ、でもそうならきっと慌てた子とかがいたはずだよね。そんな子はいなかったし」

 比空は自分の疑問を自分の記憶と照らし合わせて解消させたようだ。

 比空望実と神王院姫耶は同じクラスだから、必然的に神王院が着替えていたとき比空もその場にいたことになる。

「そもそも神王院さんがそんなことになってたなんて気づかなかったよ」

「騒ぎ立てるのも迷惑になってしまうと思ったので」

「そっか。つまり、持ち主に返すのが今回の相談ってことになるよね?」

「そうです」

 下着を入れた持ち主を探すのか。奥苗は自分なりに推論してみた。誰かが自分のと間違えて神王院のロッカーに下着を入れた可能性もあるし、誰かが神王院への贈り物として入れた可能性もある。もしくは全く別の理由というのも考えられる。

「あっ」奥苗は唐突に一つのことを思い出した。

 視線を横に向ける。比空は複雑な顔をしていた。嬉しいような恥ずかしいようなそんな表情。奥苗はその表情の理由を理解していた。

 ガーターベルトに心を乱されていたが、これは下着だ。下着の持ち主を探す依頼だ。そして下着が入れられたのは今日。つまりは比空の能力の有効範囲内だということだ。

 どんな表情をすればいいのかわからなかった。

 比空望実は不思議な力を持っている。それは何が原因で、どういう原理で起こっているのかは全くの不明だが、おおよそ日常では役に立たないであろう力。超能力と呼ぶべき力が比空にはある。

 その力をつかえば、誰が入れたのかなんていう情報はすぐに得られるはずだ。

 比空はじっとガーターベルトを見る。

「まさか、わたしの能力がこんなところで役に立つとは思わなかった」

 神王院は不思議そうな顔をする。

「能力、ですか?」

「うん。わたし、変な力があるの」

 比空はガーターベルトを持ち上げる。

「自分でもよくわからない力なんだけどね。でも今回はきっと神王院さんの役に立てると思う」

 そして比空は手で広げたガーターベルトの中に自分の頭を差し込んだ。

 空気が固まる。

 それまで流れていた時間という概念が消失したかのように空間が変質する。

 異様な光景だった。

 想像することですら難しい状況。

 女子高生がガーターベルトを被っているという錯乱じみた姿が現実として目の前で展開していた。

 神王院は目を白黒させる。

 奥苗は唾を飲んだ。

 比空は目をつぶる。頬が徐々に赤くなっていく。眉が痙攣するようにぴくぴくと動く。淡いピンク色の唇からか細い吐息が漏れる。

「あっ」比空の身体が一瞬びくりと跳ねた。

 乱れた息が続く。

 その光景を奥苗と神王院は黙って見ていた。

 比空望実の能力。それは、下着を被った時に、そのパンツに三日の間、正確に言えば七十二時間以内に触れた人物がわかるというものだった。聞くところによると、触った人間の顔と名前がわかるらしい。何とも奇妙な能力で、いったい何に役立つのだろうと思っていたのだが、まさかこんな形で見ることになるとは予測していなかった。

 長い時間が経過したように思える。一度も呼吸をせずにこの時間を過ごしていたのではないかと錯覚するような気分だった。

「大丈夫か?」

 そっと声をかける。

 比空は自分の頭に被さっているパンツを丁寧に取った。乱れた髪を手櫛で整え、大きく深呼吸する。呼吸が徐々に落ち着いていった。

「神王院さん」比空は残念そうに告げる。「もしかして、このパンツ洗っちゃった?」

 奇妙な間を置いて神王院から答えが返ってくる。

「はい。一応は借りた物になってしまうと思い、少し手洗いをさせていただきました」

「ああ」奥苗は思わず落胆の色が宿る息を漏らしてしまった。すぐさま比空の鋭い視線が飛んでくる。他人の感情を害するであろう行為が比空は嫌いだった。

 比空は神王院に向き直ると、

「ごめん」

 と、頭を下げた。

「なにが、でしょうか? 誰が持ち主だったかわかったんですか?」

「ううん。わからなかったの。実はね、わたしの力にはちょっとした制限があって」

 そう三日以内という条件ともう一つ比空の能力の妨げになるものがあった。

「パンツ、洗ってあるとそれ以前に触った人がわからなくなるの。えっと、そもそもわたしの力っていうのがパンツが所有している三日以内に触られた記憶というものを読み取れるってもんなんだけど、洗っちゃうとそれがリセットされちゃうの」

 神王院は考えるように瞳を動かす。

 律儀すぎた神王院の行動が比空の能力を阻んでしまった。

「つまり、どなたが私のロッカーに入れたのかはわからないということですよね?」

「うん。そういうことになる」

「……そうですか」神王院は残念そうに目を伏せる。

「時間がかかっちゃうんだけど、地道に聞き込みしてみる」

 奥苗は下がったままの比空の頭を見やる。聞き込み。その方法が無謀であることを奥苗は悟っていた。

 プールの授業が行われるのは全クラス同じで六時間目である。この学校の時間割は特殊で、通常は全ての日にちが五限で終わりだが、プールの授業がある日だけ、そのクラス限定で六限目という時間帯が現れる。たしか理由は、プールの授業なんて半分遊びだと校長が言って、他の教科の学習に影響が出ないために六限目にしたとか、ただ単にその六限目、つまり午後二時前後の時間が一番暑いからプールに適してるとかなんとか。正確なところはよくわからない。

 要は今日の場合、奥苗たちのクラスである二年三組は六限目があったが、他のクラスには六限目がなかった。だから必然的に女子更衣室に入れる生徒は大勢いて、聞き込みをするなら大作業になる。

「ああ、いいんですよ」

 神王院は顔の前で両手を振った。

「そんなに大事にはしたくないんです。だって私のロッカーの中にこんな物を入れた人はそれなりの理由があったと思うんです。それを大勢の人に知られるのは失礼だと思いますので」

「それは、そうかもしれないけど」

 比空の声には申し訳なさと納得できないという感情が混ざっているみたいだった。

「ありがとうございます。相談に乗って頂けただけでも嬉しかったです」

 顔を上げる比空。悔しそうにガーターベルトを神王院に返す。

「ごめんね。人に知られないように探してみる」

「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね」

 神王院はガーターベルトを仕舞い立ち上がった。

「奥苗さんすいません」

 何に対しての謝罪か分からなくて返答に困る。

「緑茶です」

 どうやら飲めなかったことに対しての謝りのようだ。

 神王院は緑茶の紙パックを取って、テーブルについた水滴をハンカチで拭った。

「あっ、そんなこと」しなくていい、と奥苗が言い切る前に神王院の言葉が被さる。

「いえ、大丈夫です」神王院は微笑んだ。「緑茶は頂いていきますね」

 神王院姫耶は言って深々とお辞儀をしたあと思い出したように付け加えた。

「あっ、緑茶代。いくらでしたか?」

「気にしなくていい。飲み物代は部活の中の必要経費として計算されてるらしいからな」

 相談者が来た際に飲み物を渡すと決めた時、比空から経費だよと言われたことを思い出す。

 奥苗は比空を見る。比空はなぜか顔を逸らした。そういえば、未だに一度も飲み物代を返されたことがないが、いつ戻ってくるのだろうか。学期末なのか。

「そうですか。ありがとうございます」

 神王院はもう一度頭を下げたあと部屋から出て行った。

 再び二人になった部室。

 比空は打ちのめされたボクサーのように項垂れた。

「わたしって、役立たず」

「十分やってただろ」

「笑いしか取れない宴会芸みたいな能力がやっと人の役に立てると思ったのに」

 本気で落ち込んでいた。気持ちが挫けているのが手に取るようにわかる。

「わたしが人の役に立つだなんておこがましかったのかな……ありがた迷惑。親切の押し売り。それが、わたし」

 奥苗は長い息を吐き出した。

 窓から入る太陽の光が夕刻を伝える。

「比空は頑張ったよ」

 奥苗は断言した。

「わたしが欲しいのは結果だよ」

 前は努力することが大切だと言っていたのに、ころころと意見が変わるやつだ。

 比空はソファーに俯せに寝転がる。

 比空の落胆をよそに奥苗は安堵を覚えていた。結局はそこまで大事にならない相談事でよかった。この放課後の時間だけで終わったし、苦労も手間も少なかった。比空が聞き込みを始めるとしても、すぐにその無意味さに気づいて諦めるだろう。比空には悪いが、これでよかったんだ。親しい友人でもないのに、比空が全力をかけて悩みを解決させる必要なんてどこにもない。

 奥苗は残ったバナナジュースを飲み干した。

「よしっ、それじゃあ当初の予定通りアイスでも食って帰るか」

 比空はむくりと起き上がる。顔をしかめているが切り替えようと努力しているみたいだった。

「賛成。今は無性にイチゴアイスが食べたい」

「それじゃあ行こうぜ」

 部室をあとにする。相談受付中の文字が裏返って休止中になる。

 奥苗はこの時気づかなかった。気づけなかった。すぐそこまで大きな事件が迫っていることに。比空がその事件で深く傷つけられることになることに。

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