第19話 セイヴァーのフルスピード

「起きろ! 朝飯食えー!」

 部屋に桜田さんが起こしに来る。朝早っ! って寝たのも早いけど。



 朝ご飯の席に着くと南が横に来た。

「おはよう!」

「おはよう」

 元気そうだな。南。今日は決戦だ。みんなどこか緊張してる。

 桜田さんが来た。

「おはよう! 今日なんだがマウスの襲撃がないとこのまま待機となる。いつまで続くかわからん。あんまり緊張してたら持たんぞ!」

 そうなんだ。マウスの襲撃は予想不能。ここのところ毎日ずっと続いてるから予定は今日となってるが、それもマウス襲撃があってからはじめて決行となる。

「さあ、食べよう!」

「ああ」

 南の元気も自分を保つ為かもな。



 さて、マウスはいつ来る?


 朝は機体に乗って陣形を整えるいわゆるフォーメーションを組み直しいろんな場所、敵の状態に合わせて飛行を変える訓練。

 桜田さんはもう全員の名前と場所、そしてセイヴァーを頭に入れてる。恐ろしい人だ。さすが隊長になっただけのことはある。



 昼ご飯。はあ、陣形を組むだけの訓練はやはり退屈である。ん? 南なんで睨んでる? と俺が座った席、両隣も前もすべて埋まってる。

 わかったから睨むなって。だいたいなんで広いのにそんなに詰めて座ってる んだよ。お盆を持ち立ち上がり南の方へ行く。

「あ、ごめん。目で訴えてた?」

 ああ、めちゃくちゃ。

「いや、知らない人と食べるのはね」

「そうなの。私も東出君しか知らないから」

 え? いやうちの学生いたような。まあ違う学年の男子だからな。あいつは後から来たのかな? ここに来る時は南と二人だったし。

「午後は何するのかな?」

「訓練所じゃないか? もうすることないし」

「マウス待ちって辛いね」

「ああ」

 日常生活と戦闘の意味がわかってくる。やってられない、訓練ばかり! これが軍か。



 桜田さんが入って来た。この人ご飯食べてるのか?

「今からこの施設の訓練所で訓練を行う。みんな着替えて集合だ」

 ほらね、って顔で南をみる。南は笑いをこらえてる。ちなみに着替えなどは家族が届けてくれてる。

 なので今は私服なんで、南の雰囲気も変わって見える。まあ、軍の施設にいるから普段着てるものとは違うんだろうけど。



 ピリッ

 ん? 放送?



 ウー。ウー。


 来た。警報だ!



『NTー14区域にマウスの襲来。東京都全地域に応援要請。正規軍では足りません。戦闘員も一部隊を作成し向かってください。他の県からも応援要請しています。正規部隊すべて到着後ただちに取り囲みマウスの殲滅してください。今回は一個のマウスの熱も観測しています。司令部の命令あり次第、マウスから離れてください』


 東京全区域の部隊で固めて他の県からもっていったいどれだけのマウスなんだ? しかも正規じゃない戦闘員に部隊全部作らせるって。



 桜田さんがざわめく中を大声で言う。

「マウスの襲撃だ。こちらの事はこっちにいる戦友に任せて俺たちには行くべき場所がある。後ろ髪引かれるだろうが、出動だ」

「はい」

 みんな立ち上がる。

 本当の俺たちの戦いはこれからだ。




 それぞれ戦闘服を着てヘルメットをかぶり戦闘機に乗り込む。南が見えた。手を挙げる。南も挙げ返す。

 上空で待機して、全ての機体が上昇するのを待ちながら陣形を整える。朝練習したばかりだ。即席部隊だけどやるしかない。

 無線が入る。

『全員配置に着いた。行き先はマウスの巣。目的地はゴビ砂漠。途中、中国でエネルギー補給を行う。時間が勝負だ。全速力だせ』

『了解!』


 ゴビ砂漠だったんだ。そう言えば誰もどこか聞いていなかった。写真や映像が不鮮明だったり砂ばかりだったのはそのせいか。

 ところでこの機体いったいどこまでスピード出るんだ? フルスピードなど出したことないから知らない。必要な速度でしか使っていないから。ゴビ砂漠までどれくらいで着くんだ?


 全速力出せと言われたがとても出せない。中国の基地についたのは半分ぐらいが到着してる時だった。こいつら平気なのかよ。先に着いた連中は談笑してる。俺はヘトヘトだよ。陣形整える意味あった? 早いもの順になってたし。フルスピード出した瞬間に。

 エネルギー補給をしてもらってる間、用意された軽食をつまみ、飲み物を飲む。なんとかあのスピードに耐えてマウスの巣に行かないと。体を整えさっきのスピードより出さないとと焦る。その間も続々と到着しているが、ハッチを開けた顔はげっそりしている。だんだんげっそり度が増してくる。

 南が着いたので、南の機体に走り寄る。コックピットを開けた南が顔を出すが、顔色が悪い。南に手を差し出す。さっきから着いた者はフラフラになってたからだ。

「ごめん。ありがとう。アレすごいね」

「うん。気分悪くなったし、おいて行かれるから焦るし、参ったよ。そこに飲み物あるから少し休みな。まだエネルギー補給に時間かかるし、全員到着してないしね」

「アレの後に戦闘って辛いね」

「うん。って、そこまで想像してなかったよ」

 南の顔色が戻ってきた。そうだ次は休む間もなく戦闘だ。こんな状態でやれるんだろうか。


「よし! 最初に到着した隊員から順次出発だ。一旦この地点で集合する。待っているがあまりに遅い場合はそのまま出撃するので、ついてきてくれ!」

 最後は嘆願に近い桜田隊長の言葉だった。地図に指し示された座標を覚え、俺も乗り込む。少しでも早くつかなければ。

 みんな思いは同じだった次々と離陸していく。今度こそはと皆が思っているんだろう。



「東出到着しました」

 到着地点で陣形に入りながら無線で告げる。

 なんとかさっきより慣れたようで最初の方に入り込めた。これで休む時間が稼げる。もうマウスの襲撃は終わっているのだろうが、連絡が来ない。きっと俺たちの気が散るのを防ぐ為だろう。と、思いたい。中国は機能していた。日本が機能しなくなるほど打撃は受けていないはず……なんだけど。

 何人も到着を告げ陣形に入って来るが南は来ない。さっきもだいぶ気分が悪そうだった。間に合うんだろうか?

 そこに無線。

『南、到着しました』

 ほうっと息をつく。南も間に合った。あと何人だろうか?

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