第16話 捨て鉢な俺

 教室に帰り授業の用意をする。非戦闘員も放送は聞いている。精鋭部隊として行っても、行かなくても、そして非戦闘員で地下にいてもどこにいても危険がある。もう安全な場所などない気がする。なのに進む授業。静まり返る教室。

 みんな考えている。どうすべきか。これからどうなるのかを。


 マウスが何のために攻めてくるのか? なぜこんな戦いを百五十年以上も続けているんだ?

 マウスの最初の襲撃は世界中の都市にやって来た。数は一機。今聞くと考えられない数だ。だが当時の武器では撃ち落せなかった。そのうちに開発が進み何とか撃ち落とす事に成功し、撃ち落としたマウスを解体してより早く撃ち落とせるように武器が開発された。そうなんだ。それまで撃ち落とされる前、マウスは街の一つを破壊し尽くして帰って行ってたんだ。今では絶対に帰らない。撃ち落とされて動けなくなるまで破壊をし続けるのに。なのに、マウスの性能は以前と全く変わっていない。……今日自爆をするまでは。もしかしたら昨日も自爆したのかもしれないあの爆風に紛れて。

 あんな数のマウスを用意できるならはじめからの全機で攻めて来れば、あっという間に人類は全滅していただろう。いったい何が目的なんだ。マウスじゃない、それを作っている人? 宇宙人? 誰なんだ!

 考えれば考えるほど答えのない迷宮に入りこんで行くようだ。


 ああ、もう! 自分の目で確かめたい。マウス巣! 行ってやる。クソっ!

 今は物理の時間だ。俺は手を挙げる。

「ん? なんだ? 東出?」

「精鋭部隊志願します」

「あ、ああ。そうか。わかった。だが、なにも授業中にしな……」

「はい」

 え? この声。振り向くと南、手を挙げてる南の姿がある。

「南もか?」

「はい。精鋭部隊に志願します」

「ああ、じゃあ。報告しとく。能力によって採用か決められるからそのつもりで」

「はい」

「はい」

 南と俺は返事した。

「こら! 正規戦闘員に怪我人は入ってない。持田は却下だ」

 どうやら健太郎、静かに手を挙げてたらしい。動かせる方の手を。



「お前馬鹿だろ? 明日だぞ? 全治一ヶ月の人間が行けるわけないだろ」

 休み時間だ。健太郎のところに行って、出てきた俺の第一声がこれである。

「だってよー。お前ら見てたら行きたくなって」

「旅行じゃないんだぞ! だいたい行きたがっても行けるかどうか」

 今までの査定とか時々行われるテストなどから決められるのだろう。俺の査定や点数は全くわからない。

「お前優秀じゃないか。俺なんか鍛えに鍛えてるのに……」

「鍛えるとこが違ってるって! 筋肉はある程度あればいい、あとは技術だろ?」

 本当に筋肉バカは。

「でも、お前が挙げたら南も……」

 ここでガバッと健太郎も口を塞ぐ。こいつ声デカイ。

「とにかく決まるまではまだそうじゃないんだから」



 決まる時は来た。五限の先生が来た時に戦闘機セイヴァーに乗って本部まで行くように言われた。南もだ。


「決まったのかな?」

 緊張の面持ちで南が聞いてくる。

「どうだろう? でも却下ならわざわざセイヴァーで本部まで来させないよな? テストとかあるのかも?」

「そう、だよね」

「南、何で決めたんだ?」

「え? ああ、何か見て見たくて」

 ちょっと笑みが出てきてる。南、余裕あるなあ。

「東出君は?」

「なんでこんな戦いをしてるのか知りたくって!」

「怒ってるね」

「怒るだろ?」

「うん。そうだよね」

 今度は南は真剣な目になる。今までの被害を思い描いているんだろう。




 戦闘服にヘルメット、そして戦闘機セイヴァー二機で本部へと向かう。襲撃時以外にもテストや訓練などで乗るがフリーで乗るなんて変な気分だ。しかも、南と二人だけで。

 南の見てみたいという感想。なるほど見てみたいな。いったい俺らを苦しめていたものがなんだったのかを。まあ、行って帰ってこれたらだけど。俺はもしかした通常の生活と戦闘という毎日が気に入っていたんだろう。それが壊された。ずっと戦闘という生活にもうすでに嫌気がさしてるのかも。だから命の保証の薄い精鋭部隊に志願したのかもしれない。なにがやってたかぐらいは見て死ねたらいいのかもって、ちょっと捨て鉢なのかもしれない。

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