第8話 沈没

『では、始めましょう』


 青山先生の声で戦闘開始だ。丁寧な開戦宣言だったけど、内容は戦慄だった。落としても落としても次のマウスが目の前にいる。そして、隣にいるセイヴァーとの間をぬって通り抜けるマウスも現れた。今まで通りじゃない。だけど、言われた通りそれを気にせず目の前にいるマウスを撃ち落とす事に集中する。

 追撃は後から来た17部隊と予備部隊がしてくれている。

 予備部隊だけなら心配だが正規戦闘員がいるなら気分もずっと違う。集中して目の前のマウスに向き合える。


 しばらくして、異変に気づいた。この曇り空。灰色よりも濃い雲が立ち込める中、なぜかマウス達の真ん中が光っているように見える。


『すみません、司令部。NTー21の東出です。マウス中央部分に光が見えるんですが、司令部で何か確認できますか?』


 戦闘の真っ最中だが、いつもと違うことだらけなんだ、異変があれば報告しなくては。


『確認する。少し待て……』


『ああ! 全員退避だ。すぐにマウスから離れろ。中央部分から熱放射確認。爆発する恐れあり! 逃げろ! 逃げてくれ!』


 司令部の無線は最後は懇願になっている。慌てて旋回して逃げる。攻撃してくるマウスに背を向けることになる。マウスの攻撃を避けながら逃げる。熱放射って……いつ爆発するんだ? 街は大丈夫なのか? いくら全員地下に避難していてもこんな攻撃今までにない。というか俺らが一番近いんだ。早く逃げないと。健太郎や南、青山先生、同じ学校の奴ら、同じ部隊の奴らが目に浮かぶ。みんな逃げてくれ。爆発するな一秒でも遅く!



 ドドドド、ドーン



 ものすごい爆音と多分熱風だろうが通り過ぎ、セイヴァーは吹き飛ばされ一時は制御不能になったがなんとか立て直せた。

 今は海の上で飛んでいる。ここまで飛ばされた。視界が悪いが街は煙をあげている。レーダーでマウスを確認するが一機も残ってはいなかった。



 司令部からの無線が入る。

『無事のもの部隊と氏名を!』


 すぐに部隊と氏名を告げる無線が次々入る。良かった。たくさん残ってるようだ。


『NTー21部隊 東出薫 無事です』

 思わず無事ですと言ってしまう。それに答えたかのように、


『NTー21持田健太郎』

 良かった。健太郎も大丈夫だった。


 その合間にも次々声が入る。


『NTー21 南真冬。爆風に飛ばされ海面に墜落、救助要請します。場所は………』


 もう聞いてられないすぐにその場所へ向かう。いた、もう機体を出て海面に浮かんでいるセイヴァーの上にいる。機体が沈みそうだ。俺は出来るだけ近づいて南の機体を揺らさないように降りていく。頼む届いてくれ。


 カツンと南の爪が当たった音がした。その後片手が俺のセイヴァーの肩の部分を掴んでいるのが見える。あと少しだ。すぐにもう片方の手も掴んだ。

 よし、少し揺れるがもう大丈夫だろう。もっと下に機体を下げる。南の顔が見えた、少し額を切ってるみたいだ。南は足をかけて俺のセイヴァーの肩に登ってきた。

 機体を起こしてコックピットのハッチを開ける。セイヴァーの手は片手はマウス攻撃用の銃があり、もう片手は盾を持ってるので手を使えなかった。セイヴァーは人を救助するためには作られてないのでどちらもしまうところもないし、銃も盾も手放す事はできない。

 南が肩からコックピットまで器用に歩いてきた。セイヴァーは一人用だが今はそんなことは言ってられない。この分だと負傷者の救助に駆け回ることになるだろう。無事を告げる無線の合間に救助要請が入っている。

「ありがとう。東出君」

「いや、いいよ。無事でよかった。無線入れるね」


『NT-21東出です。同部隊の南真冬を救助しました。多少怪我がありますが無事です。このまま軍の病院に運びます。南の機体セイヴァーはそのまま海へと水没しました』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る