第103話 翳りゆく部屋
ディディエ来日の翌日、日曜日なので叔父さんも時間があるということで早速都内を観光という運びとなった。
時差ボケ対策に向こうにいる時から徐々に生活リズムをこちらの時間に合わせて調整してきたという変人ディディエはまったく時差の問題を抱えていないようだ。
それにしてもディディエはわたしが女であることに何の違和感も感じていないようで、やはり秋菜が言っていた通り元々わたしのことを女子として認識していたらしい。
うぅむ……こっちとしては男同士という認識だったからなんか複雑。
観光はとりあえずお決まりの浅草となったのだが、秋菜がだったら花やしきにも行こうと言うので都合半日以上を浅草で過ごすこととなった。
浅草花やしき自体はあの独特のレトロな雰囲気を含めわたしも嫌いじゃないが、何しろ真夏の屋外はクソ暑い。
ディディエもいきなり日本の真夏の蒸し暑さを経験して面食らっていたようだった。
夏の定番お化け屋敷も最近の花やしきは三種類もホラーアトラクションとして充実しており本格的だ。
個人的には建て替え前の方が独特の情緒があって好きだが、今のやつは現代的だ。
伝統的な日本のお化け屋敷を楽しんでもらうならディディエには昔のバージョンを見てもらいたかったなぁ。
その後はスカイツリーと東京タワーをハシゴした。
本家エッフェルタワーのお膝元からやってきたディディエにとってどうなんだろうと疑問に思ったりしたが、意外に本人は喜んでいたようだった。
相変わらずのオタクっぷりのディディエはアニメイトにも行きたいと言い出したが、叔父さん達も一緒なのでそれはまた別に機会を設けようと説得した。
その辺は多分祐太の守備範囲だろうからヤツに案内してもらおう。
途中で何度かディディエがわたしに何か言いたそうにしていたので、折を見て話を聞いてみると、わたしに何か悲しい影が見えるとか怖いことを言われた。
詳しく聴いてみると、ディディエは時々他人のオーラみたいなものが見えることがあるそうで、わたしが悲しむようなオーラを感じるというのだ。
薄ら寒い予言みたいなことを言われて少々気持ち悪い気がするが、どうやらディディエは本気で心配してくれているようだ。
そんなことを言われると不安になるが、わたし自体に何か不幸が降りかかるという感じじゃなくて、周囲で起こることと関係してるのかもしれないと言う。
どちらにしても不吉なことに変わりはない。
願わくば気のせいであってほしいものだ。
ディディエはちょっと個性的な子、なんてお祖母ちゃんが言っていたのがふと思い出された。
こういう不思議なこと言う部分も含めてのことだったのかもしれない。
ディディエがまだ男の子だった時のわたしのことを女の子と認識していたというのもまさか将来こうなることが見えていたとかじゃないよな?
てな考えがふと脳裏を過ぎったが考え過ぎかなぁ。
夕食は銀座久兵衛で寿司。
すごい贅沢だけど久兵衛と言えばお祖父ちゃんの出番だ。ゴールデンウィークの時には久兵衛のケータリングなんていう贅沢極まりないことをしてくれたっけな。
まあダイジェスト的に言うとそんな感じでディディエ来日二日目は過ぎていった。
夜、取り立ててすることもなくシャッフルで流れてくる音楽を聴きながら漫画を読んでいると、PCメールの方に通知が来た。
珍しいことだなと思い開いてみると、なんと懐かしくもびっくりなことに、メールの主は丹代さんだった。
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華名咲さんへ
お久しぶり。元気ですか?
おかげさまでわたしはすっかり回復して、今は学校に通わせてもらいながら自衛のためになんと格闘技を学んだりしています。
これでも体を動かすのは意外と得意なの。
ところで一つ思い出したことがあります。
考えただけで恐ろしいことだけど、MSの研究の一環には人の人格の入れ替えというものがあったということです。
わたしが以前たまたま見てしまった例の資料の中にそのことも含まれていたのですが、最近不意にそのことを思い出しました。
その研究に関しても恐ろしい人体実験が行われていて、実験の継続や経過調査のために熱心な信者の医療機関が利用されているということが記されていたように思います。
具体的な医療機関名までは思い出せないけど、気になったので知らせなくちゃと思いました。
このアドレスは使い捨てなので、返信してもわたしは読めないの。
いつかわたしが一人で生きていけるくらい強くなったらまたあなたに会いたいです。
タンタンより
****
丹代さん……元気にやってるようで良かった。
わたしはちょっぴりジーンときて目頭が熱くなった。
いや、それより丹代さんのメールの内容でピンときたことがある。
人体実験、一般の医療機関、人格の入れ替え……。
このこと、十一夜君たちは知っているのだろうか。
明日にでも朧さんにコンタクトを取ってみよう。
丹代さんのことを懐かしむ気持ちとともに、別のクラスメイトのことがわたしの脳裏に暗い影を落とすのだった。
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