87話「闇を射抜く光の刃」
「「闇を射抜く光の刃、その先にあるのは希望の道……シャイニングビーム!」」
ミズキとエミナが、同時にシャイニングビームを放った。シャイニングビームは、倒れた騎士の上を通過しながら、射線上のモンスターを容赦なく焼き払っていった。
「ど……どうだったかな?」
ミズキが両手を前に付き出したまま、エミナの方を向いた。
「三分の一くらいは削れたかな……地面のウィズグリフも、少しだけど抉れて消えたから、モンスターが増える勢いは削げたと思う。本当に少しだけどね」
エミナも両手を前に突き出したまま、ミズキの問いに答えた。二人が両手を前に突き出しているのは、出来るだけの威力でシャイニングビームを撃たなければならなかったからだ。
「ミズキちゃんは馬車の中へ。後はミーナちゃんがやるわ」
エミナが言った。ミズキは、酷い怪我を腹部にしているにも関わらず、応急的な治療と痛み止めだけで立っている。今のシャイニングビームを使った時だって、体は激しい痛みと強烈な疲労感を感じているはずだ。
「ううん、大丈夫。まだ、もうひと頑張り……で済むといいけど……僕もまだ戦わなくちゃ。あの数は、ミーナ一人には無理だよ」
「ミズキちゃん……無理、しないでね」
「うん、分かってる」
ミズキは額に脂汗をにじませ、ふらふらと体を揺らしながら答えた。
「エミナ! アークスを!」
アークスを重そうに抱きかかえながら、ミーナがモンスター群から離脱してきた。
「足の怪我が酷いわ……すぐに馬車へ! 己の肉体こそ約束されし力、我が身にナタクの力を宿したまえ……ナタクフェイバー!」
エミナはナタクフェイバーで筋力を増強し、ミーナからアークスの体を預かった。
「酷い……骨が砕かれてるのかしら」
軟体動物のようにぶらぶらと揺れるアークスの足を見て、ミーナは顔をしかめながら馬車へと向かっていった。
「体力も魔力も、そこそこ回復してるみたいだけど……あとどれくらい打てるかな……闇を射抜く光の刃、その先にあるのは希望の道……シャイニングビーム!」
ミズキが、今度はモンスターの只中に居る二人の騎士の方へシャイニングビームを放った。
シャイニングビームの威力は、エミナと同時に放った時よりも大幅に落ちているが、それでも密集したモンスターの三匹は一撃で仕留められ、残りのモンスターにも傷を与えられているようだ。
ミズキのシャイニングビームによって殲滅されたモンスターの隙間から、二人の騎士が、ミズキの方へと飛び出してきた。
「闇を射抜く光の刃、その先にあるのは希望の道……シャイニングビーム!」
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えに走ってくる女騎士をかすめるように、ミズキはシャイニングビームを放った。女騎士の左側をシャイニングビームが通過し、女戦士を追撃する半数の敵を捉えた。
「はぁぁぁっ!」
体のそこら中に傷を作りながら、肩、そして胸に酷い傷が見受けられる女騎士だが、その攻撃は正確に、右側に纏わりついているブラッディガーゴイルの胴を仕留め、一気に切り裂いた。
「す……凄いけど……」
重傷を負いながら、二つの剣で次から次へとモンスターを切って回る女騎士の様子を目の当たりにしたミズキは思わず息を飲んでしまったが、すぐに気を取り直して、命からがらモンスターの只中を脱出してきた女騎士に駆け寄ると、声をかけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「う……た、助かった……の……?」
「いやー、まーた助かっちゃったかー、ツいてる男は辛いねぇ」
女騎士の後ろを、緑色の髪をした、茶色いローブの男も走っている。
「と、とにかく馬車へ!」
ミズキはひとまず、傷付いた女騎士を、馬車へと運ぶことにした。
「ミーナ! そちらの人! ここ、頼みます!」
「お、おう……休み無しだな、こりゃ……」
「ミーナちゃんに任せるぴょん! ここからは一歩も通さんぴょんよ!」
二人の返事を聞き、ミズキはこくりと頷くと、女剣士に肩を貸し、引きずるように馬車へと運んでいった。
「うぅ……っ」
「やれやれ、足の怪我はかなり酷いのう。エミナのトリートで、どこまで再生できるかというところじゃが……」
「全部は無理かもしれないけど……出来る限りはやってます」
エミナの額に汗が滲む。エミナの魔力では、これほど酷い傷をどれだけ治せるかは分からないが、出来る限り、最大に効果を引き出したトリートを使いたい。
「す、すいません、無理するなって言われたのに……」
アークスは、足に走る激痛を感じながら、約束を守れなかったことを悔いた。
「ん? ああ、無理はしていないって分かっておるよ。上手い具合に傷を庇いながら戦っておるようじゃ。激しい戦いがあった割には、傷口は開いておらんよ」
「そ、そうなんですか……」
「問題は足じゃな。後遺症が残らんといいが……」
「ヘーアさん!」
外からミズキの大声が聞こえたと思ったら、ミズキと、重傷を負った女騎士が馬車の中へと転がり込んだ。
「サフィー!」
アークスが叫ぶ。
「女の方の騎士さんかい、これは酷いな」
「ヘーアさん、僕よりサフィーのことを! 胸を貫かれて、肩もやられてるんです!」
「うむ、そうじゃな。アークス君の足も酷いのだが、そっちの方は、今にも死にそうな怪我をしとるようじゃからな。エミナや、難しいかもしれんが、同時に治療することにしようかの」
「はい! ミズキちゃん、そこに寝かせてくれる?」
「うん」
ミズキは馬車の中へとサフィーを引きずり込むと、アークスを乗せている方とは逆側の、もう一つの方の座席にサフィーを寝かせた。
「はぁ……はぁ……ああぁぁ!」
馬車の中へと運ばれて、敵た居なくなったせいか、サフィーは途端に悲痛な叫びを上げ始め、体も激しくくねらせた。
「こりゃたまらんな。ミズキどの、悪いが落ち着くまで体を押さえておいてくれんかな?」
「は……はい!」
「あ、それなら、私が片手で押さえるから、ミズキちゃんも片手で、そっち側を押さえて。それで、ミズキちゃんはトリートを、私はティア―ドロップで、この人を落ち着かせるわ!」
「ふむ、確かにその方がいいな、そうしてくれ」
「あ、は、はい。じゃあ……傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
ミズキが、まず命にかかわりそうな胸の傷にトリートを当てた。
「ああ、違う違う、そこを先に治すと槍を抜き辛くなるから、肩の方を治療して、痛みと消耗を和らげてやるんじゃよ」
「は、はい……」
ミズキはあたふたしながらも、肩の方へと、トリートの光を発している手の平を移した。
「
エミナの方は、心を静まらせる効果のあるティア―ドロップを唱えた。極度の興奮状態や、錯乱状態にある人を落ち着かせるには、これが一番有効だ。
「うぅ……痛い……ブリーツ……」
サフィーが、ミズキの方へと手を伸ばした。
「え……えと……」
「握ってあげて。誰かと勘違いしてるみたいだけど、きっと励みになるから」
「う……うん……」
ミズキがサフィーの手をそっと握ると、サフィーは少し安心した表情を見せ、目を閉じた。
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