46話「どす黒いオーラの球」
「しかし、闇属性ってことは、主に攻撃だな。補助はきつかろー?」
「いえ、そんなことないですよ」
「そっかー? ならいいが、もしアレなら後ろから攻撃魔法打っててもいいんだぞ。それはそれでサポートになるから」
「攻撃魔法ですか……」
「いや、無理に使えとは言わねーよ。補助がいいなら、補助を使えばいいさ……っと!」
ブリーツが後ろに跳躍し、ブラッディガーゴイルの火球を避けた。
「危ねえ危ねえ……」
「攻撃……か……」
ドドはそう呟くと、前に並ぶブラッディガーゴイルのうちの一体を見据えた。
「暗黒より
ドドの手から放たれた黒くて丸い魔力の塊は、真っ直ぐにブラッディガーゴイルに向かっていき、ブラッディガーゴイルの胴体に命中した。
「うごぉぉぉ!」
ダークボルトを受けたブラッディガーゴイルがもがき苦しむ。
「おっ、やるじゃねーかドド。結構効いてるぜ、ありゃあ」
「そ、そうみたいですね。魔法も真っ直ぐ飛んだし……」
「やっぱ、闇属性が得意属性なんだろうな、ドドは……ファイアーボール!」
ブリーツが、ダークボルトを受けたブラッディガーゴイルに向かってファイアーボールを放った。ファイアーボールはブラッディガーゴイルに当たると、爆発した。
「ふう。食いさしだから、ファストキャストでもどうにかなるよな」
「得意か得意じゃないかで、結構、違ってくるもんだな……」
ドドは、自分の手を見ながら、小さく呟いた。
「さて、敵さんの数はもう僅かだぞ。一気に押し切ろうぜ!」
ブリーツは魔法を放ちながら、ちらりと右奥の地面を見た。人が横たわって、血を流している。恐らくもう、息は無いだろう。
ブラッディガーゴイルが現れた時に、不幸にも近くに居た人達だ。
町の人たちは、ブラッディガーゴイルの姿や、異様な雰囲気を感じて新たに近づくことはなかったものの、最初にブラッディガーゴイルが現れた時に近くに居た人は守り切れなかった。
「鉄をも砕く
ブリッツストライクを唱えながらも、ブリーツはふと、思いにふけった。
準備が出来てなかったのを抜きにしても、あんなに近くにブラッディガーゴイルが現れたのでは、対処できるはずもなかった。とはいえ、こうして亡骸をまじまじと見せつけられると口惜しさを感じてしまう。
俺でこう感じるのだから、サフィーはもっとだろう。そう思いながら、ブリーツはちらりと館を見た。
あれからまだ、サフィーは館から出てこない。サフィーは無事なのか。館の中では何が起こっているのか。気がかりだが、まずは残りのブラッディガーゴイルを倒してからだ。
とはいえ、もうブラッディガーゴイルも残り少ない。ドドにも本格的に攻撃に転じてもらえば、すぐに片付くだろう。
「ドド、奴ら、もう残り少ないから、補助はいいや。一気にやっちゃおうぜ!」
「はい!」
ドドがブリーツと並ぶ。ブラッディガーゴイルの残りは、もう数えられるほどしか居なくなっている。ポチに任せれば、勝手に一掃してくれそうだ。ブリーツの頭にそんな事がよぎったが、本当にポチに任せたりすれば、ドドはともかく、ブリーツは、意図的に打ち漏らしたガーゴイルに怪我をさせられるか、ポチ自身にうっかりひっかかれて、やっぱり怪我をするかしてしまいそうだ。
「まったくよぉ……食えない犬だぜ……」
ぼそりと言った言葉が、ポチに聞こえたかどうかは分からないが、ポチは一瞬振り向いて、ブリーツを見た。一瞬だったので表情は分からなかったが、睨みつけているようにも見えた。
「くそー、なんなんだよ……そよぐ風、時にゆるりと吹きにけり、人の世もまた、同じものなり……ブリーズクリンキング」
ブリーツがブリーズクリンキングを唱えた。周りのブラッディガーゴイルの動きが鈍る。
「よーし……」
スタタタタ……とブリーツが小走りで駆け出した。
「ここら辺だな……」
ブリーツの前には、ブラッディガーゴイルが、直線的に四体並んでいた。ブリーツは、その隊列が乱れないうちに、急いでブレイズスラッシュを唱え始める。
「一発で四度おいしいぜ! 地を走る大火炎、それは
ブリーツの足元から、ブレイズスラッシュが一直線に地を走り、ブリーツの思惑通りにブラッディガーゴイルが炎に切り裂かれていく。
「よしよし、圧巻だな」
「うん……? 何だいポチ……あ……」
ドドはポチの視線の先を見た。ポチの視線の先には、一匹のブラッディガーゴイルが居る。動きは鈍っているのは、ブリーツのブリーズクリンキングが効いているのだろう。
「試してみろっていうんだね。よーし……暗黒より
どす黒いオーラの球が、ブラッディガーゴイル目掛けて飛んでいく。ダークボルトはブラッディガーゴイルに当たり、ブラッディガーゴイルは苦しんでいるが、標的をドドに合わせて、ドドの方へと手をかざそうとしている。
「ねえ、こいつ、仲間に出来るかな?」
ドドがポチの方を見る。
「そう……じゃあ、かわいそうだけど……」
どうやら、ポチは仲間には出来ないと言ったようだ。どういう風に意思疎通しているのだろうと、様子を見ていたブリーツは不思議でたまらない。
「もう一発……暗黒より
ドドが再びダークボルトを飛ばす。二回とも、ファイアーボールの時のように軌道が逸れることはなく、一直線にブラッディガーゴイルに向かっていき、胴体へと着弾する。
「やった……!」
ブラッディガーゴイルは、胸に受けた傷とブリーズクリンキングの影響で、身動きも取れずに地に伏した。
「でも……」
「かわいそうだとは思わなくていいぞ。あいつらは召喚魔法だ。召喚されて、対象を襲うため……今回なら、この町の人々を襲うために呼び出された存在なんだ。だから、使役するのは不可能なんだよ」
ブリーツがちらりとポチの方を見る。ポチは珍しく、ブリーツを睨まずに平然としている。
「あ……」
「おっと……気が抜けたかい?」
ドドがよろけたのを見て、ブリーツは少し体をずらしてドドを受け止めた。
「そうみたいです……」
「立てるか?」
「ええ……少し、落ち着きましたから……」
ドドがゆっくりと、ブリーツの手から離れる。ブリーツも、それに合わせてそおっと手を離していく。
「あんな怖いのを間近に見てしまったので、ちょっと怖かったです」
「だろうなぁ。気持ちは分かる。びっくりするよな。なんか、いかにも悪魔って感じで……うん……?」
ブリーツが、ポチの異変に気付いた。ポチがじーっと白い館の方を向いている。
「どうしたの、ポチ……ああ……」
ドドと同時に、ブリーツも白い館の方を向いた。そこに立っていたのは、必死にもがいている、身なりの良い男性だ。男性は白髪で、結構な老体だという印象を受ける。歳も相応だろう。
それを抑えているのはサフィーだ。
「おいおい、サフィー、大丈夫か?」
ブリーツは、取り敢えずサフィーに駆け寄ることにした。サフィーの事も気になるが、サフィーが羽交い絞めしている男性も気になる。いくら老人だとはいえ、今のサフィーは、所々から血を流し、傷ついている。あの様子だと、そう長くは持たなそうだ。
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