空を歩こう

 ゆっくり行こう。天気はいい。

 

 別に、こんな回りくどい事しなくてもパッと地上に降り立つ事だって俺には出来る。

 

 しかしそういうのは、あるリスクもあってね。

 うん、まあ、世界に優しくないんだよ。


 もう、あんま、こうやって動き回る事もないし。

 こうやってゆっくり世界に触れていると、生きている、と、少し心が暖かいから。


 よーし。歌っちゃえ。


 

 すすめー♪ 足掻あがけー♪ 撃ーちつくせー♪

 

 勝利の為ならー♪ 何も欲しがらずー♪ 全てに耐えてゆくー♪


 強い弾薬♪ 勇気の手紙♪ 傷薬とービスケット♪ 愛する人ーと君らの笑顔♪


 それさえあれば進んでゆける♪ それだけでーいいー♪



──結構欲しがってんじゃん。なんて、当時の軍歌をアイツと笑ってたっけ。


 微笑みながら、続けて俺はそのときガキどもの間で流行っていた曲を口ずさむ。

 


──と、何かが向こうの空からコチラにすごいスピードで迫ってきます。

 なんですか? UFOですか? 

 いや・・・・・・なんかグチャグチャした変なモノだ。


 でかい。

 縦百メートル、横百メートルくらいの変なの。

 丸くなったり、こう、びよーんって伸びたり、変なの。

──伝わったね? 大丈夫だね?


「なんか黒くて、キモい」

 俺は足を止め、すごい勢いで迫ってくる黒キモを特に慌てる事もなく見ていた。


 なんかバチバチとプラズマっぽいモノを撒き散らしながら黒キモは遂に俺の目の前に迫り、急停止した。


 でか。なんかキモ。

 ノイズが走っていて、その黒の中にたまに人の顔とか手足が浮かんでる。

 町? 城? なんか色んな風景みたいなのも浮かんでは消えてゆく。

──大丈夫だね?



「いつだってお前は成長したためしが無い」



 いや、初対面ですが。てかしゃべった。キモ。

 

 黒キモはこの星で使われている共通語でいきなり何か言ってきた。

 

 無礼なヤツだと思う。


 どうする? 謝っておくべきか? 

 いや謝ったら負けな気がする。

 

 待てよ、昔、学校の怪談でこんな感じの特殊なエンカウントの際に、答えを間違えると食われる的な話があった。答えは慎重、かつ状況から的確に推測されるべきである。

 俺は少しモジモジしながら考えた。



「──黒く、そしてキモい」



・・・・・・完全にアウトな気がする。


 みたまんま口にしてしまった。


 俺は生来の空気の読めなさで、周囲とのイザコザはしょっちゅうだった。

 違う、こんな風に言いたかったんじゃない。俺はもっとうまくやりたいんだ。

 そんな後悔の繰り返しだった。


 今回の件にしても、もっと言い方があったハズだ。失敗はバネにしなければ。

 俺は小さく咳払いをし、穏やかに言い直した。



「やや黒く、そしてキモい可能性も捨てきれない」



・・・・・・・そういう問題じゃないと思う。


 まず状況の意味が分からない。

 俺はナゼいきなり初対面の変なのにののしられ、モジモジしているんだろう。

 この黒キモは何でそんな配慮に欠ける発言をしたのだろう。

 なんかフワフワ浮いてるし。反応無いし。


──待てよ。

 黒キモだってほんとはこんな風に伝えたい訳じゃなかったのかもしれない。


 素直になれない。不器用。そういった部分で誤解を与えやすいというのは俺自身も苦悩にさいなまれた事ではないか。

 

 案外、似たもの同士なのかもしれないな。


「黒キモ・・・・・・」

 俺は黒キモからやや視線を外し、照れ隠しに小さく鼻をこすり声を漏らした。


「一緒に行くのか行かないのか。ほんとう、そういうトコロがね。お前は」



・・・・・・え、何ですか? 俺何かしました? 

 

 いや、初対面なんですよ。

 今更だけど色々おかしいよ。

 行くのか行かないのかって、ドコにだよ。なんか・・・・・・無礼なヤツだと思う。


 黒キモはフワフワと、俺はイライラとし始めた、その時だった。

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