第883話 魔王秘術

そうしている間にも兵器が量産され、一同の前に立ち塞がってその行く手を阻み、更に背後の出口も塞いでいく。

かつて無い兵器の大群に一同はこのままではジリ貧になる事を覚悟していた。


「このままじゃ、僕も皆も……こうなればやるしか無い!!」


天之御は内心で何かを決意すると魔王妖術の発動体制に入る、それを察知した兵器が天之御に狙いを定めようとするのを見た空狐は


「天之御殿下……!!この妖気は……皆、殿下の邪魔をさせないで!!」


と大声で叫ぶと同時に剣で兵器を切り裂き、攻撃の目を自分に向けさせる。


「空狐!?今の叫びは一体……」


その叫びに驚き、声を上げたのは岬であった、だが声を上げたのは岬だけだが驚いているのは岬だけではない、その場に居た全員がそうであった。

恐らくは空狐が大声を上げた理由、更には天之御が何をしようとしているのかを分かっていないのだろう。


「邪魔をさせないでって言っても……」

「説明している時間はないの!!」


状況が飲み込めていない事が明らかな声を上げる涙名に対し空狐は強くこう言い切る。

それを聞いた星峰は


「分かったわ!!邪魔はさせない」


と言い、空狐と同じく剣を持ち、より鮮やかな剣さばきで兵器を切り落としていく。

最も、これは経験の差という点が大きいのだろうが。

星峰に触発されたのか、その場に居た全員が同じ様に兵器に接近し、同じ様に兵器の攻撃を自分達に向けさせていく。

それから暫く経つと天之御が突如として


「皆……もういいよ、離れて!!魔王秘術……漆黒の虚無!!」


と叫び、前方にある兵器生産ラインの中心部分に突如として黒い大穴を出現させる。

その大穴は周囲にある兵器、いや、生産ラインを分子程にまで分解しつつ吸い込んでいき、その全てを消し去っていく。

そして大穴が収束した時、その場には何もない黒い空間が広がるだけとなっており、生産ラインと兵器は跡形もなく消滅していた。

前方に気を取られて気付かなかったが、背後の入り口周辺に集まっていた兵器も吸い込まれて消滅している。


「一体……何が起こったの……」


天之御の言葉通りに離れた涙名が困惑した声を上げる。

余りに壮大な事が起こった為に何が起こったのかを把握できていない様子だ。

その様子は他の面々も同様であった。

ただ一人、一同に叫び声を上げた空狐を除いては。


「く、空狐……一体何が起こったの……」


星峰がそう言って空狐と天之御の方へと視線を向ける、だがその先では天之御が膝を付き、荒い息を上げていた。

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