第636話 世界の呪縛

「転移妖術に違いがある?それは一体どういう事?」


星峰の言葉に最も強く反応したのは天之御であった、やはり自身も使う妖術であるが故にその関心も高いのだろうか、そんな天之御を見た星峰は


「今回ブントが移動に用いた転移妖術は天之御が用いている転移妖術と比べて移動時間もかかっているし目的地への精度も乱れ易い、つまりは安易な模造品の様な技術なの、その変わり量産出来ているのかもしれないけどね」


とその違いを端的に説明する。


「つまり……ブントは転移妖術も完全に掌握出来ている訳ではないと?」

「あくまで今回用いたブントはね。イェニーがその制御を完全な物にしていた可能性は十分に考えられるわ。でも権力欲が強いのであれば……」

「その技術を独占する事で出世を狙っていたかもしれないって事か……」


涙名が更に問いかけると星峰はイェニーの性格を踏まえた回答をし、それを聴いて涙名も納得した声と表情を浮かべる。


「確かに……地下を捜索するにあたって知ったイェニーと言う奴の性格からすれば考えられますね。一方で欠陥のある技術をそのまま使うとも思えません、逆に言えばそういう性格だからこそ技術を我が物にしたとも言えます」


豊雲がそう告げる事で星峰の仮説は益々信憑性を増す事になる。


「それは分かったけど、どうして今回ブントはそんな欠陥がある技術を態々用いたのか……いえ、それ自体は知らなかったにしてもどうして途中で急に出現したのか、それが気になるわね」


空弧がそう発言すると星峰はそれに対しても


「恐らく使用直後ではなく途中で何らかの不具合が生じた物と考えられるわ。それが偶然起きた物なのか、意図したものであるのかは現時点では判断出来ないけどね……」


と明確な返答をする。その返答内には引っ掛かりを覚える様な部分も見られたがその場に居る一同が敢えてそれに触れる事は無かった、星峰の言いたい事が何なのかは既に分かっていたからだ。


「だけど、たとえ不完全であったとしても転移妖術をブントが持っているという事は大きな脅威になる、それに今回の兵士が人族部隊と戦闘している時、突然戦闘能力が向上したという現象も気になる」


天之御がそう話を切り出すと他の面々の表情も変わる、やはり彼等も今回の兵士の一件については疑問に思っていたようだ、それを聴いて八咫は


「その件についてなんだが……確証は持てないが、思い当たる節が俺には一つだけある」


と口に出す、その言葉を聞き、その場に居た全員の視線が一斉に八咫に向く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る