第476話 神の名を刻む記録

「ユダヴェ!?それって確か……」

「そう、人族がこぞって信望している神の名前よ。それがあの世界にも記述されていた。いえ、それだけならまだ気になる程ではないかもしれないわね。でもあの世界では単にユダウェとしか記述されていなかったの」


天之御の顔が思わず歪な物となる。人族が信望している神であれば当然魔神族にとっては敵と認識できる存在であり、それ自体は別に不自然でもなかった。だが星峰が続けた言葉により、天之御も何かを察したような表情を浮かべる。


「つまり、あの世界の人族は、否生命はユダヴェを信望してはいなかった。その可能性があるって事だね」


その表情を浮かべたまま星峰に問いかける天之御、その問いかけに星峰はまず頷く動作を見せると


「ええ、信望している神様に対して継承もつけずに呼び捨てにする等罰当たり以外のなんでもないわ。無論、その日記を書いた存在が魔神族である可能性もあるけど……人族と魔神族が共生していた事、あの日記は明らかに複数の生命の手によって書かれていた事を踏まえると……」

「ユダヴェがあの世界で信望されていなかったかもしれないっていう仮説に辿り着くって訳だね。そして、もしそうだとするならあの世界でユダヴェは……」

「ええ、その可能性はある……むしろその可能性の方が高いかもしれないわね。前後の文脈から考えても」


星峰と天之御はこの上ないあった呼吸で会話を続けていく。そしてその会話は彼等を恐ろしい仮設へと導いていくのであった。


「もしそれが事実だとしたら、もしかするとこの世界で起こっている戦乱も、ブントと言う組織も……どうやらこの戦乱、想像以上に根深い物が蠢いているのかもしれないね」


仮説を一通り突き詰めたのか、天之御はそう語って星峰にバトンを渡す。


「ええ、もしこの仮説が当たっていたら……この事は他言無用としておいた方が現時点では良さそうね。余計な動揺を与えて任務に支障をきたしたくはないわ」


星峰はそう言って会話を終えようとする、だが天之御は


「ところで星峰、君はどうしてそこまで淡々と仮説を語れたの?君も元は……」


人族であったならと言いたいのだろう、それを見越したのか


「私は元々神を信じて縋るような生き方はしてこなかったから。まあ、信じること自体を否定はしないけどね」


とその言葉を遮る様に返答し、その顔に僅かな笑みを浮かべる。その笑みに天之御も何処か安心したのか、釣られたのか、同じく僅かではあるものの笑みを浮かべ、星峰の目を直視する。

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