第464話 揺り籠の謎

星峰が機械の画面を注視している間、他の面々は部屋の中の他の部分を調べるものの、特に目ぼしい発見は無く、そこは何の変哲もない託児所である事をより強く印象付けるに過ぎない結果となった。だが一同にとってそれは逆に不気味な雰囲気を感じさせる。それ程までに彼等の中には先史遺産=戦いのイメージがあったのだ。


「え……一寸、此れって……成程、そういう事だったのね」


すると星峰が突然驚きの声を上げたかと思うと直ぐに冷静さを取り戻し、何かを確信したような印象の喋り方をする。その発言に他の面々もすぐさま反応し、星峰の方を注視する。


「何か分かったの?」


空弧がそう口火を切る。


「ええ、この施設に何故防衛兵器が配備されていないのか、その理由はこの街そのものが一つの施設として管理されていたからよ」


空弧の問いかけに対し星峰はそう返答する。だがその内容は当然直ぐに噛み砕ける様な物ではなかった。その意図を理解しかねているのか、殆どの面々は困惑した表情を浮かべる。


「つまり、この街そのものが生命の飼育施設として建設されていた、そういう事?」


天之御がそう問いかける。どうやら星峰の話した内容について理解はしている様だ。だがその声にはやはり困惑の印象を受ける。


「その通りよ。この街は街の中に揺り籠があるんじゃない。この街そのものが揺り籠なのよ。生命を生み出し、育てる為のね。つまり防衛戦力は配備されていなかったのではなく、私達が気付いていない内に迎撃していたのよ」


星峰はこう続ける。その言葉を受けて他の面々も何となくではあるものの状況は飲み込めた様子だ。


「ここに来るまでに迎撃してきた兵器が防衛戦力だったって事か……でもどうしてこの建物自体には防衛戦力を配備していないんだろう?外で防ぐのは戦術的に見て正しい選択だけど全くの丸腰と言うのも不用心すぎる」


天之御と同様、こう話す涙名も事態について理解はしているのだろう。だがどこか納得がいかないという雰囲気は言葉から感じられる。


「涙名の言いたいことも分かるけど、此処から得られているデータから判断する限りこの施設内に防衛用の兵器は配備されていないのよ。無垢な子供に争いを教えたくはないのかもしれない」


そう回答する星峰だがその内心は自分自身、こんな結論しか思い浮かばない事の情けなさが少なくとも部分的には存在していた。だがそれ以外の結論が全く思い浮かばないというのもまた事実である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る