第380話 自己矛盾

「取り敢えず現時点ではあの施設はブントの手に落ちてはいない様だ。それはせめてもの救いと言えるね」


天之御はそう口では言う物の、表情には心配と不安が隠しきれていない。こう口にする事で自分自身にそう言い聞かせているのが痛々しい程伝わってくる語り方だった。


「ええ、そしてその時間を使えば、まだこちらに体制を整え、調査をする余裕はあるわ。となるとワンカーポから出来るだけブントの視線を逸らしておきたいけど……」


星峰がこう続ける。天之御に配慮しているのか何時もに比べて鋭さはやや抑えめの様にも思える話し方だ。その為か周囲の反応も何時もより鈍い。


「今の時点でもブントの視点は西大陸の方に向けさせられていると思うが……」


八咫がそう言って星峰の言葉を肯定しようとすると涙名が


「兵士の方についてはね。けどブントの上層部が次は何処に狙いを定めているか、その点は今の僕達には全く予測がつかない。万が一にもワンカーポの地下経由であの施設の存在を知られたら間違いなく狙ってくるだろうからね」


と言い、上層部の眼が違う可能性がある事を告げる。それには八咫も納得するしかなく


「そ、そうか……」


と一声漏らし動揺した顔を見せる。如何やら本当にこの視点は抜け落ちていたようだ。


「それにしても、あんな近くにブントは施設を作った、或いは利用しておきながらどうしてあの施設には手を付けていなかったのでしょう?直ぐに気付きそうなものだと思うのですが……」


岬がそう疑問を口にすると天之御は


「そこに手を出す前に僕達が制圧したのか、それとも何か別の理由があるのか……考えられるのはそんな所だね。勿論それ以外の可能性も考えられはするけど」


と返答する。だが返答はしたものの、岬の疑問も最もではあり、天之御も内心ではその事を考えていた。それはつまり、今自身が出した返答に自分で納得していないという事の表れである。それが表情に出ているのか、それとも単なる偶然かは不明だが直後に空弧が


「確かにそう考えれば一応の辻褄は合いますが……」


と納得している様で疑問を口にする一言を呟く。だがその直後、その部屋に豊雲が入って来る。それに気付いた涙名が


「豊雲さん?いきなりどうしたんですか?」


と問いかけると豊雲は


「天之御様、先日調査を依頼した先史遺産の解析結果が出たという事です。それについてお伝えしたいので来てほしいと」


と話す。だがその話声は息切れしており、明らかに焦って入って来たのは明白であった。


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