第183話 劣悪なる決戦の時

「豊雲?何があったの」


その焦り具合から何か良からぬ事が起こった事は察しがついたのか天之御は何かが起こった事を前提として話しかける。


「ワンカーポに送り込んだ偵察員からの情報ですが、東の大陸全域を対象とした大規模な殲滅作戦を近々行うつもりだという情報が入ってきました!!」


息を切らしながら豊雲がした返答はその予想通り、いや予想以上に悪い回答であった。天之御を始め、その場に居た全員がその顔色を曇らせる。


「何ですって、大陸全土を対象にした殲滅作戦を実施する!?」


空弧が思わず問い返す。


「はい、ワンカーポを初めとする人族の領域下にある街の戦力を全て動員し、大陸に居る魔神族を殲滅するという事です。既に他の街にも伝令は行き届いており、我が方への協力者からも裏付けが取れています」


問い返しに豊雲はより詳細な説明を返す。それはその伝令が事実である事を裏付けるには十分すぎる証拠であった。


「伝令が既に伝わっているという事は恐らく大陸のトップの許可も下りているのでしょうね。だとしたら不参加を表明する事も困難でしょう。

この状況で不参加を表明すれば反逆者の烙印を押され、纏めて排除されかねません、或いは最初からそれを狙っているのかもしれません」


嘗て大陸の上層部に身を置き、他の大陸との交流経験もある涙名が言うその言葉は重くのしかかる。このままでは協力者の身が危ない事が容易に想像出来たからだ。


「ワンカーポ……何時の間にそれだけの戦力を蓄えていたの」


声を震わせる岬。


「コンスタリオ小隊に新型兵器を渡したのもこの作戦の布石だったのかもしれませんね。他の部隊に運用させ、既に量産している事をカムフラージュする為の。

何れにしてもこのままではこちら側にも協力者にも甚大な被害が出る事は避けられません。それを阻止する方法は……」


星峰が冷静に状況を分析するが、この状況を打開する策は最早一つしか考え着かなかった。


「作戦が実行させる前にワンカーポを陥落させる……だね」


星峰の心境を読み取ったのか、天之御がそう答える。それに対し星峰は黙って首を縦に振り頷く。


「作戦戦力の中枢を叩き、空中分解させるという訳ですか。しかし、戦力の中枢という事は……」

「ええ、その戦力を全て相手にすることになる。本来であれば無謀としか言い様のない行動よ。でも現状でこちらへの被害を抑えるにはそうするしかない。それも私達を中心にしてね」


豊雲の不安げな声に続き、更に劣悪な現状を告げる星峰。だがそれを否定出来る者は居なかった。各街の防衛戦力を削る訳にはいかないと言う事も分かっていたからだ。

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