第72話 英雄の言葉
「そう、僕だよ」
改まった顔でそういう天之御、だが星峯はその顔を先程までとは全く違う意味で捕えていた。目の前にある顔、それは幼い日の忌まわしき記憶であるあの日、自身の手を引きウェスフォースタウンから脱出させてくれたあの顔そのものだったからだ。
「じゃ、あの時私を助けてくれたのは・・・」
「それも僕。だから空弧が君の事を伝えてきた時、何て運命の巡り合わせなんだろうって、正直思った。まあ、魔王が運命なんて言葉を使っていいのかって気もするけどね」
ずっと憧れ、再会を望んで居た存在、それが今目の前にいる、否そうだと気付かなかった。その事を知った星峯は只唖然とするが天之御は照れ隠しの微笑を浮かべる。
「でも、どうして貴方がブントにの部隊に・・・」
星峯の内心に浮かんだ疑問は当然であった。何故あの時襲撃してきた部隊の構成員が自分を助けてくれたのか、その部分だけでも内心を疑問で埋め尽くすには十分過ぎる。
「あの時、僕はまだ魔王では無く、魔神族の部隊員だったんだ。そしてウェスフォースタウン、否僕達は西四十街って呼んでるけどそこをブントが襲撃する計画を知った。でも当時はまだブントの存在もそこまで知られておらず、魔王である父にもその計画を止める事は出来なかったんだ。
そこで父はその部隊に僕を加え、ブント討伐の協力者である君達を保護する様に命じた。でもそれは間に合わず、君の御両親は救えなかった。何とか君だけは助け出したけどね」
星峯が質問する前に天之御は応える。だがその顔は微笑が消え、変わって悔恨が浮上していた。それを見た星峯に天之御を責める気持ちは無い。あの時助けてくれなければ今こうして会話する事は出来ないと分かっているからだ。
「その作戦は私も聞いた事があります。ですが、どうして星峯の自宅は無事なのに御両親は・・・」
岬は質問仕掛けるが、その質問内容にしまったと思ったのか途中で言葉がしりすぼみになり、星峯の顔を見る。
「構いません、続けて下さい」
岬の心境を察し、天之御に話を続ける様に問う星峯。自分でもこの状況ならそう聞くだろうとは思っていた。だから岬を責める事はしなかった。
「人族側のブントが星峯の御両親を迎撃部隊の前線指揮に派遣したのさ。数で捻じ込んで確実に仕留める為にね。勿論その部隊は素人が取り繕った様な寄せ集め部隊。あれだけ抵抗出来たのが奇跡だよ」
そう語る天之御の表情には悔恨に加え怒りが感じられた。今まで見せた事の無い表情だ。
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