第6話 誤解と生徒会

 奈瑠が生徒会に入って1週間が経った。あの後、未琴には避けられ説明もまとも聞いてくれない状況が続いている。同じ教室で過ごしていることもあり話しかける機会は、たくさんあったのだが声をかけると逃げていく。生徒会でも話そうとするとすぐ話題を他のメンバーに振って避ける。会長や奈瑠、小春も気づいているのに面白そうに見ているだけだし。さて、どうしたものか……話を聞いてもらわないことには誤解されたままだ。気まずいままでは、生徒会の仕事にも影響が出る。


 んん!?生徒会の仕事……1つのアイディアが頭を過ぎる。俺は、ある計画を実行することにした。


 放課後の生徒会室


 普段通り集まって作業を行う。生徒会への投書を処理していく。投書の内容は、さまざまだ。部活予算の値上げや学園内の破損箇所の修理依頼、時には人生相談、恋愛相談、何でもありだ。そして、今回俺は、これを利用した。今、投書の処理をしているのは、未琴と俺と小春の3人だ。未琴に投書の紙渡す時、その中に俺の書いた先日の説明を混ぜる。そして、未琴がそれを読んで無事解決。我ながら良く思いついた。


「先輩、なにニヤついてるんですか?気持ち悪いですよ」

「えっ!!ニヤついてた?ちょっと考え事してて」


 思わずニヤけるなんて、まぁ解決もすぐそこだ。


 さて、実行に移すか。未琴に投書と俺の紙をスッと渡す。未琴は一つ一つ読んでいる。さぁ、もうすぐ全てが解決する。すると


「未琴さん。こっち終わったんでそっちの貰いますね」


 小春が未琴の前にある投書+俺の紙を持っていく。


「あっ!!小春!!」

「はい?何ですか先輩?」


 まぁ小春が見たら未琴に渡すだろうと思い


「いや、なんでもない」

「そうですか?」


 小春に渡った紙を気にするも小春は一向に未琴に渡す気配はない。

 小春に渡ったのは勘違いだったのだろうか?そして、しばらくそのまま作業が続いた。


「未琴先輩、未琴先輩宛の投書来てますよ」

「えっ、ありがとう。どれどれ……!!」


 小春から受け取った投書を見て明らかに動揺し顔を赤らめている。


「あっ、こっちに先輩宛の投書もありますよ」


 小春が見つけた俺宛の投書。俺に投書なんて今までなかったのに何かと思い開く。

 書いてある内容に驚き固まる。


 『東城明人様

 あなたに大切なお話があります。

 今日の放課後、生徒会が終わった後で構いませんので

 体育館裏に来ていただけないでしょうか?

 来ていただけるまでずっと待っています』


 差出人の名前はない。これは、あれか!?ラブレター的なやつか。小春はこの内容を読んだのだろうか?


「こ、小春、この投書読んだ?」

「読んでませんよ。折りたたまれて裏に先輩の名前書いてあったんで」


 小春は読んでいないらしい。こんなの読まれたら絶対見に来るし、後でなにを言われるか分かったものじゃない。


「そっか」


 小春にばれないよう冷静を装い一言で返す。


 さて、どうしたもんか。来るまで待ってると書いてある以上行くしかないか。

 そこから、作業終了までは、1時間かかったが、それはもう、とても長い時間を過ごした気分だった。緊張と困惑、来るのは誰なのか、どう答えるか。頭の中をいろんなことが錯綜さくそうしている。そして、生徒会の作業が終わった。


 いつも通り、みんなで帰ろうとすると未琴が


「あっ、私、少し用事があるので先帰っててください」


 そう言って慌てて生徒会室を出て行った。俺も手紙のことがあるが誰かに見られるのは当然嫌だ。校門まで行ってからにしよう。


 全員生徒会室を出ていつものように駅へ向かうため歩き出す。しかし、俺は校門を出てすぐに、


「教室に忘れ物したわ!!先に帰ってて!!」


 これなら流石に着いて来ないだろう。後ろを確認するが大丈夫そうだ。

 急いで体育館裏へ向かう。


 体育館裏に着くとそこには1人の女子生徒がいた。


「あのー俺に投書くれたのは君かな?」


 そう呼びかけると


「えぇ?呼び出したのはそっちでしょ?」


 聞き覚えのある声に耳を疑った。女子生徒に近づいていくとまさかの


「み、未琴!!なんで、お前がここにいるんだ?」


「それはこっちのセリフよ。明人がなんでここに、私はその……これ貰ったからよ」

 未琴の手にあるのは名前だけは違うが俺と同じ文章の紙だった。

「ちょっと待て!!俺も同じの貰ったんだが?どういうことだ?」


 意味も分からず混乱し沈黙する2人。そんな沈黙を先に破ったのは未琴だった。


「あぁ~もういいわ。よくわかんないし誰かのイタズラでしょ。忘れて帰りましょ!!」

「そうだな、帰るか。そういえば、未琴、俺の説明読んでくれたか?」

「なんのことよ?そんなの見てないわよ」


 どういうことだ?紙は中に入れたし、投書は全部確認したはず、なのに見ていない。


 これは、まさか……小春か!!ということはどこか近くに


「小春!!近くにいるんだろ、出てこーい」


 すると、近くの茂みの中から小春と奈瑠、会長までもが出てきた。


「あはは、ばれちゃいました?面白い展開になると思って仕掛けたんですけど?ダメでした?」


 小春を問い詰めると俺の書いた紙を見て思いついたらしい。未琴の反応を見て面白かったから、ついでに俺にも同じものを渡したらしい。


 本当は、生徒会が終わったら話すつもりだったが、俺の反応が予想以上に面白かったのでそのまま本当のことを黙っていたらしい。そして、俺が向かったのを確認して裏から回って来たとのことだ。


「そうだ、未琴さん、これ渡すの忘れるところでした」


 小春から未琴へ1枚の紙が手渡される。未琴はその紙を広げ読み始めた。

 読んでいるうちにまた顔が赤くなっていく。


「小春、何渡したんだ?」

「えっ?先輩の書いた説明文ですけど?」


 てっきり捨てたと思っていたが律儀に持っていてくれたか、説明する手間が省けていい。しかし、なぜ赤くなっている?誤解を解くためだけの文章のはずだが?


「未琴どうした?」

「わ、私ずっと勘違いして……恥ずかしい……明人がずっと話そうとしてたの、この事だったのね。なんかごめんなさい」


 それで、赤くなってたのか。


「気にするなよ。もともとは未琴は悪くないんだし、謝るのはどちらかと言ったら俺の方だし、奈瑠があんなこと言って悪かったな。あれでも冗談のつもりだったんだよ」

「うん、明人ありがとう」


 これで、奈瑠のことも大まか分かってくれただろう。ひとまずこれで誤解も解けて

 一段落。


 この後は、いつも通り5人で帰ることになった。


 4月中旬を過ぎ桜も散ってしまった帰り道、5人で帰るのはこれが初だ。生徒会が5人になって1週間、ようやく生徒会が成立したような気がするのであった。

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