第387話 裏切り者は許さない

 良きイメージが悪きイメージへと変わった。


 呂布軍の将兵たちの顔色は、デスラーの顔色よりも青ざめており、この世の終わりと言わんばかりに絶望の表情を見せていた。

 そして、そんな彼らの大将である呂布はと言うと・・・


「・・・・・・・(フルフルフル)」


 無言でフルフルと震えていた。

 拳を強く握り、無言のままに震えていた。


(陳珪・・・陳登・・・)


 裏切り者二名の顔を思い浮かべ、怒りと憎しみのボルテージが高まって行く。

 握る拳に熱が籠り、手の甲より血管が浮き上がっている。

 しかし、そんな激しく揺れ動く心情とは裏腹に、彼はその場からまるで動こうとしなかった。


「しょ、将軍・・・?」


 将兵たちは恐れながらも声をかけた。

 このまま黙って時を過ごすわけにもいかぬと考えたからだ。


「あの・・・その・・・これからどういたしましょうか?」


 この問いがトリガーとなった。

 怒りが沸点を越え、静かな怒りが沸き立つ怒りへと変わった。


「ふ・・・ふふふ・・・あはは・・・あはは・・・あははははははは!糞がッ!!」


 笑い声より放たれた怒りの声に、将兵たちは震えあがった。


「あの陳チンどもめ!俺がいかに寵用ちょうようしてやったと思っている!いかに俺が目をかけてやっていたと思っている!!」


「なのにあの糞父子は俺を裏切りおった!苦杯を飲ませて虚仮こけにしおった!!」


「許すまじ!ああ、許すまじ!許すまじ!!」


「俺は奴らを絶対に許さん!奴等親子を断頭台にかけ、首を落として蹴鞠けまりの代わりとし、亡き姿を大衆の目に曝させねば、この怒りは収まらぬ!!」


「者ども!小沛へと向かうぞ!裏切り者を粛清だ!!」


 呂布の叫びに、将兵たちはサッと姿勢を正し、


「「サー!イエッサーーーッ!」」


 と、声を合わせて隊列を作り、足踏み揃えて小沛へと駆けだしたのであった。

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