第349話 勝利に犠牲はつきもの

 曹操にとって、この戦は負けるわけにはいかなかった。


『弱みを見せればたちまちつけいられる時代』


 張繍に敗れ、袁術にも敗れたとあらば、世間の大名は「曹操、恐るるに足らず!」と、なめてくるに違いない。

 また、彼の仲間も「曹操は不甲斐ないチ〇ポコ野郎だ!」と思うだろう。

 だからこそ、この圧倒的に不利な戦において、曹操は軍を退くことをせず、頑なに勝利を求めたのである。


 城攻めの最中、曹操は自らほりぎわに立ち、


「城を登れ!駆け上れ!濠を埋めて押し進め!城内城中焼き払うのだ!!」


 と、必死に下知を飛ばす。

 しかし、敵も必死である。

 大木や大石を城壁の上より転がし、登りくる曹操軍を撃退する。


「あいたたたたたたた!」


「止めて!止めて!止めて!止めて!止めて!」


「勘弁してくださーーーーーい!!」


 石に当たり、大木に押しつぶされ、濠は死骸で一杯になりそうな勢い。

 その凄惨さに恐れをなしたのか、身をすくめたまま動こうとしない二人の副将がいた。


「この卑怯者ッ!!」


 動かぬ二名に対し曹操は刃を振い、見せしめとばかりに二人の首を刎ねた。


「臆病風に吹かれた者は私が成敗する。・・・さぁ、突っ込むのだ!!」


 曹操の鬼気迫る表情と怒声を聞いた将兵たちは震え上がり、重い足を動かして、さらなる城攻めに興じる。


「・・・異常だ。異常過ぎる。今日の曹操軍は変態だ。」


 城を守っている将たちは、曹操軍の常軌を逸した城攻めに恐怖した。

 そこにわずかな隙が生まれた。


「今だ!飛び掛かれ!城にしがみつき、よじ登れ!!」


 曹操は口だけの男ではなかった。

 自身、馬を飛び降りると土を運び、草を投げ込み、一歩一歩、城壁へと肉薄した。


「「殿に続け!後れを取るな!!」」


 軍威は奮い立った。

 一隊は城をよじ登り、城内にて剣を振い、内部より城門の鎖を断ち切った。

 そして、破れた一角より兵たちが洪水のように流れ入る。

 こうなっては、後は殺戮しかない。

 李豊りほう以下の城兵は生け捕られるか殺され、自称皇帝の袁術が建てた偽りの宮殿は火にかけられ崩壊した。


「やった・・・ついにやったぞ。」


 燃える城を眺めながら呟く曹操。


 その勝利の犠牲は多く、彼は手を叩いて喜ぶことが出来ないのであった。

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