第347話 生きるのは大変

 兵士の仕事は文字通り命がけである。

 あるじのために体を張って敵を打ち破り、あるいは体を張って守り抜く。

 自分が死んでもお構いなし。誰も気にも止めやしない。


 代わりなどいくらでもいる。


 それが兵士という仕事である。


 では、何故このような過酷な労働環境に身を置こうとする者たちがいるのか?


 その理由は様々だが、最も多い理由として考えられるのは『仕方なく』である。


 兵に志願する者たちの大半はである。


 貧しさだったり、故郷を追われたり、暮らしが立ちいかなくなったり・・・。


 出世を目指して兵に志願する者など少数中の少数である。


 如何に食い扶持にありつけるか?


 これが彼らにとっての全てである。


 そして、今、曹操は仕方ないとはいえ、彼らの食い扶持を減らしていた。

 当初約束していた食料配給率を格段に減らしたのである。

 当然兵たちから不満の声が上がる。


「約束が違うぞ!こんなモノで戦えるか!!」


 一日五合の食糧配給が、一合五しゃくにまで減らされた。(1勺=0.1合)

 しかも質の悪い悪米を配られているとあらば、彼らの怒りも当然のことであった。


 この怨嗟の声は曹操に集まっている。


『喰い物の恨みは強い。』


 自らの発言により招いた結果とはいえ、曹操は頭を抱えた。


(・・・やむを得まい。)


 奸雄の瞳が黒く淀む。


(勝つために・・・勝利のためには非情の手段も必要だ。)


 覚悟を決めた曹操は糧米総官の王垢を呼び寄せたのであった。

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